年休の計画的付与制度を導入しています。夏季(7月〜9月)には3日分を交替で取得させています。しかしある従業員が、上記3日分を10月に取得したいとの申し出がありました。要望に応じなければいけないのでしょうか?

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回答

年次有給休暇の計画的付与制度が、法律の規定通り適切に運用されていれば、要望に応じる必要はありません。

適切に運用されているかどうかのポイントは下記の通りです。

・労働者に与えられる年次有給休暇の日数のうち5日分は、個人がいつでも自由に取得できるようになっている。

・計画的付与制度導入に関する労使協定が締結されている(労働基準監督署への提出は不要です)。

・労使協定により計画的付与制度の実施を可能とする旨が、就業規則に記載されている。

・労使協定に取得時季日数が明記されている。*取得時期を「通年で取得」と定めるだけでは、計画的付与の要件を満たしません。

下記解説で述べる通り、2019年4月より年次有給休暇を労働者に取得させることは会社の義務になっています。

その中で、年次有給休暇を確実に取得させるのに、年次有給休暇の計画的付与制度は有効な手段といえます。

計画的付与制度のメリットは、下記の通りです。

労働者:ためらいなく年次有給休暇を取得できるようになる。

事業主:労務管理の負担が軽減され、計画的な事業運営も期待できる。

補足

労使協定において全従業員を対象に計画的付与制度を導入するとした場合、締結相手の労働者の過半数で組織する労働組合に加入していない労働者も計画的付与制度の対象となります。

*ただし判例では、労使協定の適用が著しく不合理または不公正である場合は、労使協定の効果は労働組合未加入の労働者には及ばないとしています。

「いわゆる過半数組合との協定による計画年休において、これに反対する労働組合があるような場合には、当該組合の各組合員を右協定に拘束することが著しく不合理となるような特別の事情が認められる場合や、右協定の内容自体が著しく不公正であって、これを少数者に及ぼすことが計画年休制度の趣旨を没却するといったような場合には、右計画年休による時季の集団的統一的特定の効果は、これらの者に及ばないと解すべき場合が考えられなくもない。」

三菱重工業長崎造船所事件 長崎地判 平成4年3月26日

三菱重工業長崎造船所事件では、労使協定締結相手の「労働者の過半数で組織する労働組合」に加入していない労働者側が訴訟を提起しました。

しかし第一審・控訴審ともに、労働者側の訴えは棄却されました。

厚生労働省 参考サイト

「年次有給休暇の計画的付与制度」 
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kinrou/dl/101216_01e.pdf

年次有給休暇取得促進特設サイト」 
https://work-holiday.mhlw.go.jp/kyuuka-sokushin/index.html

解説

年次有給休暇の計画的付与制度の概要

労働基準法第39条第6項 (年次有給休暇の計画的付与)
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項から第3項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる。

年次有給休暇の計画的付与制度とは、

労使協定を結べば、年次有給休暇のうち5日を超える分を、計画的に休暇取得日として割り振ることができる制度

です。

逆に言えば最低5日分は労働者に自由に利用させなければいけません。

年次有給休暇取得促進特設サイト https://work-holiday.mhlw.go.jp/kyuuka-sokushin/jigyousya2.html

年次有給休暇の計画的付与制度導入における労使協定

労使協定は、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」と締結する必要があります。

労使協定で定めなければいけない内容とポイントは下記の通りです。

  • 計画的付与の対象者
    計画的付与の対象者を限定することは可能です。
    育児休業や産前産後休業に入る労働者、定年退職予定者など、計画的付与の対象から除外する者についても定めておいた方が良いでしょう。
    なお、5日を超える年次有給休暇が割り当てられる労働者であれば、パートタイマーなどの雇用形態を問わず対象者とすることができます。
  • 計画的付与の対象となる日数
    前年度分からの繰越がある場合には、繰越分の日数を含めて5日を超える部分が対象とします。
  • 年次有給休暇の日数が不足する労働者への対応
    お盆の時期等に一斉取得をさせたいのに、法律上はもちろん会社の規則上でも年休が付与されていない労働者がいることもあります。
    その場合は、①取得させない②特別な休暇を付与する③休業手当を支払って休ませる、といった対応を行う必要があります。
  • 計画的付与を実施する方法
    下記解説「年次有給休暇の計画的付与制度の方法」をご覧ください。
  • 計画的付与日の変更について
    計画的付与制度により決まった休暇日に関して、原則は、事業主側・労働者側双方とも日程の変更はできません(時季変更権を失います)。
    それでも、変更が必要なこともあるため、例外的に労使双方合意の上での日程変更があり得る旨を定めておくことをおすすめします。

年次有給休暇の計画的付与制度の実施状況

独立行政法人労働政策研究・研修機構は、2020年に実施したアンケートの結果について下記のように述べています。

「企業調査の年休の計画的付与制度の導入状況によれば、「導入されている」とする企業割合は42.8%となっている。」

調査シリーズNo.211 年次有給休暇の取得に関するアンケート調査(企業調査・労働者調査) https://www.jil.go.jp/institute/research/2021/211.html

事前に計画的に年休取得日を割り振ることで、労働者はためらいを感じることなく年次有給休暇を取得することができます。

そのため、年次有給休暇の取得促進を図るために、年次有給休暇の計画的付与制度を導入する企業が増えています。

年次有給休暇の取得率向上が政策課題に挙げられていることもあり、今後導入する企業は増えていくと思われます。

なお企業規模によって、計画的付与制度の導入割合が異なるということもありません。

従業員数が、「30人から99人」が42.2%、「100人から299人」が45.0%、「300人から999人」が46.9%、「1,000人以上」が46.4%です。

年次有給休暇の計画的付与制度の方法と導入例

導入に当たっては、企業や事業場の実態に応じた方法を選択すれば良いでしょう。

①企業もしくは事業場全体の休業による一斉付与方式
 全労働者に対して同一の日に年次有給休暇を付与する方法です。
 製造業で実施されることが多い方法です。

②班・グループ別の交替制付与方式
 ①と③の中間に位置するものと考えれば良いでしょう。
 定休日を増やすことが難しい企業や事業場で実施されています。

③年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式
 支店業務等で平日のサービスが必ず存在する金融機関などでよく利用されています。
 例えば、年度始めに各従業員が計画表を提出し、管理職が計画表を調整します。
 労働者の個人的な記念日を優先的に充てることもできます。

「年次有給休暇の計画的付与制度」 厚生労働省作成 https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kinrou/dl/101216_01e.pdf

参考 〜年次有給休暇を労働者に取得させることは会社の義務〜

2019(平成31)年4月から、全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させなければいけません(労働基準法第39条7項)
この法改正はの背景には、国内における年次有給休暇の取得率の低迷があります。

年次有給休暇の時季指定義務 https://www.mhlw.go.jp/content/000350327.pdf

ポイントは下記の通りです。

❶年次有給休暇が10日以上付与される労働者が対象
❷使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、取得時季を指定して年次有給休暇 を取得させなければなりません。この時季指定をする際には、労働者の意見を聴取し、できる限り労働者の希望に沿った取得時季にする必要があります。
既に5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者には、使用者による時季指定は必要ありません。また、することもできません。
❹会社は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。
❺休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項です。したがって年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載する必要があります。
❻5日分の時季指定取得させなかったり、就業規則への記載が行なわれていない場合は、罰則を受ける可能性があります。

法定基準日(雇入れの日から半年後)より前に年次有給休暇を付与する場合

法定の基準日(雇入れの日から半年後)より前に年次有給休暇を付与する場合の取り扱いなど、判断に迷う場合もあるでしょう。

厚生労働省は下記の通り解説しています。

年次有給休暇の時季指定義務 https://www.mhlw.go.jp/content/000350327.pdf

関連就業規則解説

第5章 休暇等 第22条 年次有給休暇

第5章 休暇等 第23条 年次有給休暇の時間単位での付与