傷病手当金の支給期間が通算化(2022年1月から)

傷病手当金

私傷病(≒業務災害や通勤災害を原因としたケガや病気ではない)で働けない時に、条件を満たせば健康保険から傷病手当金が支給されます。
この傷病手当金の支給期間について、下記のような大きな法改正があり、2022年1月から施行されています。
経過措置として、支給を開始した日が令和2年7月2日以降である人も、この通算化の対象です。

従来(2021年12月まで)法改正後(2022年1月より)
同一の病気やケガ、およびこれにより発した疾病について、
傷病手当金が支給されるのは、支給開始日から1年6ヶ月間
同一の病気やケガ、およびこれにより発した疾病について、
傷病手当金が支給されるのは、支給開始日から通算して1年6ヶ月間

端的に言えば、1年6ヶ月の傷病手当金を、柔軟に利用できるようになったということです。

従来は、一度傷病手当金を受け始めれば、途中で働くことができて傷病手当金が支給されない場合でも、1年6ヶ月後には打ち切られていました。
しかし、改正法では支給開始日から1年6ヶ月以内という期間制限を気にしなくて良くなったのです。

これにより、働きながらガン治療を行う労働者などにとっては、利用しやすい制度になったと言えます。
傷病手当金を受け取らず働くことと、傷病手当金をもらいながら治療に専念することを柔軟に組み合わせることができるようになったからです。

労働人口が減少傾向にある中、労働者が長く働き続けられることは、経営者にとってもメリットが大きいでしょう。

がん罹患者数と仕事を持ちながら通院している者の推移
傷病手当金について – 厚生労働省 20ページ より引用

Contents

傷病手当金の制度概要

傷病手当金とは、労働者が業務外の病気やケガで働けずに仕事を休んだ時に、収入を補う制度です。
仕事を連続で3日間休み,4日目以降の休んだ日に対して、給与の約2/3が加入する健康保険から支給されます。

国民健康保険加入者と任意継続被保険者(退職後)について

国民健康保険には傷病手当金の制度はありません。

また健康保険の任意継続被保険者にも傷病手当金は支給されないのが原則です。
しかし、健康保険法第104条による継続給付の要件を満たす場合には、傷病手当金は任意継続被保険者にも継続して支給されます。

制度の詳細については、下記の通りです。

支給要件について

下記条件を全て満たした場合に傷病手当金の支給を受けることができます。

  1. 療養中であること
    健康保険で診療を受けることができる範囲内の療養であることが条件です(美容整形などは当然含まれない)。
    しかし、治療自体は自費診療であったり、自宅療養などでも、傷病手当金は支給されます。
  2. 働けないこと(労務に服することができないこと)
    元々の仕事をすることができない状態であれば良いとされています。
    そのため遠方への通院により就労できないなどのケースも傷病手当金の対象となります。
  3. 3日間連続で働けないこと(継続した3日間の待機期間を満たしたこと)
    待期期間には有給休暇、土日祝等の公休日を含みます。
    また待機期間中に有給休暇が含まれる場合も、その日も含めて連続3日間の完成の有無を判断します。
    重要なことですが、同一の傷病について1回完成させれば足ります。
    つまり、傷病手当金を受け取りを一時的にやめて働いた後に、傷病手当金を再度受けるのに待機期間は不要ということです。

支給額について

1日あたりの支給額は次のように計算します。

支給総額 = 直近12月間の標準報酬月額の平均額の30分の1× 3分の2 × 支給日数

  • 「直近12ヶ月」とは、傷病手当金の支給開始日の属する月以前の直近12月間を指します。
  • 支払われた給与の額が、傷病手当金の支給額を下回る場合、傷病手当金と支払われた給与の額の差額が支給されます。

直近12ヶ月間が存在しない場合には、次のいずれか少ない額の2/3が支給されます。

  1. 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額の30分の1
  2. 支給開始日が含まれる年度の前年度9月30日時点での、全被保険者の9月の標準報酬月額を平均した額の30分の1

リセットについてはどのように考えるのか

1年6ヶ月分の傷病手当金を受け取った後も、同じ病気が治らない場合を考えます。
この場合は、傷病手当金を受け取ることができません。

では病気が完治して通常勤務を続けている際に、再度同じ病気が再発した場合はどうなるのでしょうか?
このことについて、古い通達ですが下記のように述べています。

「同一の疾病とは一回の疾病で治癒するまでをいうが、治癒の認定は必ずしも医学的判断のみによらず、社会通念上治癒したものと認められ、症状をも認めずして相当期間就業後の同一病名再発のときは、別個の疾病とみなす。通常再発の際、前症の受給中止時の所見、その後の症状経過、就業状況等調査の上認定す。」

(昭和29年3月保文発第3027号、昭和30年2月24日保文発第1731号)

つまり同一傷病であっても状況によっては、1年6ヶ月はリセットされる可能性があるということです。
この判断は、各健康保険者が医師の見解を踏まえて行うこととなります。
詳しくは各健康保険にお問合せください。

資格喪失後の継続給付について

退職などにより、加入していた健康保険の被保険者でなくなった場合についてです。
下記の条件を満たす場合に、継続給付として傷病手当金の給付を受けることができます。
*継続給付は、喪失後に任意継続被保険者になるかどうかは関係ありません。
*特例退職被保険者となった者には、資格喪失後の継続給付はありません。

  • 被保険者の資格喪失をした日の前日(退職日)までに継続して1年以上の被保険者期間があること。
    *健康保険の被保険者資格の喪失日(要は健康保険証が使えなくなる日)は、退職日の翌日です。
    *1年以上の被保険者期間の計算において、健康保険任意継続の被保険者期間は除きます。
  • 資格喪失時に傷病手当金を受けているか、もしくは受ける条件を満たしていること。
    *「受ける条件を満たしている」とは、受け取れる状態にあるが、報酬や他の手当金との併給調整により支給停止といった状態です。
    *3日の待機期間を満たさずに退職すれば、受ける条件を満たしていないので傷病手当金は受け取れません。

他の手当金との調整

給与をもらっている場合には、傷病手当金の不支給や減額といった調整が行われることについては前述しました。

他の手当金の支給要件を満たしているケースもあり得ます。
実際にそのようなケースに当てはまったときに、保険者にあらためて確認すれば良いと思います。
ここでは、ポイントのみをお伝えします。

  • 出産手当金が支給されるときは、傷病手当金は支給されない。ただし「出産手当金の額<傷病手当金」の時は、差額が傷病手当金として支給。
  • 傷病手当金を受給している方が同一の傷病により、障害厚生年金または障害手当金を受け取れる時は、傷病手当金の支給額が調整もしくは支給されない。
  • 退職後に傷病手当金の継続給付を受けている方が、老齢年金(老齢厚生年金、老齢基礎年金、退職共済年金)を受け取れる時は、支給されない。ただし「老齢年金/360 < 傷病手当金」の時は、差額が傷病手当金として支給。
  • 労災保険の休業補償給付を受けている方が、業務外の傷病によって新たに労務不能になったときは、傷病手当金は支給されない。ただし、「休業補償給付<傷病手当金」の時は、差額が傷病手当金として支給。

受給手続き

少なくとも下記書類を用意して、保険者に提出しなければいけません。
*提出先や提出書類については、健康保険の事務局にご確認ください。

  1. 傷病手当金支給申請書
  2. 医師または歯科医師の意見書:被保険者(労働者)の病気やケガの発生日・原因・主症状・経過の概要・働けなかった期間に関する意見書
  3. 事業主による証明書:働けなかった期間(休業期間)や、その間に支払われる報酬の額などについての証明書

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