第6章 賃金 第34条 基本給

基本給の主な構成要素として、職能給、職務給、成果給、年功給があります

第34条 (基本給)
基本給は、本人の職務内容、技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する。

条文の目的・存在理由

基本給の決定・計算方法を明らかにした条文であり、就業規則の絶対的必要記載事項です。
基本給は、所定内賃金の主要部分を構成します(この後の条文で出てくる各種手当も所定内賃金に含まれます)。

会社が、月給・日給月給・日給制・時給制のいずれを採用しているかに関わらず、賃金決定の際には最低賃金法の水準を上回る必要があります。
時給制以外を採用している場合は、賃金額をそれぞれの各期間における所定労働時間数で除した1時間当たりの額と最低賃金額とを比較して判断します。

自社の基本給を定めるにあたって

会社は、法令遵守しつつ、下記基本給の各種構成要素などのメリット・デメリットを吟味し、会社方針に合った制度を選ぶ必要があります。

日本における基本給の構成要素

①職能給:労働者の職業経験や能力に応じて支給
②職務給:職務内容に応じて支給
③成果給:労働者の業績や成果に応じて支給
④年功給:勤続年数に応じて支給

職能資格制度とは、職務遂行能力によって社員をいくつかの等級に分類し、賃金の管理を行う制度です。
戦後日本の賃金制度では、この職能資格制度が、多くの企業で導入されていました。
つまり①職能給が賃金の主たる構成要素であったと言うことです(②〜④の要素が賃金に全く反映されていなかったと言うわけではありません)。

職能資格制度は、職務遂行能力の向上を労働者に促しやすい点や、長期間に渡る人材育成を行いやすい点などがあります。高度経済成長期の日本企業にマッチするため導入されていました。

しかし近年、非正規労働者との賃金格差是正の観点から、同一労働同一賃金の原則を、基本給の定め方に反映させなければいけなくなってきています。
また、社会経済等の変化のスピードが速くなっている昨今、労働者も臨機応変に求められる能力を変えていかなければなくなりました。
そのため、前年度の評価に応じて賃金額が決定される年俸制の導入を図る会社も出てきました。

同一労働同一賃金原則について

この原則は、上記②職務給の考え方が基本にあります。
この職務給だけで基本給を決定すると、長期間業務が変わらない労働者は、職務給自体が上がらない限り昇給しないという事態が出てきます。
この職務給が日本の主流となった場合、短期的には非正規社員やパートタイマーへの待遇改善につながると思われますが、長期的に見ると社会全体としては閉塞感が出てくるかもしれません。

年俸制について

前年度の評価などを基に賃金額が決定される年俸制は、上記③成果主義と親和性が高い制度です。
しかし、労働時間管理が基本の考え方にある現在の労働基準法にはなじみません。
そのため、年俸制をスムーズに運用していくために、下記のような対応が必要となります。

・年俸制で働く労働者を労働時間管理の対象から外れる管理監督者にする。
・みなし(固定)残業代を賃金に組み入れることになります。

*みなし(固定)残業代として一定時間分の残業代が年俸額に含まれる場合も、規定の残業時間を超える分に対し別途残業代の支払が必要です。

リスク 適用範囲について

この条文に関するリスクはありません。
「賃金の決定・計算方法」について、より具体的に記載することもできますが、このモデル条文のように簡潔な記述でも問題ありません。
なお関連項目である「昇給」についても絶対的必要記載事項ですが、この後の第47条で扱います。

改善案 職務給や成果給などを手当という形式で支払う場合

改善点は特にありませんが、職務給や成果給などを手当という形式で支払うことも可能です。
その場合の記載例は下記の通りです(職務給を手当として払う場合)。

第32条 (基本給)
基本給は、本人の技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する。

第◯◯条
各人の職務の内容に応じて、職務手当を支給する。

参考判例

この条文に直接関連する判例はありません。
しかし、賃金減額を伴う不利益変更の問題が裁判上の争いに発展することは、少なくありません。
この問題については第47条の「昇給」の項目で扱います。

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