第6章 賃金 第35条 家族手当

家族手当は、割増賃金の算定基礎から除外できます

第35条 (家族手当) 
家族手当は、次の家族を扶養している労働者に対し支給する。 
 ① 18歳未満の子 1人につき    月額___ 円
 ② 65歳以上の父母 1人につき   月額___ 円

条文の目的・存在理由

本条で扱う家族手当を含め、第33〜37条までの各種手当は、会社に法的な支払義務はありません。
また金額や支給条件も会社が自由に設定できます。
しかし、各種手当も賃金に該当し、就業規則の絶対的必要事項として就業規則への記載が必須となります。

家族手当制度を設ける際の注意点は下記の通りです。

・割増賃金の算定基礎から除外できる。
・配偶者の収入要件がある配偶者手当は、女性の活躍を阻害する要因になるとして、政府が見直すように求めている。

上記の政府の要請に応える法的義務はありませんが、政府の要請の理由について下記のように述べています。

「女性の就業が進むなど社会の実情が大きく変化している中で、配偶者の収入要件 がある「配偶者手当」については、税制・社会保障制度とともに、女性パートタイ ム労働者の就業調整の要因となっていると指摘されています。 税制・社会保障制度については、配偶者控除等の見直しや被用者保険の適用拡大 などの制度改正 が行われており、配偶者の収入要件がある「配偶者手当」につい ても、配偶者の働き方に中立的な制度となるよう見直しを進めることが望まれます。」

配偶者手当の在り方 の検討に関し考慮すべき事項 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000637995.pdf

リスク 扶養の定義について

前述の通り、支給条件については会社が自由に設定できます。
モデル条文のままだと、扶養の定義に対する認識に違いが出る可能性があります。
したがってより詳細に支給条件を明記すべきでしょう。

また労使間で誤解が生じかねない項目であるため、労働者から所定様式によって届け出た場合に、会社が審査した上で支給する旨を明記すべきです。
企業によって支給条件は異なりますが、下記の項目が主に考慮されて制度設計されています。

対象とする家族の収入上限
「所得税の配偶者控除が受けられる103万円以下」を基準にするか、「社会保険の被扶養者として認められる130万円未満」を基準にするかで対象が変わってきます。

対象とする家族が同一生計内であることや、同居していることを条件にする
これらの条件次第で、同居はしていないが仕送りをしている家族などの取扱いが変わってきます。

制度設計や見直しの際に留意すべき事項

条文に対するリスクではありませんが、以下2点は制度設計や見直しの際に留意すべき事項です。


①雇用形態によって各種手当に差がある場合は、同一労働同一賃金の観点から労使間の争いに発展する可能性が高くなっています。
2020年10月15日の最高裁判決では、正社員と同様の業務を行う郵便局の非正規の契約社員らが、扶養手当などを支給されないことは不合理な格差であり、違法だとする判断が示されました。

②各種手当の廃止は労働条件の不利益変更に当たるため、各労働者の合意あるいは廃止の客観的かつ合理的理由が求められます。
配偶者手当の廃止を例にとり、厚生労働省は下記のように留意点を示しています。

配偶者手当の在り方 の検討に関し考慮すべき事項 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000637995.pdf

改善案

第33条 (家族手当) 
家族手当は、健康保険法上の扶養家族のうち次の家族を扶養している次の家族を扶養している労働者に対し支給する。なお支給対象となる労働者は、会社所定の様式によって届出を行わなければいけない。会社は、届出に基いて審査し、支給の可否を判断する。

① 18歳未満の子 1人につき    月額___ 円
② 65歳以上の父母 1人につき   月額___ 円

2 家族手当は届出をした月から、支給事由が消滅した月まで支給するものとする。

3 扶養家族が変更になったときおよび第1項の支給の条件に該当しなくなったときは、すみやかに会社に届け出なければならない。

4 前項の届出を怠ったとき、または不正の届出により、家族手当を不正に受給したときは、その返還を求め、就業規則に基づき懲戒処分を行うことがある。

参考判例

シオン学園事件 東京高判 平成26年2月26日

事件概要

当該自動車教習所(被告)では、労使慣行により、就業規則の定めとは異なる賃金体系が採られていた。
経営状況が悪化していたこともあり、就業規則の変更により、基本給の引き下げと各種手当の廃止等の賃金体系変更を実施した。
これに対して、労働者ら(原告)は、当該就業規則の変更は無効である等として、労働契約または労使慣行に基づいて未払賃金支払等を請求した事件。

就業規則との関係において

当該自動車教習所では、労使慣行(就業規則に定めがない)に基づいて各種手当が支払われていました。
これら各種手当については、労働契約法第10条(就業規則による労働契約の内容の変更)を類推適用し、「文言上は従前と同一の就業規則を現状の労使慣行を変更する趣旨で周知する行為」が必要と判断しました。

そして、平均約8.1パーセントの賃金減額は、労働者にとって小さいとはいえない不利益であると判断しました。
一方で、多額の営業損失と債務超過状態という会社の経営状況、同業他社との賃金比較、約3年間に20回以上団体交渉が実施された等の事情も考慮され、各種手当廃止などの変更の合理性が認められました。

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