第2章 人事 第9条 休職

休職に関するルールを明示します

第9条 (休職) 

1 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
 ① 業務外の傷病による欠勤が__か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき    __年以内
 ② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき              必要な期間

2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。

3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

*休職の定義・・・労働者が労務提供不能あるいは不適当な状況にある場合に、会社が当該労働者に対し、労働契約は維持しつつ労務の提供を免除あるいは拒否すること
*休職は労働者の権利ではなく、会社側が休職を命令できるという権限です。
*業務中または通勤中の事故・病気やケガは、労災保険の適用範囲となります。
 本条文の休職は、業務外の傷病(私傷病)があった場合に適用を検討する条文です。

条文の目的・存在理由

休職制度には、傷病休職・事故欠勤休職・起訴休職・自己都合休職などがありますが、法律上必ず設けなければいけない制度ではありません
ただし定めがある場合は就業規則に記載しなければいけない相対的必要記載事項です。
そのため休職制度を設けるには就業規則への明記が必要です。
 
それでは休職制度を設けない場合はどのようになるのでしょうか。
労働者が業務を遂行できないということは、労働契約における労働者の債務不履行に該当するため解雇も選択肢に入ります。
しかし、解雇するには原則①合理的な理由があること②解雇予告手続きが必要です。
復帰や配転の可能性を考慮しない解雇は、合理的な理由があるとは言えず解雇権濫用と判断される可能性が高いです。

したがって休職制度を設けないということも法律上可能ですが、下記の観点からも休職制度は設けた方が良いでしょう。
なお多くの会社は、休職制度を解雇猶予措置と位置付けて規定しています。

 ①解雇も簡単ではないこと
 ②企業側は重要な戦力の労働者を確保できる
 ③事故や病気等があっても従業員が安心して働ける環境づくり
 ④休職期間満了により自動的に退職となるためトラブルになりにくい

リスク① 復職の見込がない場合の適用除外

解雇の合理的理由の有無を判断するにあたり復帰や配転の可能性を検討することが重要と述べました。
しかし、休職期間中に職務に復帰できないことが最初から明らかである場合は、休職ではなく解雇も選択肢に含めることができるようにした方が良いでしょう。ただし、大怪我を負って復職が見込まれないようなケースでも、解雇を選択することはあまりないのが実状です。

労働者とのトラブルを避けるために休職規定を適用し休職期間満了を待って退職とする会社がほとんどです。
したがって実務上のトラブルが想定されず、かつ復職が全く見込まれない場合にのみ解雇を選択するという取り扱いが良いと言えます。

リスク② 断続欠勤や不完全就労に対する対応

近年多くの企業において、精神疾患により断続欠勤を繰り返される事例や、出勤はするものの当初の労働契約とは程遠い勤務態様である事例があります。上記就業規則例では、このような事例に対応するための休職命令を行使することは難しいでしょう。
したがって下記改案例のように、欠勤期間に関係なく休職命令を行使できる権限を確保すべきです。

リスク③ 休職と復帰を繰り返す場合の対応について

精神疾患等により休職と復帰が繰り返されるケースがあります。
その場合の取り扱いについて、休職期間は中断するのか、それともリセットされるのかを、労使で認識を共有するためにも明記した方が良いでしょう。

リスク④ 治癒の定義について

本条文3項にある『治癒』の会社をめぐって労使間で相違が生まれトラブルに発展することが多々あります。
したがって下記改案例のようにできる限り明確化すべきでしょう。

リスク⑤ 休職期間中の賃金や勤続年数等の取り扱いについて

休職は、労働契約における債務不履行に該当します(ノーワークノーペイの原則)。
したがって休職期間中は無給としても法律上問題ありません。
しかし休職期間中でも、従業員は健康保険等の被保険者であることから社会保険料を納付されなければいけません。
その際の取り扱いについて明記しておいた方が、トラブルの未然防止だけでなく円滑な実務にも役立ちます。

改善案

第9条 (休職)

1 労働者が、次のいずれかに該当するときは、第10条の期間休職とする。ただし復職の見込みがない場合を除く。

 ①業務外の傷病による欠勤が1か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき
 ②私傷病、精神または身体上の疾患により労務の提供が不完全であると会社が判断した時
 ③業務命令により他社に出向したとき
 ④前各号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき

2  休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。

3  第1項第1号、2号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。なおここでいう治癒とは、休職前の業務を健康時と同様に業務遂行できる程度に回復することをいう。

第10条 休職期間

1 休職期間は、前条の休職事由に応じて、次の期間を限度に会社が定める。
 ①前条第1項1号、2号の場合   6ヶ月
 ②前条第1項3号、4号の場合   会社が必要と認めた期間

2 前項の規定に関わりなく会社の判断で期間を延長することがある。

3 私傷病が原因で休職を命じられた者が、休職期間満了前に復職し、復職後〇ヶ月を待たずに、再び当該休職事由と同一ないし類似の事由により欠勤した場合は、休職を命じる。この場合、休職期間は中断せず、前後の期間を通算する。

第11条 休職期間の取り扱いについて

1 休職期間中の賃金は無給とする。

2 休職期間は原則として勤続期間には通算しない。ただし第9条1項3号の場合は勤続年数に通算する。

3 休職期間中の健康保険料(介護保険料を含)、厚生年金保険料、住民税等については、原則として各月分を会社が立て替えた後に本人に請求する。従業員は請求書に記載された保険料、税金等を指定期限までに会社に支払うものとする。

*休職期間については、会社への貢献度を考慮し、勤続年数に応じて期間に差を設けることも一考です。

参考判例

東海旅客鉄道事件 東京地判 平成11年10月4日

事件概要

脳内出血に伴い3年間病気休職となっていた労働者A(原告)は、休職期間満了直前に復職の意思を示した。
しかし会社(被告)は、後遺障害により従前の業務に通常通り従事できないと判断し、休職期間満了をもって退職扱いとした。
労働者Aは、この退職扱いを就業規則、労働協約等に違反し無効であるとして、従業員としての地位確認および未払い賃金等の支払を求めて提訴した事件。
復職を不可とした会社の判断に誤りがあるとし、原告勝訴となった。

就業規則との関係において

復職の可否を判断する基準として判例は下記のように述べています。(太字は筆者による)

労働者が私傷病により休職となった以後に復職の意思を表示した場合、使用者はその復職の可否を判断することになるが、労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前の業務について労務の提供が十分にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には、当該労働者に右配置可能な業務を指示すべきである。そして、当該労働者が復職後の職務を限定せずに復職の意思を示している場合には、使用者から指示される右配置可能な業務について労務の提供を申し出ているものというべきである。

復職の要件とされる治癒の概念をめぐって、平仙レース事件(浦和地判昭40.12.16)やアロマ・カラー事件(東京地決昭54.3.27)では、休職前の業務を遂行できるか否かを治癒の基準としていました。しかし東海旅客鉄道事件含め最近の判例では、短期の復帰準備期間の提供や、軽減された業務の提供を会社側に求められる傾向があります。これは、信義則を理由に、労働者側への十分な配慮が求められるということです。

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