第3章 服務規律 第11条 遵守事項

業務内外における具体的な遵守事項を明示します

第11条 (遵守事項) 
労働者は、以下の事項を守らなければならない。

1.許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
2.職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
3.勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
4.会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
5.在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと。
6.酒気を帯びて就業しないこと。
7.その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。

条文の目的・存在理由

会社が労働者に遵守させたい事項を定めます。
遵守事項は、法的に適正で、公序良俗に反せず、社会的に妥当である必要があります。
また前条文解説で述べた通り、この条文で挙げた項目を懲戒事由とすることも出来ます。
なお会社を取り巻く環境も変化しますので、遵守事項の変更や追加は適宜行っていく必要があります。

Q&A
Q.遵守事項の変更・追加が、労働契約法第10条にいう労働条件の不利益変更に該当するのではないか?
A.会社が社内秩序維持のために服務規律を定めることは当然の権限とされています。従って服務規律の変更・追加が法的に適性で公序良俗に反せず社会的に妥当である限りは、不利益変更に該当しないと解釈されます(労働契約法10条にある就業規則変更の手続きを踏むことは必要です)。

リスク

上記条文例にはないものの社内秩序維持に必要であると思われる遵守事項を以下列挙します。

①労働者同士の金銭貸借を原則として禁止
金銭に関するトラブルは人間関係を悪化させ、場合によっては労働者の犯罪行為にまで発展する可能性もあります。また会社の上司が権限を悪用して金銭を借りたりすることのないようにしなければいけません。

②演説や集会などの実施を事前許可制とする
就業時間中でなくとも、会社は職場内の管理あるいは当該演説等に関心のない従業員への配慮などが求められます。そのため演説や集会など、職場の一定の面積を占有する行動は事前許可制とすべきでしょう。(参考判例参照)

③政治・宗教活動などを禁止
政治や宗教に対する考え方は労働者によって様々です。考え方が少数派に属する労働者の立場を守ることはもちろん、従業員間対立の防止のためにも禁止すべきでしょう。職場における地位などを悪用した勧誘などもより明確に禁止しなければいけません。

④兼業について会社の方針を明確にする
近年、異なる会社での経験を自社の業務に活かしもらうことを目的に兼業を認める企業も出てきました。兼業を禁止する目的として主に下記のようなものがあります。
・自社での業務遂行に悪影響を与える可能性がある(誠実な労務提供がされない)
・当該労働者の長時間労働につながりやすく会社の健康管理も困難になりうる
・企業秘密漏洩の防止
上記観点も考慮した上で、「同業種の会社以外は認める」「事前許可制とする」といった柔軟な対応も含めて、会社としての方針を明確にすべきでしょう。

⑤個人情報の取扱ルールの遵守について
個人情報保護法(平成17年4月施行)は労働者ではなく事業主の義務のみを定めていますが、労働者が個人情報を杜撰に扱えば事業主は義務を果たせません。そのため今では多くの企業が個人情報取扱規程を定め、労働者に遵守を求めています。一度個人情報漏洩が起きれば経営に大きな悪影響を与えることは、近年の報道等からも明らかです。

改善案

第11条 (遵守事項)

労働者は、以下の事項を守らなければならない。

1.許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。また使用する場合も丁寧に扱い、消耗品については節約に努めること。
2.職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
3.勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
4.会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
5.従業員同士で金銭の貸借を行わないこと。
6.会社敷地内において、集会・演説などの職場内の一定面積を占有する活動、文書配布・ポスター掲示を行う場合は事前に会社の許可を得ること。
7.会社敷地内において政治・宗教関連の活動を行わないこと。
8.従業員自らの判断で、他社業務への従事あるいは個人的事業の運営を行う場合は、会社に事前に許可を得ること
9.従業員は個人情報取扱規程を遵守し、在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと。
10.酒気を帯びて就業しないこと。
11.その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。

その他の喫煙に関するルール、選挙等で立候補する場合のルール、服装に関するルールなど、自社の職場規律維持に必要と判断するものを記載してください。

参考判例

東谷山家事件 福岡地判 平成9年12月25日

事件概要

一般貨物運送に従事するトラック運転手Aは髪の色を黄色く染めていた。
取引先から好ましくない連絡があったことと、取引先に悪い印象を与えることを危惧した会社が、運転手Aに髪の色を戻すように指示した。
運転手Aは指示に従わず始末書も提出しなかった。

そのため、会社は就業規則にある譴責事由(素行不良による社内風紀を乱すこと、所属長らの指示命令に従わないことが挙げられていた)を根拠に、当該運転手を論旨解雇した。
解雇を不服とした運転手Aが、解雇無効を主張し、提訴した事件。

なお就業規則には、左記譴責事由が繰り返される場合は論旨解雇にする旨の規定があった。

就業規則との関係において

本件については、下記を理由に、そもそも解雇事由が存在せず解雇無効と判断されました。

・髪の色を染めたこと自体が譴責事由に該当しないこと
・運転手が会社の指示に従わなかったことは会社側の対応にも原因があること
・始末書提出拒否も社内秩序を乱した行為に該当すると即断するべきでないこと

判例では、会社が企業内の秩序維持確保のために、労働者に必要な規制・指示・命令を行うことが許されるとした上で、下記のように述べています。
太字は筆者による。

「しかしながら、このようにいうことは、労働者が企業の一般的支配に服することを意味するものではなく、企業に与えられた秩序維持の権限は、自ずとその本質に伴う限界があるといわなければならない。特に、労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人の人格や自由に関する事柄について、企業が企業秩序の維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合、その制限行為は無制限に許されるものではなく、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるものというべく、具体的な制限行為の内容は、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請されるものと解するのが相当である。」

労働者の自由を制限する服務規律を設ける場合は、

規制の必要性、規制手段が目的達成のために合理的か?
目的達成のために必要最小限の規制になっているかどうか?

をチェックすることが大切です。

代表者

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