第3章 服務規律 第12条 職場のパワーハラスメントの禁止

職場におけるパワーハラスメント禁止を宣言します

第12条 (職場のパワーハラスメントの禁止)

職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

条文の目的・存在理由

2020年6月1日より改正労働施策総合推進法の施行されました。
それにより事業主はパワーハラスメントの防止措置の実施を義務付けられました(中小企業の場合は2022年3月31日までの努力義務期間を設けたうえで、2022年4月1日から義務化されます)。
厚生労働省の指針によれば、事業主は服務規律を定めた就業規則等に、下記事項を規定する必要があります。
管理監督者を含めた全従業員に周知・啓発するためです。

・職場のパワーハラスメントの禁止の方針
・パワーハラスメントを行ったものに対する処分について(懲戒規定)

したがって健全な職場環境づくりのためだけでなく、法令遵守の観点からも設けなければいけない条文と言えます(就業規則以外の文書で周知・啓発する方法もありますが、全従業員が閲覧できる就業規則に記載することが効率的でしょう)。

なお措置を行なっていると認められる例や相談窓口の設置義務など詳しく指針が示されていますので、一読することをお勧めします。
事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf

リスク① 社会的評判の低下や人材流出のリスク

行政・社会はパワーハラスメントに対し厳しい眼を向けるようになっています。
パワーハラスメント発生後に行政勧告に従わない場合には、企業名も公表される可能性もあります。
またパワーハラスメントを特に嫌がる世代が今後増えていくことでしょう。
したがって会社は、パワーハラスメントを許さないという姿勢を明確に示し、全従業員に対し周知徹底しなければいけません。

リスク② 必要な指導が行われなくなるリスク

どのような行為がパワーハラスメントに該当するかが不明確であれば、必要な指導まで行われなくなります。
したがってパワーハラスメント防止について周知徹底するとともに、パワーハラスメントの基準についても明示しなければいけません。
なお厚生労働省は下記のような定義と判断基準を示しています。

厚生労働省委託事業 あかるい職場応援団ホームページより引用  https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/pdf/pawahara_kyoka.pdf

改善案

第12条 (職場のパワーハラスメントの禁止)

1 職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。なおここでいう職場とは、労働者が業務を遂行するすべての場所をいう。また、勤務時間内だけでなく、実質的に職場の延長とみなされる勤務時間外の時間を含む。

2 従業員は、他の従業員に対し次に掲げるパワーハラスメント行為を行なってはならない。
 ① 精神的・身体的暴力行為を行うこと 
 ② 業務上のミスに関して、大勢の労働者が見ている前で一方的に責め続けること
 ③ 大声で怒鳴るなどの威嚇行為を行うこと
 ④ 無視をすること
 ⑤ 法令違反の行為を強要すること
 ⑥ 不当な異動や退職あるいは解雇(契約延長あるいは打ち切り含む)をちらつかせること
 ⑦ 明らかに達成不可能な業務を一方的に与えること
 ⑧ 故意に必要な情報や連絡事項を与えないこと
 ⑨ 業務に必要がないことを強制的に行わせること
 ⑩ その他前一項に該当する行為

3 従業員は、パワーハラスメント行為を黙認してはならない。

4 パワーハラスメント行為の相談窓口は〇〇部とする。また、会社はパワーハラスメントに ついての相談者に対し不利益な取り扱いをすることはない。  

1項について
就業時間外でも適用されるべくこのように記載するべきでしょう。

2項について
近年問題になっている行為を中心に記載することで、従業員もイメージしやすくなります

3項について
パワーハラスメントを会社から一掃するためにも、このように記載するべきです

4項について
厚生労働省の指針では、相談窓口の設置と、パワーハラスメントに関する相談者への不利益取り扱い禁止が義務付けられています。就業規則以外の文書で周知徹底する方法もありますが、全従業員が閲覧できる就業規則に記載することが効率的でしょう。

参考判例

ゆうちょ銀行事件 徳島地判 平成30年7月9日

事件概要

上司によるパワーハラスメントが原因で自殺したとして、遺族が会社に損害賠償を求めた事件。
判決では、上司の行為はパワーハラスメントと認定されなかった。
しかし異動などの環境改善を怠ったとして安全配慮義務違反が認定され、会社側に6千万円の賠償が命じられた

就業規則との関係において
①適切な指導とパワーハラスメントの線引きについて

当該判例では、上司の強い口調による叱責や呼び捨ては、部下に対する指導としての相当性に問題があるとしました。
しかし当該叱責は、度重なるミスに対するもので、業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものではなかったと述べています。

この事件ではパワーハラスメントの認定は行われませんでしたが、パワーハラスメントが認定された事件も存在します。
適切な指導とパワーハラスメントとの線引きは簡単ではありませんが、厚生労働省の指針等を参考に会社全体でパワーハラスメントに対する共通理解を進めていくことが大切です

②本人から相談がない場合での会社側の対応について

自殺した労働者は、2年間で体重が15キロ減少するなどの明らかな体調不良が見られました。
判決では、その体調不良の原因が職場の人間関係であることは、会社が容易に推認できたと述べています。
このことを根拠に、本人からの相談がなくとも、会社は労働者の安全配慮義務を免れないとしました。
この事件は、パワーハラスメント防止施策が義務化される前の事件です。
しかし相談窓口を設置するだけでなく、積極的にパワーハラスメントを無くしていく行動が、会社に求められているということを示唆する事件です。

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