簡易型DCとは〜中小企業の福利厚生充実に向けて〜

近年人材不足が叫ばれて久しくなっています。
特に中小企業経営者の方々はそのように感じているのではないでしょうか?
「求人募集してもなかなか応募してくれない」、「入社してもすぐに辞めてしまい定着しない」といった声をよく聞きます。

当然のことですが、「法定通りに社会保険(労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金)にも加入していない」、「労働環境が過酷すぎる」、「職場の人間関係に問題(いじめなど)を抱えている」などといったことがあれば、まずはその問題解決が先でしょう。

しかし、法定通りに社会保険にも加入しており、労務環境に問題を抱えていないにも関わらず、人材不足に悩んでいる中小企業の経営者の方々もいます。
そのような経営者の方々にとって、今回取り上げる簡易型DCは、導入を検討してみる価値があるでしょう。

このように筆者が考える理由は下記の通りです。

  • 老後のお金の問題に不安を感じている労働者は多い。
  • 簡易型DCは、従来型の企業型DCに比べて導入しやすくなっている。
  • 簡易型DCに対する認知度はまだまだ低く、福利厚生面で他社と差別化が図れる。

この制度は企業型確定拠出年金の中小企業向けで2018年5月にできた比較的新しい制度です。
企業型確定拠出年金自体は、大企業を中心に福利厚生の一環として以前から導入されています。
しかし中小企業にとって、導入手続きが煩雑で、導入が非常に難しかったのです。

今回は、まだまだ認知度も低く導入数も少ない簡易型DCについて解説します。

Contents

簡易型DCとは

簡易型DCとは、企業型確定拠出年金であり、中小企業が導入しやすいように手続きを簡略化させたものです。

*DCとは、Defined Contribution Planの略で、確定拠出年金を意味します。
個人型と企業型に分かれており、個人型はiDeCoの名称で段々と認知度と利用者数も増えています。

簡易型DCを含む企業型確定拠出年金の仕組みは次のとおりです。

企業型確定拠出年金の仕組み
  1. 拠出:会社(事業主)が毎月掛金を拠出する(≒支払う)。
  2. 運用:その掛金を、加入者(従業員)の判断で運用する。
  3. 受取:加入者(従業員)の年金資産は、2の運用結果次第で決まり、原則として60歳以降に受け取ります。

2運用についてポイントをさらに解説します。

企業型確定拠出年金の運用について
  • 目的は年金資産形成であり、労働者自身も自由に引き出せない各個人年金専用口座に掛金が入金される。
  • 従業員は用意された金融商品(定期預金や投資信託など)の中から運用商品を決める。
  • 毎月の掛金で購入する(預金であれば預ける)、自分が運用する金融商品は、いつでも変更できる。
    例)リスクが高い投資信託から、リスクの低い定期預金に運用先を変える。
  • 毎月の掛金を1%単位で、金融商品ごとに2個以上に分散できる。
    例)毎月5000円のうち、2,500円(50%)を投資信託A、2,500円(50%)を定期預金を選択する。
  • 形成された資産自体も一部あるいは全部を、別の金融商品に変えることもできる(スイッチング)
    例)毎月1万円で10年間運用した投資信託Aが、200万円になった。退職まであと少しで、資産が減少するのは嫌なので、全額を定期預金に変える。

簡易型DCのメリット

企業型確定拠出年金の良いところは、次の2点です。

  • 労働者にとって魅力ある福利厚生制度となり、人材確保・定着を狙える。
  • 受取額は従業員の運用次第であり、会社は責任を負わない。そのため確定給付型年金(受取額を約束するもの)と違い、会社は、支出計画が立てやすく、突然の支出に迫られるリスクがない。
  • 節税となる
    掛金は、全額経費となります。

上記は、企業型確定拠出年金のメリットですが、通常の企業型確定拠出年金との違いを押さえることで、簡易型のメリットも把握しやすくなるでしょう。

簡易型DCと通常の企業型DCの比較

簡易型DC導入の注意点

ここまで簡易型DCの良いところを中心に書いてきましたが、導入して「こんなはずではなかった」とならないためにも次のことを理解しておいてください。

簡易型DC導入の注意点
  • 事務量が増える
    手続き等が簡素化されましたが、それでも必要な書類の作成はあります。
    さらに従業員の入退社時の手続きもあることを考えれば、従業員の流動性があまりに高い場合には導入を見送った方が良いかもしれません。
  • 掛金を準備しなければならない
  • 投資教育の必要性
    前述の通り、DCの商品選択は従業員個人の自己責任です。しかし、導入して、あとは知らないということは出来ず、継続的な従業員への投資教育が法律上も求められています。1年に1回、入社した従業員への説明は最低限行った方が良いでしょう。
  • 通常の企業型確定拠出年金と比べて、制度設計の自由度が低い。
    パッケージ化して、手続きを簡略化している反面、自由度が低いのは仕方がない面もあります。
    一定の加入資格を定めることはできない(全ての従業員を加入させなければならない)、掛金の算定方法は「定額」のみなどの制限があります。

参考サイト