有期雇用契約期間中の、解雇や労働者側からの退職申し出について教えてください。

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回答

有期雇用契約期間中の解雇について

事業主側から解雇するのは、よほどの事情がない限り無理と考えておいた方が良いでしょう。

期間の定めのない労働契約の場合よりも、解雇の有効性は厳しく判断されます。

また民法第628条では、事業主側の都合で契約を解除した場合、使用者は労働者に対して損害賠償責任を負うこととしています(労働者側からの契約解除の場合もあてはまります)。

この場合の賠償額の限度は、契約期間満了までの賃金相当額と考えられています。

有期雇用労働者側からの退職申し出について

後述の通り、民法第628条により有期雇用契約期間中に、労働者側からの契約解除は、やむを得ない事情がない限りできません。

ただし、労働基準法第137条に例外が規定されており、契約期間中であっても契約開始から1年を超えていれば可能です。

そのため、1年を経過しないうちに、有期雇用労働者の側から退職の申し出があれば、契約違反である旨を伝えて、働き続けてもらうことも問題ありません。

一方的な労務不提供により会社に損失が生じれば、契約違反(債務不履行)として、損害賠償請求をすることも可能です。

ただ、出社拒否により事実上退職となっている場合に、事業主から退職従業員に損害賠償請求等を行うケースは稀です。

よって法律論から外れますが、有期雇用契約期間中における従業員からの退職申出もありえることだと考えておいた方が良いでしょう。

解説

有期雇用契約に関する法令

解雇に関する法律については、下記4つを押さえておくと良いでしょう。

有期雇用労働者の解雇について、特に重要なものは労働契約法第17条です。

労働契約法第16条 解雇が無効と認められる場合について(解雇権濫用法理)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働契約法第17条1項 有期雇用労働者の解雇について
使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

民法第628条 
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約を解除することができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

労働基準法第20条 解雇予告手続きについて
1.使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

2.前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

3.前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。

有期雇用契約労働者の解雇について

上記労働契約法17条1項は有期雇用労働者の解雇についてです。

条文における「やむを得ない事由」は、期間満了を待てないほどの事情と捉えられるものです。

よって期間の定めのない契約よりも、解雇が難しいと解釈されるのです。

また、下記厚生労働省の見解からも、有期雇用契約者の解雇が難しいことがわかります。

契約期間は労働者及び使用者が合意により決定したものであり、遵守されるべきものであることから、「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」以外の場合よりも狭いと解されるものである。

平成24年8月10日付け基発0810第2号「労働契約法の施行について」
(厚生労働省労働基準局長発 都道府県労働局長あて)(抜粋) 

有期雇用契約期間中における労働者側からの解約

上記で挙げた民法第628条は、事業主と労働者の双方に適用されます。

そのためやむを得ない事情がなければ、労働者側からも契約の解除(辞職)できないのが原則です。

ここでいう「やむを得ない事情」とは、期間満了まで働くことが不当・不公正であると言えるほどの事情です。

具体的には、賃金の未払いや、事業主による重大な契約違反、労働者の病気等による労務不能などが挙げられるでしょう。

しかし、労働基準法第137条があるため、雇用契約開始から1年を経過していれば、労働者からの解約は問題なくできることになります(もちろんこの場合も、民法627条にある通り、2週間前までの申し出は必須です)。

労働基準法第137条

期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第百四号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。

退職した労働者に対して、会社が損害賠償を請求したという判例はほとんどありません(*)。

ただ、上記の通り、有期雇用契約期間中の労務不提供は、債務不履行(≒契約違反)です。

そのため、契約違反の労務不提供により、会社に損害が生じたのであれば、損害賠償が認められるケースもあるでしょう。

*有期雇用契約労働者が、契約期間中に、一方的に競業他社に転職して職務を放棄した事案においては、会社側からの損害賠償請求が認められた判例があります(BGCショウケンカイシャリミテッド事件(東京地裁 平成30年6月13日))。