職場ハラスメント対策〜第3回セクシャルハラスメント

ハラスメント

セクシャルハラスメントも、職場におけるパワーハラスメントと同様に、ニュース等で耳にすることが増えてきました。
「性的な言動はセクシャルハラスメントに該当し許されない」という常識は、かなり浸透してきているように思えます。
一方で、性差別意識を原因とした発言については、まだまだ多くの職場で見られるのではないでしょうか。

性差別意識を原因としたハラスメントも、現代社会においては許されない行為となっています。
また自覚すらない性差別意識を抱えている人が多いことも、このハラスメント対策の難しさです。
したがってセクシャルハラスメント対策については、職場におけるパワーハラスメント以上に、個々人の意識改革が求められるでしょう。
*性差別意識から生じる発言をセクシャルハラスメントとせずに、ジェンダーハラスメントとすることもあります。
 呼称に関わらず現代社会では許されない行為であるため、この解説記事ではセクシャルハラスメントに区分しています。

Contents

1 セクシャルハラスメントに関する基礎知識(第1回のおさらい)

定義

セクシャルハラスメントとは、「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。

用語解説

職場とは・・・

文字通り労働者が業務を遂行する場所です。出張先なども当然含まれます。
また勤務時間外の宴会の場や、社員寮や通勤中などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当するとされています。
その判断については、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意かといったことを考慮して個別に行われます。

労働者とは・・・

雇用形態に関係なく、事業主が雇用する全ての労働者を指します。
なお派遣労働者については、派遣元のみならず、派遣先も、自ら雇用する労働者と同様の措置を講ずる必要があります。

性的な言動とは・・・

文字通り性的な内容の発言や性的な行動のことをいいます。
具体的な言動例は次の通りです。
わいせつさと関連なくとも、性差別意識から生じる発言も含まれることに注意してください。

*性差別意識から生じる発言をセクシャルハラスメントとせずに、ジェンダーハラスメントとすることもあります。
呼称がどのようなものであれ、現代社会においては、ハラスメントとして認識される可能性が高いので、労働者への継続的な啓発活動が重要です。

  • 性的な事実関係を尋ねること
  • 性的な内容の情報(うわさ)を流すこと
  • 性的な冗談やからかい
  • 食事やデートへの執拗な誘い
  • 個人的な性的体験談を話すこと
  • 性的な関係を強要すること
  • 必要なく身体に触れること
  • わいせつ図画を配布・掲示すること
  • 強制わいせつ行為、強姦など
  • 「男のくせに〜」「女のくせに〜」「女性は〇〇の仕事をやっていれば良い」などの性差別意識から生じる発言

セクシャルハラスメントの種類 〜対価型と環境型〜

次の2タイプがあります。

対価型:強い立場の者が弱い立場の者に性的な言動を行い、拒否や抵抗があった場合に、報復として配置転換や解雇などを行う

環境型:性的な言動により、労働者の業務遂行に支障が生じること

前述の通り、パワーハラスメントと異なり、セクシャルハラスメントは、業務上必要な行為に伴って行われるようなものではありません。
したがって、セクシャルハラスメントは卑劣で、決して許されない行為であることを、より強く労働者に周知する必要があります。

2 セクシャルハラスメント対策としての事業主と労働者の責務

セクシャルハラスメントに限らず、何らかのハラスメント被害が起きた場合、次の4つの責任が生じる可能性があります。

  1. 事業主の安全配慮義務違反による損害賠償責任:安全配慮義務を履行しなかったという契約違反(債務不履行)としての損害賠償
  2. 使用者責任による企業の損害賠償:不法行為を行なった労働者を使用した責任としての損害賠償
  3. 労働者災害補償責任:実際は労働者災害保険から支払われることになりますが、労災認定されること自体が会社の社会的評判の低下に繋がります。
  4. 役員の損害賠償責任:会社法第423条と第429条の適用を受ける場合に、株式会社や従業員に損害賠償責任が生じる可能性があります。

上記4点の詳細については第2回職場におけるパワーハラスメントの項目をご覧ください。

以下では、セクシャルハラスメントに限定された法令を解説します。

事業主の責務

義務

男女雇用機会均等法 第11条第1、2項 

  1. 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
  2. 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。


上記第1項において講じなければいけない措置は次の通りです。

事業主が雇用管理上講ずべき措置

  1. 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
    ⑴ 職場におけるセクシュアルハラスメントの内容・セクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
    ⑵ セクシュアルハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
  2. 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
    ⑶ 相談窓口をあらかじめ定めること。
    ⑷ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、広く相談に対応すること。
  3. 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
    ⑸ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
    ⑹ 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと。
    ⑺ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。
    ⑻ 再発防止に向けた措置を講ずること。(事実が確認できなかった場合も同様)
  4. 1から3までの措置と併せて講ずべき措置
    ⑼ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
    ⑽ 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

上記「1事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」にあるように、事業主がセクシャルハラスメントを許さない旨を明確にすることが重要です。
事業のトップが、セクハラ対策の業務における優先度の高さを示すことで、発生防止体制の構築に労働者も積極的に取り組めます。
事業のトップによる方針の発信がなければ、労働者らにとっての業務の優先度はなかなか上がらず、発生防止体制の構築はなかなか進まないでしょう。

なおこのセクシャルハラスメント防止の措置義務に違反した会社は、厚生労働大臣から報告を求められ、助言、指導もしくは勧告されます(男女雇用機会均等法第29条)。
さらに勧告にも応じない場合は、企業名公表の対象となります(男女雇用機会均等法第30条)。

努力義務

男女雇用機会均等法 第11条第3項
事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第一項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。

男女雇用機会均等法 第11条の2第2項 
事業主は、性的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。

男女雇用機会均等法 第11条の2第3項
事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、性的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。

上記男女雇用機会均等法 第11条第3項は、自社の労働者が、取引先等の労働者に対しセクシャルハラスメントを行なった場合の規定です。
具体的には、他社による事実関係調査やヒアリング等に応じる努力義務があるということです。

労働者の責務

男女雇用機会均等法 第11条第3項
労働者は、性的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。

職場におけるパワーハラスメントのように、事業主や管理職が権力を武器に、セクシャルハラスメント行為に及ぶ事例もあります。

一方で、一般の労働者間においても、セクシャルハラスメントのグレーゾーンにあたる行為は、日々行われている可能性があります。
例えば「彼氏(彼女)いるの?」との会話が何気なく交わされることはあり得るのではないでしょうか?
このような発言は、即座にセクシャルハラスメントと認定されるかはわかりませんが、避けた方が無難な行為です。

日本に限らず、従来の行動基準や性差別意識は、社会に根強く残っています。
事業主としては、セクシャルハラスメント発生防止に向けた周知啓発活動を行う中で、この条文を根拠に労働者自身に継続的な自省を求めても良いでしょう。

3 セクシャルハラスメントに該当するか否かの判断基準について

セクシャルハラスメントの判断基準

厚生労働省は、セクシャルハラスメントの判断基準について、次のように述べています(下線は筆者による)。

 セクシュアルハラスメントの状況は多様であり、判断に当たり個別の状況を斟酌する必要があります。
また、「労働者の意に反する性的な言動」および「就業環境を害される」の判断に当たっては、労働者の主観を重視しつつも、事業主の防止のための措置義務の対象となることを考えると一定の客観性が必要です。
 一般的には意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、一回でも就業環境を害することとなり得ます。継続性または繰り返しが要件となるものであっても、「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」または「心身に重大な影響を受けていることが明らかな場合」には、就業環境が害されていると判断し得るものです。また、男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とし、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当です。

厚生労働省作成パンフレット 「職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!」 より引用

被害労働者の主観を重視しつつも、基準に客観性がなければ事業主は困っていまうため「平均的な女性労働者の感じ方」という言葉を用いています。
誤解を恐れずにいうのであれば、「女性あるいは男性は当然嫌がるよね」という行為が、セクシャルハラスメントに認定されると認識しておくのが良いでしょう。
*ただし「女性あるいは男性は当然嫌がるよね」という行為が何かについては、過去と今で異なるように、今後も変わっていくと考えられます。

別の言い方をすれば、警察に現行犯逮捕されるような行為であれば、一回であろうともセクシャルハラスメントと認定されるでしょう。
一方で、現行犯逮捕されるような行為でなくとも、セクシャルハラスメントと認定される可能性が高い行為はあります。
たとえば、被害者による明確な抗議や心身への重大な影響が明らかにもかかわらず、被害者の意向を無視して繰り返される行為です。

セクシャルハラスメントの判断における誤解や注意点

セクシャルハラスメントに関する判例において、訴えられた側がよく用いる言い分として以下のようなものがあります。
どれもセクシャルハラスメント判断における誤解ですので、事業主はもちろん自社労働者にもしっかりと理解してもらう必要があります。

  • 嫌なら拒否できたはずである。拒否しなかったのは同意している証拠。
    立場が弱い労働者の場合、「拒否したら勤務し続けられないのではないか」といった不安や恐怖から、明確に声を上げられないことがあります。
    したがって「明確な拒否がない=同意あり」という言い分は、通用しません。
  • すぐに「被害の事実を届け出なかった」「医療機関に診てもらわなかった」ということは、大したことがなかったという証拠。
    「自分自身が受けた行為がセクシャルハラスメントである」と、被害を認識することに時間がかかることがあります。
    特に性差別意識に基づく言動は、よく考えないと認識できないことが多々あります。
    さらに性的な恥ずかしさや、自分自身を被害者として認めたくないと言った心理が働き、即座に被害を訴えられないこともあります。
    したがって「被害を受けてからしばらく黙っていた = 大したことなかった」という言い分は、通用しません。
  • 被害を受ける前と後で変わらない生活を送っている。
    このような事態は、判例で「被害の事実と直面するのを避け、ショックを和らげるための防御反応」(熊本地判 平成9年6月25日)と述べている通り、精神的ショックが大きい場合によく見られる状況です。
    したがって「被害を受ける前と後で変わらない生活を送っている = 大したことなかった」という言い分は、通用しません。

4 セクシャルハラスメントが認められた判例

第2回職場におけるパワーハラスメントにおいて紹介した「あかるい職場応援団」でセクシャルハラスメントの事例が3件紹介されています。

A市事件 最三小判 平30年11月6日
セクシャルハラスメント行為で停職6ヶ月とされた市職員が懲戒処分の取消を求めた事件。懲戒処分は適法であるとして、訴えは認められなかった。

海遊館事件 最一小判 平27年2月26日
セクシャルハラスメント行為で懲戒処分を受けた加害者が、処分を不服として訴えた事件。懲戒処分等は有効であるとして、訴えは認められなかった。

広島セクハラ(生命保険会社)事件 広島地判 平19年3月13日
被害者によるセクハラ行為を煽る言動があったとしても、セクハラ行為の行為者及び使用者の損害賠償責任が認められた事件。ただし被害者の落ち度も考慮され、被害者に対する損害賠償額は減ぜられた。

あかるい職場応援団
ハラスメントに関する裁判例を検索し閲覧ことができます。
上記6類型別に検索することはもちろん、パワハラと認められなかったケースなど、計14の切り口から裁判例を抽出することができます。

関連就業規則解説

第3章 服務規律 第13条 セクシュアルハラスメントの禁止

第3章 服務規律 第15条 その他あらゆるハラスメントの禁止

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