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回答
内定後かつ入社前に採用を取り消すケースとしては下記の2つがあります。
- 内定取消事由に該当する場合(卒業できない、健康状態悪化、虚偽申告の判明、犯罪行為など)
内定通知を行う段階で、確実に内定取消事由を伝える必要があります。
ただし、内定取消事由にはなりえないものもあるので注意が必要です(下記解説参照)。 - 経営状況の悪化など会社都合によるもの
判例上、内定通知の時点で、労働契約(正確には始期付解約権留保付労働契約)が成立しているとみなされます。そのため会社都合で内定を取り消すことは、通常の解雇と同レベルの事案であると考えてください。
内定者は、他社への応募などをやめるのが通常であり、内定取り消しは内定者にとって大きな不利益となります。
そのため内定取消は簡単にできるものではありません。
一般的には、採用内定通知がなされた時点が内定であるとされています。
一方で、採用試験が終わり、応募者に採用が決まった旨が伝わっただけの段階を内々定と呼びます。
両者を区別するのが一般的であり、内々定の段階では、まだ労働契約はされていないと考えるのが通説です。
しかしこの内々定の段階であっても、内々定取消は期待権侵害といった不法行為とみなされる可能性があるので、簡単にはできません。
解説
内定は、法律上どのように位置づけられているのか?
内定によって、労働契約が成立していると考えるのが判例の立場です。
始期付解約権留保付労働契約という言い方をすることが多いですが、これは下記のように理解してください。
就労の始期(労働開始時期)を大学卒業後(新卒採用の場合)とし、それまでの間は会社は採用内定取消事由を根拠とする解約権を留保している労働契約
労働者の応募が労働契約の申込みであり、採用内定通知が申し込みに対する承諾と考えられるため、上記のように内定は位置づけられています。
内定取消事由に該当すれば、適法に内定を取り消せるのか?
内定取消事由に該当しなくても、取り消せる場合はあるのか?
有名な判例である大日本印刷事件(最二小判昭和54年7月20日)によれば、内定取消事由に関するポイントは次の通りです。
- 内定取消事由に該当したからといって、そのまま留保解約権行使がいつでも適法となるものではない。
例えば、健康状態について面接段階で伝えていなかったことがあったとしても、職務遂行に何ら影響のないものであれば、取り消しはできないでしょう。 - 明記された内定取消事由以外の事由でも、留保された解約権の範囲内と考えられる場合もある。
例えば、採用内定の期間中にSNS等で会社の評判を貶めたり、犯罪行為を示唆するといった内容の書き込みがあれば、内定取り消し事由になくとも、許される余地はあると考えます。一方で内定前の過去投稿で、犯罪や重大な事件に当たらないものを理由に、内定取消とするのは違法の可能性が高いでしょう。
要するに、「内定取消事由に文面上該当しても違法となる内定取消」となる場合もあり、「内定取消事由に該当しないけれども適法な内定取消」もありうると言っているのです。
判例における文言を引用すれば、内定取消の適法性は、次の2点を満たしているかどうかで判断されることになります。
- 採用内定当時知ることができず、また知ることがでいないような事実かどうか?
- 解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できるか?
上記基準もどうしてもあいまいさが残りますが、経営者として出来ることは、内定取消事由を明記した内定通知を確実に行い、実際の場面では社会常識に照らして判断するしかないと思われます。
なおこのような判例の考え方からすれば、内定通知書に記載する内定取消事由の内容自体も、社会的常識に反するものは許されないのは明らかと言えます。
内定取消を行なった企業名公表について
職業安定法施行規則第17条の4によれば、下記条件に該当する場合に、厚生労働大臣は当該企業名を公表できることになっています。
目的は学生等の適切な職業選択のためとされています。
採用内定取消しの内容が、次のいずれかに該当する場合。
ただし、倒産により翌年度の新規学校卒業者の募集・採用が行われないことが確実な場合を除く。
- 2年度以上連続して行われたもの
- 同一年度内において10名以上の者に対して行われたもの
(内定取消の対象となった新規学校卒業者の安定した雇用を確保するための措置を講じ、これらの者の安定した雇用を速やかに確保した場合を除く。) - 生産量その他事業活動を示す最近の指標、雇用者数その他雇用量を示す最近の指標等にかんがみ、事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないときに、行われたもの
- 次のいずれかに該当する事実が確認されたもの
- 内定取消の対象となった新規学校卒業者に対して、内定取消を行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき
- 内定取消の対象となった新規学校卒業者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき
なおハローワーク等の求人募集を通じて採用した新規学卒者に対し、内定取消を行なった場合には、下記法令に基づきハローワーク等への通知が必要となります。
また筆者が確認したところ、内定取消の理由や求人申込者の意向によっては、労働基準監督署への相談を促すことも行うこともあるとのことです(新規学卒者でない者も対象です)。
厚生労働大臣は、労働者の雇入方法の改善についての指導を適切かつ有効に実施するため、労働者の雇入れの動向の把握に努めるものとする。
2 学校(小学校(義務教育学校の前期課程及び特別支援学校の小学部を含む。)及び幼稚園(特別支援学校の幼稚部を含む。)を除く。)、専修学校、職業能力開発促進法第十五条の七第一項各号に掲げる施設又は職業能力開発総合大学校(以下この条において「施設」と総称する。)を新たに卒業しようとする者(以下この項において「新規学卒者」という。)を雇い入れようとする者は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、あらかじめ、公共職業安定所及び施設の長(業務分担学校長及び法第三十三条の二第一項の規定により届出をして職業紹介事業を行う者に限る。)に人材開発統括官が定める様式によりその旨を通知するものとする。
一 新規学卒者について、募集を中止し、又は募集人員を減ずるとき(厚生労働大臣が定める新規学卒者について募集人員を減ずるときにあつては、厚生労働大臣が定める場合に限る。)。
二 新規学卒者の卒業後当該新規学卒者を労働させ、賃金を支払う旨を約し、又は通知した後、当該新規学卒者が就業を開始することを予定する日までの間(次号において「内定期間」という。)に、これを取り消し、又は撤回するとき。
三 新規学卒者について内定期間を延長しようとするとき。
3 公共職業安定所長は、前項の規定による通知の内容を都道府県労働局長を経て厚生労働大臣に報告しなければならない。
4 省略
5 省略
まとめ
- 内定も労働契約です。
- 会社都合の内定取消は、解雇と同レベルの事案であり、簡単にできるものではありません。
- 内定通知書には必ず内定取消事由を記載しましょう。その上で、内定者に責任があるような内定取消を検討する段階に至った場合は、社会保険労務士や弁護士などの専門家の意見を仰ぎながら判断した方が良いでしょう。
- 場合によっては内定取消企業名が公表されることがある。