うつ病などの既往歴を採用面接で質問することはできますか?

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回答

業務に関連するのであれば、質問の趣旨を伝えた上で、応募者に既往歴を訊くことはできます。
ただし回答の強要は出来ません。

応募者の病歴は、プライバシーに関することであり、非常にセンシティブな問題です。

そのため、質問は可能ですが、下記の点に注意しながら行なってください。

病歴を面接で訊くにあたって留意するべき点
  • 病歴は応募者本人にとって秘匿したいケースも少なくなく、プライバシーに関することで、軽々しく訊けるようなものではないという意識を持つようにしてください。このような意識があれば、自然と言葉の選び方も適したものになっていくでしょう。
  • 事業主にも法律上、従業員に対する安全配慮義務があり、業務に関連するため訊いているということを伝えましょう。
    例)顧客と接する機会が多く、ストレスが少なからずかかる業務であることを伝えた上で、心身ともに健康かどうか?と訊く。
  • 直接面接で訊く自信がないのであれば、質問用紙のようなものを作成し、丁寧に質問の趣旨を伝えて答えてもらいましょう。回答項目欄において「申告しない」といった選択肢を選べるようにしておくといったことも一つの方法です。
  • 質問の工夫によって、応募者側から病歴等を答えてくれることがあります。

会社が期待する働きをしてくれるかどうかは重要な問題であり、入社してすぐに働けなくなってしまっては会社も困るでしょう。

特に日本は、採用の自由は比較的広く認められていますが、解雇はしづらいというのが実情です。このような現実からすれば、なおのこと病歴等を訊きたくなるでしょう。

一方で、近年、プライバシーに対する意識が高まっています。

軽々しく既往歴を訊くといったことがあれば、会社としての品位が疑われる事態に発展することもあるため、慎重に行いましょう。

解説

厚生労働省指針

厚生労働省は、採用における基本的な考えとして下記2つを挙げています。

厚生労働省が考える採用選考の基本的な考え方
  • 応募者の基本的人権を尊重すること
  • 応募者の適性・能力に基づいて行うこ

公正な採用選考の基本(厚生労働省)より引用

さらに、採用選考時に配慮すべき事項として下記を列挙しています。

厚生労働省が挙げる採用選考時に配慮すべき事項

次のaやbのような適性と能力に関係がない事項を応募用紙等に記載させたり面接で尋ねて把握することや、cを実施することは、就職差別につながるおそれがあります。

<a.本人に責任のない事項の把握>

・本籍・出生地に関すること (注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)

・家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)

・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)

・生活環境・家庭環境などに関すること

<b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握>

・宗教に関すること

・支持政党に関すること

・人生観、生活信条に関すること

・尊敬する人物に関すること

・思想に関すること

・労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること

・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

<c.採用選考の方法>

・身元調査などの実施 (注:「現住所の略図」は生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があります)

・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施

上記列挙事由において、「a本人に責任のない事項の把握 家族に関すること」の中に、病歴が含まれています。これは応募者本人のものではありません。

よって、本人の「病歴」は、採用選考時に選考時に絶対に訊くことが出来ない項目ではありません。

「業務に支障がない範囲で応募者が働けるかどうか」は、会社側にとって重要な訊くべきことであるため当然と言えます。

ただし繰り返しになりますが、採用の基本スタンスとして応募者の基本的人権への配慮は必要であり、病歴を無理に申告させるといったことは許されません。また、業務との関連性がないにも関わらず、興味本位で訊くといったことも不適切であると考えるべきでしょう。

またただし、直近3年を超えるほどの過去の病歴を訊くことは、現在働く能力との関連性は低くなるため、やめておいた方が良いでしょう。

企業の安全配慮義務

企業には労働契約法上、従業員に対する安全配慮義務があります。

労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

したがって、この安全配慮義務を果たすためにも、必要な限度で応募者の健康状態を把握することは求められるとも言えます

ストレートに訊くのは難しそうな場合は、どうやって訊けば良いか?

波風立てずに自然な形でうつ病などの既往歴を訊きたいというのが本音でしょう。

応募者側からうつ病等を申告をしてくれる可能性が高い質問を紹介します。

面接で自然な流れで聞きやすく、かつうつ病などの既往歴があれば申告してくれる可能性が高い質問
  • 「前職を退職された理由はどのようなものですか?」
  • 「長い間お仕事をされていない期間がありますが、どういったご事情ですか?」
  • 「短期間にお仕事を変えているようですが、どういったご事情ですか?」
  • 「応募してくれた業務はお客様との関わりが多い仕事ですが、問題ないですか」

まとめ

  • 応募者の基本的人権を尊重しなければいけません。
  • うつ病などの既往歴を訊くにあたっては、業務との関連性と企業の安全配慮義務があることを伝えたうえで、質問しましょう。ただし、直近3年を超えるほどの過去の病歴を訊くことは、現在働く能力との関連性は低くなるため、やめておいた方が良いでしょう。
  • アンケート形式で、持病の有無等を確認するのも一つの手です。
  • 前職での出勤状況など、質問方法を工夫することで、応募者側から既往歴等を答えてくれることもあります。

おすすめの参考資料・サイト

公正な採用選考の基本(厚生労働省)