第1章 総則 第2条 適用範囲

就業規則の適用対象労働者を明示しなければいけません

第2条 (適用範囲)

1 この規則は、_______株式会社の労働者に適用する。

2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。

3 前項については、別に定める規則に定のない事項は、この規則を適用する。

条文の目的・存在理由

当該就業規則が適用される労働者の範囲を明確化するという重要な目的があります。
明確化の方法として下記のような方法があります。

・当該就業規則が適用される労働者を正確に定義する
・適用除外する雇用形態(パートタイマーなど)を具体的に明示

また雇用形態によって異なる労働条件を定める場合は、その雇用形態に応じた就業規則を設けることが必要です。
更に雇用形態別の各就業規則が労働基準法等の基準を満たす必要があります。

リスク① 適用される労働者の定義を明示しないリスク

上記のような第2項・第3項を設ける一方で、

・適用される労働者の定義を明示しない。*正社員という呼称に法律上明確な定義はありません
あるいは
・パートタイマーや非正規雇用労働者などの雇用形態に応じた就業規則を別途作成していない。

という状況があったとします。

このような状況下では例えばパートタイマーから、『パートタイマー向けの就業規則がないので、正社員向けの就業規則が自身には適用される』といった主張がなされることがあり得ます。さらに場合によっては裁判上の争いまで発展する可能性があります。

リスク② 雇用形態別の就業規則が作成されていないリスク

ある規則を正社員のみに適用したいにも関わらず、それ以外の雇用形態向けの就業規則で左記規則が適用されないことを明示していない場合です。
例えば、パートタイム労働者には退職金の支給を想定していないにも関わらず、パートタイム労働者向けの就業規則に退職金の有無に関して記載がない場合が挙げられます。
この場合、退職金に関しては第3項の適用を受け、パートタイム労働者にも正社員と同様に退職金を支払わなければいけなくなります。

リスク③ 法律の基準を満たさない就業規則のリスク

正社員以外向け就業規則に設けられている条項が、法律の基準を満たさずに無効とされることもあります。
その場合、正社員向け就業規則の条項がパートタイマー等に適用されてしまう。参考判例参照

改善案

第2条 (適用範囲)

1 本規則は、第2章第1節で定めるところにより採用され、会社と正社員としての労働契約を結んだ者、もしくは別の雇用形態から正社員へ区分変更された者について適用する。

2 次の各号に該当に該当する者については、本規則は適用しない。

 ①準社員

 ②パートタイマー・アルバイト

このように正社員にのみ適用し、それ以外の労働形態については、適用しないことを明記することをお薦めします。適用する者、適用しない者を明確に区分した上で、パートタイマー就業規則や、嘱託社員就業規則を作成していきましょう。

参考判例

長澤運輸事件 東京地裁 平成28年5月13日

事件概要

定年退職後再雇用された嘱託職員と正社員との間に、①職務内容と②職務内容・配置変更の範囲に差がないにも関わらず、両者の賃金に差があるのは労働契約法第20条違反に当たるかどうかが争われた事件

就業規則との関係において

本判決において、労働契約法第20条違反が認められました。その結果、嘱託職員向けの就業規則と労働契約書の賃金に関する事項が無効となり、当該無効となった部分については正社員就業規則が適用されるとの判断が下されました。

大興設備開発事件 大阪高裁 平成9年10月30日

事件概要

当該企業では、適用対象を正社員に限定していない就業規則しか制定されていなかった。そのような状況下で、60歳を超えて採用された労働者が、就業規則の退職金に関する条項に基づき退職金を企業に請求した事件。

就業規則との関係において

高齢の労働者向け就業規則が存在しないことから、企業に唯一存在する就業規則の退職金に関する規定が、当該高齢従業員にも適用されるとの判決が下されました。上記リスク②で触れたように、適用を除外したい雇用形態が存在する場合は、当該雇用形態向けの就業規則を作成し、かつ高齢者の労働者には退職金を支給しない旨を明記することが必須となります。

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