第3条 (規則の遵守)
会社は、この規則に定める労働条件により、労働者に就業させる義務を負う。また、労働者は、この規則を遵守しなければならない。
条文の目的・存在理由
会社及び労働者の規則遵守義務を明確にするための条文です。
労働基準法第2条2項でも、下記のように定めています。
「労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。」
そのため、本条文がなくても労働者は就業規則を守る必要があります。
遵守義務の再確認という目的で、当該条文を設けた方が良いでしょう。
リスク
この条文が直接の要因となるリスクは特にありません。
しかし労働者に規則遵守を求めるのであれば、会社は労働者への周知義務を果たす必要があります。
労働基準法第106条
使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。
例えばある労働者に就業規則の遵守義務違反があり、会社が解雇条項に基づき懲戒解雇をしたケースを考えます。
このようなケースで就業規則が周知されていない場合、就業規則が法規範としての性質を有しないということで解雇が無効になる可能性があります(下記判例参照)。
なお労働基準法では、周知義務方法として下記のように示されています。
労働基準法第52条の2
①常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備え付ける方法
②労働者に書面を交付する方法
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ、各作業場に労働者がその記録の内容を常時確認できる機器を設置する方法
改善案
リスクはないため、上記条文のままで問題はありません。
しかし、企業によっては、「会社」を当該条文から除外し、「労働者」の就業規則の遵守義務のみを、当該条文に設けています。
労働基準法第2条2項に明記されている通り、「会社(使用者)」にも就業規則の遵守義務があります。
したがってどのような記載方法であっても会社が就業規則を守らなくて良いということにはなりません。
さらに労使の一体感を図るという観点からも当該条文の遵守主体に「会社」を含めるべきだと考えます。
参考判例
フジ興産事件 最二小 平成15年10月10日
事件概要
懲戒解雇された労働者(原告)が解雇予告手当の支給を求めて提訴した事件。
労働者(上告人)は、得意先とのトラブルや上司への反抗によって職場秩序を乱したことを理由に懲戒解雇された。
一方で、会社(被上告人会社)は就業規則の作成と変更それぞれ法律に基づいた手続きをとっていた。
ただし従業員の就業場所に就業規則が備え付けられておらず常時閲覧できる状態になかった。
なお1審・2審では懲戒解雇は有効であるとし、労働者の請求を認められなかった。
就業規則との関係において
1審・2審では、旧就業規則が労働基準監督署に届けられていた事実のみで旧就業規則の法的規範としての効力を肯定していました。
しかし、この最高裁判決では、本件懲戒解雇を有効とした1審2審の判断を是認できないとしました。
そして就業規則の法的規範の効力発生について下記のように述べています。
「就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁昭和40年(オ)第145号同43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁)ものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきである。」
このようにして原判決は破棄され、大阪高等裁判所に差し戻されました。