労働者が50人以上いる事業場は、ストレスチェックを実施しなければいけません
第61条 (ストレスチェック)
1 労働者に対しては、毎年1回、定期に、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を行う。
2 前項のストレスチェックの結果、ストレスが高く、面接指導が必要であると医師、保健師等が認めた労働者に対し、その者の申出により医師による面接指導を行う。
3 前項の面接指導の結果必要と認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等、必要な措置を命ずることがある。
『労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル』
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150507-1.pdf
(厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室作成)
条文の目的・存在理由
2015年12月より、労働者が50人以上いる事業場に対して、労働者に対するストレスチェック(労働安全衛生法66条の10)の実施が義務付けられました。
*アルバイトや派遣労働者等含めて常時使用する労働者が50人未満の事業場は、当分の間、努力義務にとどまります。
なお、努力義務にとどまる事業場のストレスチェック実施を促すために、各種助成金も設けられています。支給条件等は下記サイトをご覧ください。
「ストレスチェック実施促進のための助成金の概要」 https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1256/Default.aspx
ストレスチェックに関する定めは「労働安全衛生」に分類される相対的必要記載事項ですが、労働者が50人以上いる事業場は就業規則に必ず記載しなければいけません。
なお、このストレスチェック制度の狙いと実施手順について、厚生労働省は下記のように示しています。
ストレスチェック制度の狙い
「労働者が自分のストレスの状態を知ることで、ストレスをためすぎないように対処したり、ストレスが高い状態の場合は医師の面接 を受けて助言をもらったり、会社側に仕事の軽減などの措置を実施してもらったり、職場の改善につなげたりすることで、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みです。」
ストレスチェックに関する重要なポイント
・実施義務のある事業場について(*事業場単位であることに注意してください)
労働者数が50人を超える事業場は1年以内ごとに1回、定期的にストレスチェックを実施しなければいけません(労働者数が50人未満の事業場の場合は、当面の間は「行うように努めなければいけない」という努力義務とされています)。
なお面接指導の費用は、事業者が負担しなければなりません。
・ストレスチェックの実施者について
実施者は、医師、保健師又は所定の研修を修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理士でなければいけません(労働安全衛生法第66条の10第1 項)。
ただし上記以外の者が実施事務従事者として、実施者の指示の下で実務を行うことは可能です。
具体的に可能な実務例として、個人の調査票のデータ入力、結果の出力又は記録の保存(事業者に指名された場合に限る)等があります。
なお、解雇、昇進や異動などに関する権限を持つ監督的地位にある者は、実施者はもちろん実務従事者にもなることはできません。
詳しくは『労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル』の26ページをご覧ください。
・ストレスチェックの対象労働者について
一般定期健康診断の対象者と同様です。
①期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
②その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
・ストレスチェックの結果の取り扱いに関して
ストレスチェックの結果は、実施者から労働者に直接通知されなければいけません。
そして本人の同意がない限り、事業者は把握してはいけません(労働安全衛生法第66条の10第2項)。
なお労働者の同意を得て事業主が検査結果を取得した場合、当該検査結果を記録して5年間保存しなければいけません。
・面接指導の実施と事後措置 (労働安全衛生法第66条の10第3、5、6項)
①ストレスチェックの結果、高ストレスで、かつ面接指導が必要であると医師等が認めた労働者であること
②その労働者が面接指導の申し出を行うこと
上記①②の要件が満たされた場合には、医師による面接指導が実施されなければいけません(医師ら実施者から申出の勧奨を行うことが望ましいとされています)。
また、事業者は、面接指導の結果をふまえて就業上の事後措置を講じなければいけません。
その際に、事業者は、医師の意見を聴き、意見を勘案して、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じます。
なお面接指導の申し出を行ったことを理由に、当該労働者に対して不利益な取扱をすることは禁じられています。
・面接指導の結果記録と報告について(労働安全衛生法第66条の10第4項、労働安全衛生法規則52条の18、21)
面接指導が行われた場合、事業者は指導結果の記録を作成し、5年間保存しなければいけません。
また、報告義務についても
労働安全衛生法規則52条の21
「常時50人以上の労働者を使用する事業者は、1年以内ごとに1回、定期に、心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない」
とされています。
リスク
この条文に関するリスクはありません。
制度の導入に当たっては、上記で示した「ストレスチェック制度導入マニュアル」が非常に参考になります。https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150709-1.pdf
改善案
改善案はありません。
参考判例
ストレスチェック制度に直接関連する参考判例はありません。
しかし、東芝事件(最高裁判所第二小法廷判決 平成26年3月24日 )のように、精神疾患に関連した労使間の争いは多数存在します。
精神疾患の原因について、業務上のものか否かの判断が難しいこともあり、その判断をめぐって争われることが多々あります。
そのため厚生労働省は、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日基発1226第1号)を公表しています。
会社としてはストレスチェック制度などを利用して、労働者の精神疾患を未然に防ぐことが、非常に重要です。
「心理的負荷による精神障害の認定基準について」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj-att/2r9852000001z43h.pdf
東芝事件の概要
プロジェクトリーダーを担っていた労働者A(原告)は、不眠症などの不調が発症し、会社に業務の軽減などを申し入れた。
しかし会社は申し入れを受け入れなかった。
その後にも業務追加等がなされた労働者Aは、さらに体調が悪化し、全有給休暇を取得後に休職した。
そして休職期間満了後に解雇された。
労働者Aは、うつ病の発症原因は過重な業務であるとして、解雇無効を主張し、地位の確認と解雇後の賃金、慰謝料等を求めて提訴した。
・第一審では、会社が業務を軽減しなかったことは安全配慮義務違反にあたるとした。
・第二審でも、会社側の責任が認められたが、労働者Aが外部の病院に通院していた事実や病名を会社に伝えていなかったことが考慮された。
そして労働者Aにも病状悪化について一部責任はあるとして、過失相殺となり損害賠償額が減額された。
・最高裁では、会社は労働者Aの体調の悪化に気付ける状況にあったことや通院の事実や病名の情報の性質について下記のように述べました。
そして、過失相殺を認めず、一部を破棄し東京高裁に差戻した。太字化は筆者による。
「自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報は、神経科の医院への通院、その診断に係る病名、神経症に適応のある薬剤の処方等を内容とするもので、労働者にとって、自己のプライバシーに属する情報であり、人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であったといえる。使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ、上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。」
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