教育訓練に関する定めを設ける場合には、就業規則に記載しなければいけません

第63条 (教育訓練)
1 会社は、業務に必要な知識、技能を高め、資質の向上を図るため、労働者に対し、必要な教育訓練を行う。
2 労働者は、会社から教育訓練を受講するよう指示された場合には、特段の事由がない限り教育訓練を受けなければならない。
3 前項の指示は、教育訓練開始日の少なくとも_週間前までに該当労働者に対し文書で通知する。

条文の目的・存在理由

事業環境が、短期間に大きく変化しやすい昨今において、労働者に対する教育訓練はますます重要になっています。
この「教育訓練」は職業訓練に分類され、就業規則の相対的必要記載事項です。
したがって会社において教育訓練に関する定めを設ける場合には、就業規則に記載しなければいけません。

教育訓練に関する主な注意点は下記の通りです。

教育訓練の費用について

受講を義務付ける教育訓練:会社負担にしなければいけません。
受講を義務付けない教育訓練:労働者負担としても問題ありません。

教育訓練の実施時間の扱いについて

受講を義務付ける教育訓練:労働時間であり、時間外労働の場合は割増賃金も必要
受講を義務付けない教育訓練:労働時間として扱う必要はありません。

性別に基づく差別的扱いについて

会社が、労働者に対する教育訓練において、性別を理由に差別的取扱いをすることは禁止されています(男女雇用機会均等法第6条)。

パートタイム労働者に対する教育訓練について

正社員と職務内容が同じパートタイム労働者に対しては、職務遂行に必要な能力を既に身に付けている場合を除き、正社員と同様の教育訓練を実施することが義務付けられています。(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)第12条

「パートタイム労働法のあらまし」(厚生労働省作成)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintou/part/pamphlet/0000143940.pdf

リスク 

上記で述べた通り、労働者に受講を義務付けた教育訓練費用は、当然会社が負担すべきものです。
労働者が受講後に退職したとしても費用返還請求することはできません。

一方で、受講が任意の教育訓練に対して会社が費用負担する場合は、退職の際の取り扱いについて、就業規則で明確にしておく必要があるでしょう。
就業規則で明確化するにあたって、念頭に置かなければいけないのは労働基準法第16条「賠償予定の禁止」の規定です。

なお費用返還請求を行うことが労働基準法第16条違反とならない判例として、下記で解説している長谷工コーポレーション事件(東京地方裁判所判決 平成9年5月26日)をご覧ください。

改善案

第63条 (教育訓練)

1 会社は、業務に必要な知識、技能を高め、資質の向上を図るため、労働者に対し、必要な教育訓練を行う。受講を義務付けられた教育訓練は、原則として所定労働時間内に実施する。当該教育訓練が所定労働時間外に及ぶときは、所定外労働として賃金を支給する。この場合の教育訓練費用は会社負担とする。

2 労働者は、会社から教育訓練を受講するよう指示された場合には、特段の事由がない限り教育訓練を受けなければならない。

3 前項の指示は、教育訓練開始日の少なくとも_週間前までに該当労働者に対し文書で通知する。

参考判例

長谷工コーポレーション事件 東京地判 平成9年5月26日

事件概要

労働者A(被告)は、会社の留学制度を利用して海外大学院に2年間留学した。
労働者Aは会社に対して、「帰国後一定の期間を経ずに、特別な理由なく会社を退職する場合、会社が支払った一切の留学費用を返却する」旨が記載された誓約書を提出していた。

その後、大学院を卒業し帰国した労働者Aは、2年5ヵ月勤務して退職した。
そのため会社は、上記誓約書に基づいて、労働者Aに対し留学費用のうち学費分の返還を求めて提訴した。

一方で、労働者Aは、下記趣旨の主張をしていた。
上記誓約書により金銭消費貸借契約は成立していない、仮に成立していたとしても、そのような契約は労働基準法第16条に違反し無効である

就業規則との関係において

会社側の主張が認められ、労働者Aの敗訴となりました。判決において、今回の返還請求が労働基準法第16条に違反しないとされた論理展開は下記の通りです。

① 今回の留学は、会社の業務命令によるものではない。労働者Aの意思で応募し、行われたものである。
さらに留学による学位取得や現地での経験等は、会社業務に直接役立つというわけではない。
そのため、今回の留学費用に関する契約は、労働契約とは関係ないものである

② 労働者Aは、「帰国後一定の期間を経ずに、特別な理由なく会社を退職する場合、会社が支払った一切の留学費用を返却する」旨が記載された誓約書を、会社に提出していた。

③ ①②より、今回の留学費用に関する契約は、一定期間勤務した場合に返還が免除される特約が付いた金銭消費貸借契約である。
したがって、研修費用の返還は、労働契約の不履行が原因で生じたものではなく、(労働基準法第16条が禁止する)違約金の定め、損害賠償額の予定には該当しない。

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