第3章 服務規律 第13条 セクシュアルハラスメントの禁止

セクシュアルハラスメントの防止措置を講じることは会社の義務です

第13条 (セクシュアルハラスメントの禁止)

性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。

条文の目的・存在理由

男女雇用機会均等法第11条により会社は、セクシュアルハラスメントの防止に必要な雇用管理上の措置を講じることを義務付けられています。
それだけでなく労働者の働きやすい環境づくり、被害者の保護、企業秩序の維持といったためにも記載すべき条文です。
男女雇用機会均等法では下記の事項が事業主の義務として明記されています。

1 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発 セクハラの内容、「セクハラが起きてはならない」旨を就業規則等の規定や文書等に記載して周知啓発する 
2 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 セクハラの被害を受けた者や目撃した者などが相談しやすい相談窓口(相談担当者)を社内に設ける 。
3 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応など セクハラの相談があったとき、すみやかに事実確認し、被害者への配慮、行為者への処分等の措置を行い、 改めて職場全体に対して再発防止のための措置を行う。

厚生労働省パンフレット「今後の雇用均等行政について」 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000333507.pdf

なおセクシュアルハラスメントは大きく分けて下記の2つに分かれます。

・対価型セクシュアルハラスメント
性的言動を受けた労働者の対応によって、当該労働者の処遇(職位や勤務場所など)を変更すること

・環境型セクシュアルハラスメント
性的な言動によって当該労働者の就業環境が悪化し、能力の発揮に重大な悪影響が生じ、就業に支障が生じること。

リスク 労働者間の認識相違によるトラブルの可能性

パワーハラスメントと違い、適切な指導が行われなくなるといった可能性はほとんどありません。
しかし、セクシュアルハラスメントの定義が曖昧だと、労働者間の認識の相違によってトラブルが生じかねません。
したがって就業規則本文あるいは別途規程を設けて、定義や相談窓口、厳正処分方針を明確にする必要があります。

改善案

第13条 (セクシュアルハラスメントの禁止)

1 性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。ここで言う他の労働者とは性的言動を直接受けた者だけでなく、性的言動によって就業環境を害された労働者全ての者を含む。

2 労働者は職場内において、性的言動に関わる下記の行為をしてはならない。なおここで言う職場とは、業務を遂行する全ての場所を含む。また職務に関連した就業時間外でも下記の行為をしてはならない。

 ① 性的および身体上の事柄に関する不必要な質問や発言 
 ② 不必要な身体への接触 
 ③ 噂の流布 
 ④ わいせつ図画の閲覧、配付、掲示 
 ⑤ 性的な言動により、他の労働者の就業意欲を低下させ、能力発揮を阻害する行為 
 ⑥ 交際・性的関係の強要 
 ⑦ 性的な言動への抗議または拒否等を行った労働者に対し、解雇、不当な人事考課、配置転換等の不利益を与える行為 
 ⑧ その他、相手方および他の労働者に不快感を与える性的な言動

3 労働者は、他の労働者がセクシュアルハラスメントの被害を受けている事態を黙認してはならない。

4 セクシュアルハラスメントの相談窓口は〇〇部とする。会社は、セクシュアルハラスメントに関する相談者に不利益な扱いをすることはない。

1項について
直接被害を受けた労働者だけではなく、他の労働者も含むことを明記しています。

2項について
就業時間中におけるあらゆる場所や就業時間外の懇親の場などにおけるセクシュアルハラスメントを防止するためこのように記載しています。

参考判例

海遊館事件 最一小判 平成27年2月26日

事件概要

男性管理職2名が部下の女性派遣労働者(原告)らに対して繰り返し性的発言等を行っていた。
会社は労働者らにセクハラ禁止文書を配布していた。
その禁止文書記載の行為と就業規則記載の禁止行為に該当するとして、会社は、男性管理職2名を出勤停止処分、降格処分を含む懲戒処分を行った。
 
男性管理職2名は、

①本件各処分の無効確認
②降格前の地位確認
③本件各処分による出勤日数減少を原因として減額された給与・賞与の減額分および遅延損害金
④本件各降格を原因として減額された給与減額分の支払

を求めた。
さらに本件各処分および本件降格が不法行為に当たるとして、慰謝料および遅延損害金の支払いを求めた。
懲戒処分が1審では有効、2審では無効、最終審では有効と判断された。

就業規則との関係において

女性労働者(原告)による被害訴えの前に、会社側から直接男性職員への事前の警告は行われませんでした。
そのことを理由に第二審で処分は無効となりました。

一方で会社は、厚生労働省指針に則って、就業規則への記載などの周知・啓発措置を十分に講じていました。
最高裁判決においてもその事実が認められました。
その結果、会社側の十分な周知・啓発措置があったにも関わらず、セクシュアルハラスメントが長期に行われていたことが重視され、処分は妥当であるとの判断が下されたのです。

この事件からは、下記事項が教訓として見出せます。

・会社は厚生労働省指針に沿った十分なセクハラ防止措置を講じる必要がある。
・会社は、十分なセクハラ防止措置を講じることによって、被害者に対する損害賠償等の責任を負わなくなる。
・加害労働者への懲戒処分も正当と認められやすくなる。

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