適切な労務管理のために始業及び終業時刻を記録させなければいけません

第17条 (始業及び終業時刻の記録)

労働者は、始業及び終業時にタイムカードを自ら打刻し、始業及び終業の時刻を記録しなければならない。

条文の目的・存在理由

労働者の労働時間管理を適正に行うために必要な条文です。
管理方法はタイムカードに限定されていません。
近年利用企業が増えている勤怠管理システムでも問題はありません。

労働時間の把握義務の法律上の根拠は、労働基準法第108条の賃金台帳作成義務にあります。
賃金台帳を作成する際には、時間外労働を含めた労働時間の記入が必要となっているためです。

厚生労働省が作成した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」において、下記のように記されています。

「労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかである。」

そして労働時間の具体的管理方法として下記のように記されています。

・使用者が、自ら現認することによりこれを確認し、記録すること。
・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。

上記のような客観的方法で労働時間を管理することが難しく、自己申告制にならざるを得ない業態もあります。
そのような場合でも、

・労働者側に適切な自己申告をするよう十分な説明をすること
・自己申告労働時間と事業場内にいた時間の客観的記録の乖離をチェックするなどの必要に応じた実地調査

も事業主に求められています。

リスク① 実労働時間とタイムカード等の打刻時間の乖離によるトラブル

実労働時間とタイムカード等に記録された時間の乖離から、労使間での法廷上の争いになるケースが多くあります。
背景には、長時間労働やサービス残業に対する行政・社会の眼が厳しくなり、労働者自身もそのような問題に対して声をあげやすくなっていることがあるでしょう。
労働者との信頼関係を構築するためにも、労働時間の正確な管理が求められます。

賃金計算の端数の取り扱いについて

残業代は何分単位で計算しなければいけないのでしょうか。
原則は1分単位で計算しなければいけません。
しかし、これでは給与計算処理が煩雑になってしまいます。
そのため、この点について下記のような行政通達が出されています。

次の方法は、常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから、法第24条及び第37条違反としては取り扱わない。 
(1) 1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1 時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。 
(2)1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。 
(3)1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1 円未満の端数が生じた場合、(2)と同様に処理すること。 

(昭和63年3月14日 基発第150号)

注意しなければいけないのは、下記の2点です。

①1日単位で時間外労働等の端数処理を行なってはいけない
 例)2時間15分 → 2時間

②30分未満の端数を切り捨てる一方、30分超の端数を30分とすることは違法
 例)44分 → 30分(違法) 44分 → 1時間(適法) 

リスク② 始業・終業時刻に対する労使間の認識相違

タイムカードに記録すべき時刻を、物理的に出退社した時刻とすることができます。
あるいはまさに業務に取り掛かる、あるいはやめる時刻とすることもできます。
その結果会社のルール次第で、残業代や労働時間が大きく変わることになります。
 
業務終了後の労働者同士の雑談時間にまで残業代が発生するというのは、不合理です。
したがって、始業・終業時刻の定義を明確にし、労使間の認識相違を解消する必要があります。

判例では、労働時間に該当するかどうかの判断基準として、

「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」(三菱重工長崎造船所事件 最一小判平12・3・9)

かどうかを挙げています。
したがって作業の合間である手待ち時間や、会社指示で制服に着替える時間なども労働時間に含まれます。

改善案

第17条 (始業及び終業時刻の記録)タイムカード設置場所と業務を行う場所が離れていない場合

労働者は、始業及び終業時にタイムカードを自ら打刻し、始業及び終業の時刻を記録しなければならない。始業時刻は所定の就業場所で業務を開始する時刻をいい、終業時刻は業務の終了の時刻をいう。なお他人にタイムカードを打刻させる、事実と相違する時刻を打刻するなどの不正を行った者は懲戒処分とする。

第17条 (始業及び終業時刻の記録)タイムカード設置場所と業務を行う場所が離れている場合

労働者は、出社時及び退社時にタイムカードを自ら打刻し、出社及び退社の時刻を記録しなければならない。ただし、タイムカードで示す出退社時刻は会社への出入り時刻を示すものであり、始業・終業時刻を示すものではない。なお他人にタイムカードを打刻させる、事実と相違する時刻を打刻するなどの不正を行った者は懲戒処分とする。

会社によっては、タイムカード設置場所と業務を行う場所が離れている場合があります。
この場合のタイムカード設置趣旨は、給与計算ではなく、客観的な労務管理データの取得にあると言えます。
したがって就業規則記載の始業・終業時刻に基づいて賃金を支払い、タイムカードに記録された時刻はサービス残業などが行われていないか等のチェックに利用することになるでしょう。

なお労働時間をめぐるトラブルを防止するためにも下記のようなルールを設けることが有用です。

・始業・終業時刻と15分超の差異が生じる場合は、乖離理由を記す。
・時間外労働を行う場合は、上司などの労務管理者に事前に届出を行う。

参考判例

プロッズ事件 東京地判 平成24年12月27日

事件概要

労働者A(原告)は、商業デザインの企画、制作、販売を業とする会社で、グラフィックデザインの業務に従事していた。
当該会社はタイムカードにより労働時間管理が行っていた。
しかし出退勤時刻の記録がないケースや、手書きでの時刻や『直行』などの記載もあった。
労働者Aは、時間外労働などに対する割増賃金や付加金の支払等を会社に求めて提訴した。

*労働基準法114条 (付加金について)
裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第9項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から5年以内にしなければならない。

就業規則との関係において

判決では、使用者がタイムカードで労務管理を行なっているのであれば、タイムカードに記録された時間でもって、労働時間や出勤の有無を推定することが相当であるとしています。
しかし、そのタイムカードの記録よりも客観的で合理的な証拠が存在するのであれば、その方法でもって労働時間や出勤の有無を推定するべきであるとしています。

この判決では、原告のパソコン上のデータの保存記録やメールの送信時刻などの客観的な証拠を根拠に、会社側は時間外労働手当や付加金の支払いを命じられました。
 
このような結果は労使双方にとって不幸なことです。
労使双方がルール遵守を徹底し、日々正確な労働時間を報告・管理することが必要です。

*パソコン上のデータの保存記録について、「データ保存時刻=出勤時刻」などのようには判断しませんでした。
変更や修正が多く要求されるグラフィックデザインという業務の性質上、データ保存記録時刻より2時間前に始業していたと推定するなど、より細かに労働時間が推定されています。

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