時間外及び休日労働などがあり得る場合は記載しなければいけません
第21条 (時間外及び休日労働等)
1 業務の都合により、第19条の所定労働時間を超え、又は第20条の所定休日に労働させることがある。
2 前項の場合、法定労働時間を超える労働又は法定休日における労働については、あらかじめ会社は労働者の過半数代表者と書面による労使協定を締結するとともに、これを所轄の労働基準監督署長に届け出るものとする。
3 妊娠中の女性、産後1年を経過しない女性労働者(以下「妊産婦」という)であって請求した者及び18歳未満の者については、第2項による時間外労働又は休日若しくは深夜(午後10時から午前5時まで)労働に従事させない。
4 災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合には、第1項から前項までの制限を超えて、所定労働時間外又は休日に労働させることがある。ただし、この場合であっても、請求のあった妊産婦については、所定労働時間外労働又は休日労働に従事させない。
条文の目的・存在理由
時間外労働および休日労働を命ずることを可能とするための条文です。
労働基準法では、労働者に法定労働時間を超えて働かせることができるケースとして下記2つのみを挙げています。
①災害その他避けられない事由により臨時の必要がある場合(労働基準法33条1項)
②労使協定を締結し、それを監督署に届けている場合で、業務上やむを得ない場合
②の労使協定(いわゆる36協定)は、時間外労働等を命じても罰せられないという免罰効果しかありません。
そのため繰り返しになりますが、時間外労働および休日労働を命ずることを可能とするためにこの条文は必要です。
なお問題なく時間外労働命令権を会社側が有していたとしても、労働者個人の私生活に支障を来たすような時までも時間外労働命令が有効となるわけではありません。
年少者(18才未満の者)と妊産婦(妊娠中もしくは産後1年以内の女性)について
上記① | 上記② | |
年少者 | 時間外労働をさせることができる | 時間外労働不可 |
(管理監督職でない)妊産婦 | 本人からの請求がある場合は時間外労働をさせられない | 本人からの請求がある場合は時間外労働をさせられない |
注1)妊産婦については変形労働時間制の対象でも、1日8時間あるいは1週40時間を超えて労働させることはできません。
注2)管理監督職に就く妊産婦には、時間外労働に関する規制が適用されません。
リスク① 無許可の時間外労働の発生について
労働契約によって労働者に労務提供を義務付けられるのは、所定労働時間内のみです。1日ごとに「働いてください」といった労働そのものに対する管理監督職の指示があるわけではありません。
しかし、時間外における労働者の労務提供義務は、使用者側の時間外労働命令があって初めて発生します。裏を返せば使用者の指示あるいは許可なく時間外労働が行われてはいけませんし、無許可の時間外労働に対し割増賃金等を払う義務はありません。
労働者の健康管理、働き方改革、割増賃金などの抑制といった観点からも、時間外労働については許可制であることを明示すべきです。
リスク② 時間外労働の上限規制について
2019年4月の労働基準法改正により、時間外労働および休日労働の時間数に上限が設けられました。この上限については、就業規則に記載する必要はありませんが、重要な事項であるため下記に概要を示します。
改善案
第21条 (時間外及び休日労働等)
1 業務の都合により、第19条の所定労働時間を超え、又は第20条の所定休日に労働させることがある。また、やむを得ず時間外労働が必要となり、時間外、休日労働を労働者が希望する場合は、必ず所属長の許可を得なければいけない。
2 前項の場合、法定労働時間を超える労働又は法定休日における労働については、あらかじめ会社は労働者の過半数代表者と書面による労使協定を締結するとともに、これを所轄の労働基準監督署長に届け出るものとする。
3 妊娠中の女性、産後1年を経過しない女性労働者(以下「妊産婦」という)であって請求した者及び18歳未満の者については、第2項による時間外労働又は休日若しくは深夜(午後10時から午前5時まで)労働に従事させない。
4 災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合には、第1項から前項までの制限を超えて、所定労働時間外又は休日に労働させることがある。ただし、この場合であっても、請求のあった妊産婦については、所定労働時間外労働又は休日労働に従事させない。
(変形労働時間制を導入している企業の場合)
5 妊産婦であって、変形労働時間制が適用される労働者が請求した場合は、1日8時間、1週40時間を超えて労働させることはしない。
参考判例
クロスインデックス事件 福岡地判 平成9年12月25日
事件概要
労働者A(原告)が勤務する会社では、所定就業時刻前に会社代表者に対し残業申請し、承認を得るという残業承認制度が採用されていた。労働者Aは時間外労働の承認を受けずに時間外労働を行なっていた。会社代表者が承認した退社時刻から会社にメール送信した最後の時刻までの間の割増賃金が払われていないと労働者Aは主張し、割増賃金と付加金の支払いを請求した事件。
就業規則との関係において
労働者Aは他の従業員に比べ勤続年数が長く、多岐にわたる業務を請け負っており、所定時間内に業務を終えることは難しい状況にありました。そのため時間外労働が常態化していました。また、所定終了時刻には残りの業務が確定せず、正確な残業申請が困難であったことも主張していました。その上で、判決では下記のように述べ、原告の主張する割増賃金の支払いを認めました。(太字は筆者による)
「被告が原告に対して所定労働時間内にその業務を終了させることが困難な業務量の業務を行わせ、原告の時間外労働が常態化していたことからすると、本件係争時 間のうち原告が被告の業務を行っていたと認められる時間については、残業承認制度に従い、原告が事前に残業を申請し、被告代表者がこれを承認したか否かにかかわらず、少なくとも被告の黙示の指示に基づき就業し、その指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当であり、割増賃金支払の対象となる労働時間に当たるというべきである。」
原告の時間外労働が常態化していたことから黙示の指示を認められましたが、上記結論を補強するものとして下記のようにも述べています。
「被告代表者は、午後 7 時過ぎ頃に退社する際に会社に残っている原告を見かけるとともに、原告から深夜にメールを受信することもあったほか、原告に対して事前の残業申請がないことを理由に本件管理帳の退社時刻の記入の修正を求めた際にも、忙しくて残業申請する時間がなかったのは言い訳にならず、被告の規律に従うよう伝えるにとどまり、残業そのものを否定していなかったと認められる。これらによれば、被告は、被告代表者が承認した以外にも原告が残業していたことを現に認識していたといえ、このことも上記結論を補強する事情となるものである。」
業務量が多く時間外労働が常態化している場合は、監督管理職の許可の有無に関わらず、労働時間性が認められるという判例の傾向があります。したがって、形式的に時間外労働に関するルールを設けるだけでなく、労働時間を実質的に減らしてく取り組みを実践していく必要があります。
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