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第6章 賃金 第36条 通勤手当 | 医療 クリニック 介護 福祉 の人事制度・就業規則

第6章 賃金 第36条 通勤手当

通勤手当を制度として設けるかどうかだけでなく、金額も会社の裁量で決定できます

第34条 (通勤手当)

通勤手当は、月___円までの範囲内において、通勤に要する実費に相当する額を支給する。

条文の目的・存在理由

会社は労働契約上、労働者に対し労務提供のみを求めており、通勤にかかる費用の負担義務はありません。
したがって制度として設けるか否かだけでなく、金額も会社の裁量で決定できます。
通勤手当を設ける場合は、通勤手当も賃金に該当するため、支給方法等含めて就業規則に記載する必要があります。

通勤手当を設ける際の注意点

・通勤にかかる実費分を通勤手当として支給する場合は、福利厚生費的性格が強いため、割増賃金の基礎となる賃金から除外できます。
 モデル条文のように上限がある場合も、上限を限度に除外できます。

・労働者に対し、住居地等に関係なく一律〇〇万円のように支払う場合は、割増賃金の基礎となる賃金に算入する必要があります。

・就業規則に通勤手当の金額を定めた場合は、会社は支給が義務付けられます。

・通勤手当は、交通手段に応じて非課税限度額が設けられています。非課税限度額を超える部分に対しては、給与として所得税が課税されます。参考)国税庁HP https://www.nta.go.jp/users/gensen/tsukin/index2.htm

*出張費は業務に必要な費用です。したがって通勤費と異なり、会社が全額を負担しなければいけません

リスク① 実費相当の範囲が曖昧になりうる点

電車やバスを利用する場合、ルートによって費用が異なることが多々あります。
したがって実費相当を支給するにしても、最も簡便なルートとして会社が認めた場合の費用に限定すべきでしょう。

リスク② 非課税限度額について言及がない点

就業規則上の上限額が、非課税限度額より大きい場合は注意が必要です。
公共交通機関のみ利用する場合、通勤手当の非課税限度額は、月額15万円です。
この額を超えることは、あまりないとはいえ非課税限度額を超えて支給するのかしないのかについて言及するべきです。

リスク③ 不正受給を許さない旨の言及がない点

多くの場合、定期券等は、労働者自身で購入する事になるでしょう。
その場合、一番高い費用で申請して、実際は一番安いルートで通勤するといった不正が行われるかもしれません。
したがって、不正受給があった場合は、懲戒処分とする旨の言及が必要です。
なお不正受給の防止策として、定期券等のコピーを提出させるといった方法があります。

改善案

第34条 (通勤手当)
1 通勤手当は、月___円までの範囲内において、通勤に要する実費に相当する額を支給する。ただし、通勤手当の計算に用いる通勤の経路及び方法は、最も合理的かつ経済的であると会社が認めたものに限る。なお計算した通勤手当額が非課税限度額を超える場合は、非課税限度額を限度とする。 

2 転居等により通勤経路を変更するときや通勤距離に変更が生じたときは、速やかに会社に届け出なければならない。 

3 前2項の届出を怠った場合、または不正の届出により通勤手当を不正に受給した場合は、不正受給額の返還を求め、就業規則に基づく懲戒処分の対象とすることがある。

参考判例

光輪モータース事件 東京地判 平成18年2月7日

事件概要

当該会社(被告)では通勤手当につき実費支給としていた。
労働者A(原告)は、公共交通機関を使用する経路を会社に申告していたが、実際はオートバイ通勤だった。
しかし通勤経路の変更を届け出ず、元々の通勤経路に基づく通勤手当を約4年半にわたり受領し続けた。
その結果合計約35万円の差額分を不正受給していた。
そして会社は、労働者Aを懲戒解雇した。
一方で、労働者Aは、懲戒解雇の処分は重すぎる旨と懲戒解雇の無効を主張し、地位の確認および賃金の支払いを求めて提訴した。

就業規則との関係において

判決では、懲戒解雇処分は、会社の懲戒権の濫用であり、解雇は無効であると判断しました。
その際には下記の点が考慮されました。


・会社で認められていたオートバイ通勤の場合、住居最寄駅から会社までの交通費が通勤手当として支給されていた。
 この扱いとの対比から、支給された通勤手当の範囲内であれば節約した交通費分を受領しても構わないと労働者Aが考えていたこと

・当初から過大請求しようとした詐欺的な場合と異なり、本件不正受給の動機自体は悪質とは言えないこと

・差額総額は約35万円であり、会社の現実的な経済的損害は大きいとはいえず、労働者A(原告)は返還する準備をしていること


通勤手当をめぐる裁判例は他にもあり、不正受給金額が多額で悪質であり、懲戒解雇は有効であると判断されたものもあります。
裁判においては、金額の多寡だけでなく、通勤手当に関するルールを会社がどれだけ周知徹底しているか、正しい経路を申告しなかった動機、詐取目的の有無等が考慮されて判断されています。

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