第6章 賃金 第42条 代替休暇

1か月に60時間超の時間外労働を行った労働者に対し付与することができます

第42条 (代替休暇)  
1 1か月の時間外労働が60時間を超えた労働者に対して、労使協定に基づき、次により代替休暇を与えるものとする。 

2  代替休暇を取得できる期間は、直前の賃金締切日の翌日から起算して、翌々月の賃金締切日までの2か月とする。 

3  代替休暇は、半日又は1日で与える。この場合の半日とは、 午前( : ~ : )又は午後( : ~ : )のことをいう。 

4 代替休暇の時間数は、1か月60時間を超える時間外労働時間数に換算率を乗じた時間数とする。この場合において、換算率とは、代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率50%から代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率35%を差し引いた15%とする。また、労働者が代替休暇を取得した場合は、取得した時間数を換算率(15%)で除した時間数については、15%の割増賃金の支払を要しないこととする。 

5 代替休暇の時間数が半日又は1日に満たない端数がある場合には、その満たない部分についても有給の休暇とし、半日又は1日の休暇として与えることができる。ただし、前項の割増賃金の支払を要しないこととなる時間の計算においては、代替休暇の時間数を上回って休暇とした部分は算定せず、代替休暇の時間数のみで計算することとする。

6 代替休暇を取得しようとする者は、1か月に60時間を超える時間外労働を行った月の賃金締切日の翌日から5日以内に、会社に申し出ることとする。代替休暇取得日は、労働者の意向を踏まえ決定することとする。 

7 会社は、前項の申出があった場合には、支払うべき割増賃金額のうち代替休暇に代替される割増賃金額を除いた部分を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、当該月の末日の翌日から2か月以内に取得がなされなかった場合には、取得がなされないことが確定した月に係る賃金支払日に残りの15%の割増賃金を支払うこととする。 

8 会社は、第6項に定める期間内に申出がなかった場合は、当該月に行われた時間外労働に係る割増賃金の総額を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、第6項に定める期間内に申出を行わなかった労働者から、第2項に定める代替休暇を取得できる期間内に改めて代替休暇の取得の申出があった場合には、会社の承認により、代替休暇を与えることができる。この場合、代替休暇の取得があった月に係る賃金支払日に過払分の賃金を精算するものとする。

注意)「代休」と用語は似ていますが全く異なるものです。「代休」は、休日に休日労働を行わせた場合に、その代わりに以後の特定の勤務日又は労働者の希望する任意の勤務日の労働義務を免除し、休みを与える制度のことです。

条文の目的・存在理由

代替休暇を簡単に説明すると、

残業が60時間を超えた場合に、その超えた分の労働の対価を金銭でもらうか有給休暇でもらうかを労働者に選択させる制度

です。この代替休暇について厚生労働省は下記のように説明しています。(太字は筆者による)

『特に長い時間外労働を抑制することを目的として、1か月に60時間を超える時間外労働については、法定割増賃金率が50%以上とされていますが、やむを得ずこれを超える時間外労働を行わざるを得ない場合も考えられます。 このため、そのような労働者の健康を確保する観点から、平成22年4月1日より1か月に60時間を超えて時間外労働を行わせた労働者について、労使協定により、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えて、有給の休暇を与えることができることとしたものです。

モデル就業規則解説より引用 https://www.mhlw.go.jp/content/000496428.pdf

注意)1ヶ月60時間超労働に対する割増賃金の引き上げについては、中小企業は2023年4月から適用されます。中小企業の定義については上記「改正労働基準法のポイント」6ページ下部をご覧ください。

『改正労働基準法のポイント』厚生労働省作成
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/091214-1.pdf

代替休暇制度を導入するか否かは企業の判断に委ねられています。この代替休暇は休暇に関する事項であるため、導入するのであれば絶対的必要記載事項として就業規則に記載しなければいけません。さらに、導入にあたっては労使協定の締結が必須となっています。
締結の際に定めなければいけない項目や、代替休暇制度運用上の注意点は下記の通りです。

労使協定に定めなければいけない事項

①代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法

モデル条文第4項に記載されている通りですが、図解すると下記の通りです。

モデル就業規則解説より引用 https://www.mhlw.go.jp/content/000496428.pdf 
②代替休暇の単位

代替休暇の単位は、労働者にまとまった休息を与えるために半日か一日単位とされています。
ただし、所定労働時間のちょうど半分にする必要はありません。
労使協定で、例えば「午前の3時間半、午後の4時間半」といったように明記すれば良いこととなっています。

③代替休暇を与えることができる期間

代替休暇制度の目的は、長い時間外労働を行った労働者の休息機会の確保です。
したがって法定時間外労働が1か月60時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内の期間で与えなければいけません。
なお厚生労働省によれば、期間が1か月を超える場合、1か月目の代替休暇と2か月目の代替休暇を合算して取得することも可能です。

「改正労働基準法のポイント」より引用 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000uefi-img/2r9852000000ugqj.pdf
④代替休暇の取得日の決定方法及び割増賃金の支払日

この決定方法と支払日については上記モデル条文第6〜8項に記載されています。

「改正労働基準法のポイント」より引用 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000uefi-img/2r9852000000ugqj.pdf

なお想定されるケースについて厚生労働省からは下記のように示されています。

「法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金が支払われた後に、労働者から代替休暇の取得の意向があった場合には、代替休暇を与えることができる期間として労使協定で定めた期間内であっても、労働者は代替休暇を取得できないこととする旨労使協定で定めても差し支えありません 」

モデル就業規則解説より引用 https://www.mhlw.go.jp/content/000496428.pdf

「法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金が支払われた後に労働者から代替休暇取得の意向があった場合について、
・代替休暇を与えることができる期間として労使協定で定めた期間内であれば労働者は代替休暇を取得できることとし、
・労働者が実際に代替休暇を取得したときは既に支払われた法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金について精算することとすること
を労使協定で定めることも可能です」

モデル就業規則解説より引用 https://www.mhlw.go.jp/content/000496428.pdf

代替休暇制度運用上の注意点

①代替休暇の付与は、労働者の取得意思が不可欠であり、会社が一方的に取得させることはできません。
②代替休暇の付与ができるのは通常の割増率25%を超えた部分だけです。従って通常の割増率の部分は支払いが必要です。
③代替休暇制度を導入するか否かだけでなく、一部の労働者を適用除外とすることもできます。
 適用対象者を限定するのであれば就業規則に明記しておかなければいけません。

リスク

当該モデル条文にリスクはありません。

改善案

当該モデル条文に改善案はありません。

参考判例

当該条文に関する参考判例はありません。

代表者

貴社の就業規則は望んだ通りの効果を発揮していますか?

就業規則診断士協会は、
経営者の傘(ビジョン・ミッション)に入る従業員と経営者を守る
という立場を明確にしております。

就業規則診断士協会のサービスをご利用いただくことで、下記の効果が得られます。

①経営者のビジョン・ミッションを言語化して就業規則に記載することで、経営と人事労務の判断軸ができ、行動が加速します

②就業規則の条文にキャッシュフローの視点が入ることで、持続可能な人事制度の基盤を得られます

③経営者とスタッフの、お金に関する危機感のズレを縮めます

④就業規則診断士ならではの就業規則の考え方と、それによる就業規則の提案を受けられます

くわしくは 「就業規則診断士協会を活用したい経営者の方へ」

ぜひお気軽にお問い合わせください。

一般社団法人 日本就業規則診断士協会 
代表理事 寺田 達也