労働基準法第26条に基づく休業手当に関する条文です

第42条 (臨時休業の賃金)
会社側の都合により、所定労働日に労働者を休業させた場合は、休業1日につき労基法第12条に規定する平均賃金の6割を支給する。この場合において、1日のうちの一部を休業させた場合にあっては、その日の賃金については労基法第26条に定めるところにより、平均賃金の6割に相当する賃金を保障する。

条文の目的・存在理由

休業が、会社の責めに帰すべき事由(=会社側が責任を負うべき事由)に基づく場合に、平均賃金の6割を会社が労働者に支払うことを明記した条文です。
この条文は労働基準法第26条にある規定に基づいているため、記載がなくとも会社が支払いを免れるものではありません。
しかし、下記リスクの項目で解説する通り、民法第536条2項も関連してくる項目であるため明記しておくべきでしょう。

上記条文後段は、1日の所定労働時間の一部のみを、使用者の責めに帰すべき事由により休業させた場合についての説明です。現実に就労した時間に対して支払われる賃金が、その日1日分の平均賃金の60%に満たないときは、その差額を支払わなければいけません。

労働基準法第26条
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

使用者の責めに記すべき事由の概念の詳細については、就業規則よくある質問「休業手当はアルバイトにも支給しなければいけませんか?」をご参照ください。

臨時休業に対する行政指針の違い 〜東日本大震災と新型コロナウイルス禍〜

臨時休業時に休業手当について、政府の指針は両者で大きく異なりました。

東日本大震災発生時について

直接的な被害を原因とした休業に加えて、計画停電に伴う休業など、殆どの休業に対して政府方針は休業手当の対象外としました。
「地震に伴う休業に関する取扱いについて」厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017f9e.html#1-3

新型コロナウイルス禍時について

感染した労働者を休業させた場合・・・「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないので、休業手当を支払う必要なし
感染が疑われる労働者を休業させた場合・・・会社の自主的判断で休業させる場合は、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要あり


新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」厚生労働省HPより引用https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-2

リスク 民法第536条第2項の適用可能性について

民法第536条第2項では、


「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき は、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」

としています。

この条文によれば、会社側が責任を負うべき事由によって労働者が働けなくなった場合は、会社は労働者に賃金(反対給付)を支払う義務があることになります。

しかし、この民法第536条第2項は、当事者間の取り決めで適用しないこともできる規定(任意規定)です。
判例では、労働基準法第26条と民法第536条2項がともに要件を満たす場合、民法第536条第2項に基づく賃金請求権と、労働基準法第26条に基づく休業手当請求権が競合することを認めています(下記判例参照)。

したがって、労働者が民法第536条第2項を根拠に、100%の賃金を請求するリスクを減らすためにも「民法第536条2項の適用を排除する」旨を明記すべきでしょう。

*注意点

就業規則に「民法第536条2項の適用を排除する」旨を明記すれば、民法第536条第2項の適用を必ず免れられるわけではありません。
臨時休業の賃金(休業手当)を巡る問題については、未だに完全に統一された見解がないためです。

民法第536条第2項の適用を排除する旨が記載されていても、そのような規定は労働者の利益を一方的に害するもので規定そのものが無効と判断される可能性も残ります。
なお通説・判例では、民法第536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」については、故意、過失または信義則上これと同視すべき事由を指すとされています。

一方で、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」については、「債権者の責めに帰すべき事由」より広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものとされています。
そのため、ある個別の臨時休業が、民法第536条第2項にいう「債権者の責めに帰すべき事由」が原因であると判断された場合には、「民法第536条2項の適用を排除する」の文言の有無に関係なく、労働者側に100%の賃金を支払わなければいけなくなる可能性があります。

改善案

第42条 (臨時休業の賃金)
1 会社側の都合により、所定労働日に労働者を休業させた場合は、民法第536条第2項の適用を排除し、休業1日につき労基法第12条に規定する平均賃金の6割を支給する。この場合において、1日のうちの一部を休業させた場合にあっては、その日の賃金については労基法第26条に定めるところにより、平均賃金の6割に相当する賃金を保障する。

参考判例

ノース・ウエスト航空事件 最二小判 昭和62年7月17日

事件概要

労働組合主導のストライキにより、会社は業務の一部を停止せざるをえなくなった。
そのため労働組合に所属していない労働者は、会社から休業を命ぜられた。
しかし会社は労働者に、休業期間分の賃金を支払わなかった。

一方的に休業を命じられた労働者は、会社の責任で休業させられた旨を主張して、民法第536条第2項に基づいて賃金の支払請求を行った。
また、賃金全額の支払が認められなくとも、今回休業は労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」にも当たるとし、休業手当の支払いを求めて、会社を提訴した事件。

就業規則との関係において

判決では、賃金と休業手当の両方とも労働者は会社に請求することはできないと判断されました。
民法第536条第2項と労働基準法第26条に関して、それぞれ下記のように述べています。(太字は筆者による)

【民法536条第2項に関して】

「ストライキは労働者に保障された争議権の行使であつて、使用者がこれに介入して制御することはできず、また、団体交渉において組合側にいかなる回答を与え、どの程度譲歩するかは使用者の自由であるから、 団体交渉の決裂の結果ストライキに突入しても、そのことは、一般に使用者に帰責さるべきものということはできない。したがつて、労働者の一部によるストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となつた場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもつてことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」には当たらず、当該不参加労働者は賃金請求権を失うと解するのが相当である。

【労働基準法第26条に関して】

判決では、本件ストライキについて詳細に分析を行った上で、ノースウエスト航空側が不当労働行為の意思その他不当な目的を持って、本件ストライキを行わせたなどの特別の事情はないと結論づけました。その上で、

①本件ストライキが原因で就労が不要となった 
→ ②その結果ストライキ期間中に従業員が労働をすることが無価値になった 
→ ③会社は労働者に休業を命じた

という一連の因果関係が示されました。さらに下記のように述べています。

「・・・上告人らが就労することができず、その労働義務の履行が不能となつたのは、被上告会社の「 責ニ帰スヘキ事由」によるものということはできず、上告人らは右期間中の賃金請求権を有しないこととなる。

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