年次有給休暇以外の休暇については、有給か無給かを会社が決めることができます
第43条 (休暇等の賃金)
1 年次有給休暇の期間は、所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金を支払う。
2 産前産後の休業期間、育児時間、生理休暇、母性健康管理のための休暇、育児・介護休業法に基づく育児休業期間、介護休業期間及び子の看護休暇期間、裁判員等のための休暇の期間は、無給 / 通常の賃金を支払うこととする。
3 第9条に定める休職期間中は、原則として賃金を支給しない(_か月までは_割を支給する)。
条文の目的・存在理由
会社が制度として設ける各休暇中の賃金の取り扱いについて記載している条文です。
各休暇それぞれの条文で、有給か無給かについて言及しているのであれば記載は必要ありませんが、念のため記載していた方が良いでしょう。
年次有給休暇(モデル条文第5章22条と23条)以外の休暇については有給か無給かを会社が決めることができます。
有給とする際には、「基本給の○○%を支払う」といった文言のように具体的に記載する必要があります。
リスク
条文自体に対するリスクはありません。
しかし、各休暇に対して有給か無給かを決める際に、他制度から支給される様々な手当金について考慮する必要があります。
なぜなら休暇期間中に賃金が支払われていると、本来支給される手当が減額あるいは支給停止となる可能性があるためです。
各休暇に対して有給か無給かを決める際に考慮すべき各種手当の概要
出産手当金 健康保険から支給
健康保険被保険者が、出産日以前42日から出産日後56日までの間に、給与が支給されなかった場合に支給されます。この出産手当金は、1日につき標準報酬日額の3分の2相当の額が支給されます。ただし産前産後の休暇期間中に、会社から報酬を受けている場合は、その報酬額が控除された額が出産手当金となります。
*出産日が出産予定日より遅れた場合は、その日数分も出産手当金は支給されます。
育児休業給付金 雇用保険から支給
1歳未満の子(保育所に入れないなどの事情があれば最長2歳に達する日まで)を養育するために育児休業を取得した場合など、一定要件を満たした労働者に支払われます。休業開始後6か月間は休業開始前賃金の67%、 休業開始から6か月経過後は50%が支給されます。
ただし、育児休業期間中に働いた場合や、報酬を受けている場合は支給されない場合があります。下記は厚生労働省ホームページQ&Aからの抜粋です。1支給単位期間とは、育児休業を開始した日から起算した1か月ごとの期間です(育児休業終了日を含む場合は、その育児休業終了日までの期間)。
厚生労働省ホームページQ&A~育児休業給付~より引用 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158500.html
介護休業給付金 雇用保険から支給
介護休業給付金は、介護休業について支給対象となる家族の同一要介護につき1回の介護休業期間(ただし、介護休業開始日から最長3か月間)に限り支給されます。支給額は休業開始前賃金の67%です。
ただし、介護休業期間中に働いた場合や、報酬を受けている場合は支給されない場合があります。
支給停止や減額についての考え方は、上記「厚生労働省ホームページQ&A~育児休業給付~」と同様です。
傷病手当金 健康保険から支給
傷病手当金は、被保険者が病気やけがが原因で働くことが困難な労働者に支給されます。
支給条件は、会社を連続して3日間休んだ場合に、4日目以降の休んだ日に対して支給されます。
支給額は、一日につき標準報酬日額の3分の2相当額です。ただし、休業期間中に事業主から、傷病手当金の額を超える報酬を受ける場合には、支給されません。
改善案
当該モデル条文に改善案はありません。
参考判例
大国自動車交通事件 東京地判 平成17年9月26日
事件概要
控訴人(タクシー乗務員)が、有給休暇取得月の賃金計算方法が、労働基準法39条6項本文、同法施行規則25条6号に違反すると主張した。
そして算定方法を是正した上での賃金支払を会社に求めた事件。
被控訴人(大国自動車交通)は、有給休暇中の賃金に関して仮想営業収入という概念を使用して、当月の営業収入額を算出していました。
計算方法は下記の通りです。
①1日当たりの仮想営業収入額=過去3か月間の実際の営業収入額➗66
*毎月の所定乗務数を11乗務、1乗務を2労働日、1か月の所定労働日数を22日とした場合の3か月分の日数が66日であるため66で除しています。
②当月仮想営業収入額=1日当たりの仮想営業収入額✖️当月取得した有給休暇日数
③当月営業収入額=当月の実際の営業収入額+当月の仮想営業収入額
なお、乗務員に対する給与は、固定給と歩合給に分かれていました。
しかし固定給については有給休暇取得により減額されることはなかったため、今回の争いの焦点は歩合給についてのみです。
原審では、控訴人の請求が棄却されたため、これを不服とする控訴人が控訴しました。(この裁判では、賞与の算定方法についても争われましたが、有給休暇の賃金額と関連しないため割愛します。)
就業規則との関係において
控訴人は、上記計算式①において、実際の稼働日数ではなく「66」で除していることを問題視して訴えを提起していました。
しかし、有給休暇を取得したいずれの月においても、
会社独自の歩合給算定額 > 法定の歩合給算定額
(ここでの法定とは労働基準法第39条6項本文、同法施行規則25条6号の方法により算出する額です)
となっていました。そのため、会社独自の算定方法は違法ではないとされ控訴人の訴えは棄却されました。
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