第45条 (賃金の支払と控除)
1 賃金は、労働者に対し、通貨で直接その全額を支払う。

2 前項について、労働者が同意した場合は、労働者本人の指定する金融機関の預貯金口座又は証券総合口座へ振込により賃金を支払う。

3 次に掲げるものは、賃金から控除する。
 ① 源泉所得税
 ② 住民税
 ③ 健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の保険料の被保険者負担分
 ④ 労働者代表との書面による協定により賃金から控除することとした社宅入居料、財形貯蓄の積立金及び組合費

条文の目的・存在理由

賃金の支払方法と控除できる項目について定めた条文であり、就業規則の絶対的必要記載事項として記載が必須です。
第44条 (賃金の計算期間及び支払日)で記載した「賃金支払5原則」のうちの通貨払い、直接払い、全額払いについて、本条文で明らかにしています。

第3項において全額払いの例外として控除できる項目が記載されています。
①〜③は、法令に定めのある項目で、④は、労働者の代表と協定を結ぶことによって控除することが出来る項目です。

ただし、協定によって賃金から控除できる項目は、購買代金、住宅・寮その他の福利厚生施設費用、各種生命・損害保険の保険料、組合費等です。
内容や金額が明確なものに限られます。

以下通貨払い、直接払い、全額払いに関する注意点等を列記します。

通貨支払いについて

ここでいう通貨とは、現金かつ日本円を指します。したがって外貨や小切手での支払いは違法です。
しかし、労働組合との労働協約で定めた場合は、通貨ではなく現物支給でも可能です。
例えば、通勤手当ではなく、通勤定期券を現物支給するといったケースです。

会社指定の金融機関での給与振込口座作成を拒む労働者への対応

通貨払の例外で、「労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する労働者の預貯金への振込みによる方法」(労働基準法施行規則第7条の2第1項第1号)があります。給与振込手数料削減などのために、会社としては指定金融機関のみを受取可能としたいところですが、強制はできません。しかし、協力の要請はできます。

直接支払いについて

賃金の不当搾取を防止するために、代理人への賃金支払いは禁じられています。
未成年の親に対しても支払うことはできません。
一方で、労働者の使者への支払いは認められています。

代理人と使者を区別することは、困難な場合があります。
その場合、社会通念上、本人に支払うのと同一の効果を生ずるような者であるか否かによって決定するとされています。

全額支払いについて

全額払いの原則との関係で、よく問題になるのが賃金債権の相殺です。

結論、会社側からの、前借金(労働者が会社から借りたお金)や損害賠償請求権と賃金の相殺は、一切認められません。
一方で「労働者が自由意思で相殺に同意した場合で、自由意思によって同意したと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、全額払いの原則に違反しない」(日新製鋼事件 最判小2 平成2年11月26日 判決)とされています。

なお、モデル条文第42条で扱った「欠勤による不就労分の給与を控除」は、労使協定での定めは不要です。
不就労分については賃金請求権が労働者に発生しておらず、賃金控除の問題にはならないためです。

リスク 賃金過払い分について

どれだけ細心の注意を払っていたとしても、賃金計算に過不足が生じる可能性はゼロではありません。
労働者の残業申請に誤りがあった場合などもあり得ます。
したがって過払いがあった場合についても明記しておくべきです。

*就業規則への記載がなくとも、労働者の経済生活が不安定にならない場合は、全額払いの原則に違反しないという判例もあります。
例えば、控除する時期や方法、金額等の観点から、過払分を控除しても、問題とならないような場合です。
しかし、労使間の無用のトラブルを防止するためにも記載をお勧めします。

改善案

第45条 (賃金の支払と控除)
1 賃金は、労働者に対し、通貨で直接その全額を支払う。

2 前項について、労働者が同意した場合は、労働者本人の指定する金融機関の預貯金口座又は証券総合口座へ振込により賃金を支払う。

3 次に掲げるものは、賃金から控除する。
 ① 源泉所得税
 ② 住民税
 ③ 健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の保険料の被保険者負担分
 ④ 労働者代表との書面による協定により賃金から控除することとした社宅入居料、財形貯蓄の積立金及び組合費
 ⑤ 賃金過払い分

参考判例

関西精機事件 最二小判 昭和31年11月2日

事件概要

被告会社は、経営不振に陥り一時的に休業することになった。
さらに経営不振の期間中、労働者に対する給料の未払いもあった。
未払賃金解消のため、会社代表者は労働者A(上告人)に指示し、在庫品の売却や、半製品の仕上げ販売を行わせた。

休業から約6ヶ月後に事業を再開し、労働者Aは取締役に就任した。
会社は労働者Aに対し、休業期間中の整理手当として1ヶ月あたり7000円を支払う約束をした。
しかし、会社は、一部の整理手当と取締役就任後の報酬の一部を支払ったのみだった。

そこで未払いの整理手当と報酬の支払いを求めて、労働者Aが提訴した。
被告会社は、労働者Aが過去に集金したお金を第三者に盗まれた事案を挙げ、その際の会社の損害額と、これらの整理手当等の支払とを相殺したと主張した。
第一審では労働者Aの請求が認められたが、第二審では会社の主張が認められた。これを不服とした労働者Aが上告した事件。

就業規則との関係において

判決では、下記のように判断が下され、労働者Aの請求が認められました。

「労働基準法24条1項は、賃金は原則としてその全額を支払わなければならない旨を規定し、これによれば、賃金債権に対しては損害賠償債権をもつて相殺をすることも許されないと解するのが相当である」

取締役としての報酬については賃金とは言えないとしつつも、整理手当については賃金であると判断しました。
会社の一方的な判断で、その整理手当を損害賠償請求権と相殺することは、全額支払いの原則に反するということになります。

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