第7章 定年、退職及び解雇 第50条 退職

退職には、当然退職、合意退職、辞職、解雇の4種類があります

第50条 (退職) 
1 前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。

 ① 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して_日を経過したとき
 ② 期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき
 ③ 第9条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき
 ④ 死亡したとき 

2 労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、 地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。

条文の目的・存在理由

「退職」に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項として必ず記載しなければいけません。
第2項の証明書に関する規定は、労働基準法第22条第1項で、会社に義務付けられているものです。
モデル条文第49条の「定年」、第51条「解雇」を含め、退職には下記4種類があります。

 ①当然退職・・・条件に該当すれば当然に退職 例)定年、死亡、休職期間満了等
 ②合意退職・・・会社と労働者で合意の上で退職。自己都合退職はこれに該当。
 ③辞職・・・労働者の一方的な意思表示のみがある場合の退職
 ④解雇・・・会社の一方的な意思表示をきっかけに退職となる。

②と③の違いによって影響を受けるのが、退職希望の意思表示から退職日までの日数です。

退職を希望する日の1ヶ月前までに、会社に退職を申し出ることを労働者に義務付けている会社が多く存在します。
しかし、民法第627条第1項によれば、労働者が退職の意思表示をした場合は、意思表示した日から14日後に退職の効果が生じると規定しています。民法は、当事者間の争いがない事項に関しては当事者の合意を尊重します。
そのため②合意退職の場合は、就業規則に則って労使双方が合意した退職日となります。

一方で、退職日において意見が合致していない場合は、②合意退職ではなく、③辞職に当たると言えます。
したがって就業規則にある会社の規定よりも民法が優先され、意思表示から14日後に退職となるでしょう。

注意点 労働者からの雇用契約解約の申出に関する法改正

・就業規則の退職に関する規定で、2週間超前の意思表示を義務付けることは民法627条1項に反して無効だという学説があります。一方で、退職の自由を不当に拘束しない限り、このような規定も有効であるという学説もあります。

・2020年4月より施行された改正民法では、第627条第2項が下記のように改正されました。

 旧:期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

 新:期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

かつては月給制の労働者は第627条第2項の適用を受けていました。しかし改正により、労働者からの雇用契約解約の申出は、第627条第2項の適用を受けなくなりました。つまり第627条第1項の適用を受け、2週間前までの申し出で良いことになりました。

リスク① 書面での手続きについて

法律上は、退職の意思表示の方法は口頭でも書面でもどちらでも構いません。
しかし、トラブルを防止するためにも、書面での手続きを義務付けた方が良いでしょう。

リスク② 行方不明者の取り扱いについて

モデル条文には、行方不明になった労働者についての記載がありません。どの会社でもあり得るため、当然退職として記載する必要があるでしょう。

リスク③ 退職日

退職日は、会社と労働者にとって非常に重要な項目です。したがって明記すべき事項と言えます。

リスク 返還義務

健康保険証や、業務用携帯電話などが、会社から労働者に貸与されていることがあります。必ず返還させるために明記しておいた方が良いでしょう。
企業内貸付等がある会社であれば、その返済についても明記しておく必要があります。

リスク 退職日までの業務引き継ぎ等について

退職の意思表示をした後でも、退職日までは労働者は労働提供義務を負います。
しかし、現実には、残っている有給休暇を消化して、ほとんど出社しない労働者もます。
 
一方で、年次有給休暇の取得は労働者の権利であり、取得自体を妨げることはできません(事業の正常な運営を妨げる場合には、会社は取得時季の変更を依頼することはできます)。それでも、業務の引継がずさんであれば、会社事業の正常な運営に支障が出ます。
最低限業務の引き継ぎを完了させなければいけないことを明記しておいても良いでしょう。

なお、年次有給休暇の取得でなく、無断欠勤であれば、就業規則に則った懲戒処分を行うことは当然可能です。

また、無断欠勤を防ぐために、退職金等の減額の可能性について明示することも一考です(ただし裁判上の争いになった場合に、必ずしも有効と認められるとは限りません)。

リスク 退職意思の撤回について

退職日直前に撤回が可能であれば、人員補充のための採用活動等に影響が出ることがあります。
一方で、会社にとって有能な労働者であれば、撤回を認めたい場合もあるでしょう。
したがって、原則としては出来ない旨を明記することをお勧めします。

改善案

第〇〇条 当然退職

労働者が次の各号のいずれかに該当するときは、その日を退職の日とし、その翌日に社員としての身分を失う。

(1)死亡したとき

(2)休職期間が満了し、復職出来ない時

(3)当社の役員に就任したとき(役員とは、会社法上の役員のみを指す)

(4)労働者が行方不明となり、その期間が連続して7日間を超えた時 

第〇〇条 合意退職

1 退職を希望する労働者は、退職希望日の1か月前までに、会社所定の退職願を文書で提出し、会社に申し出なければならない。

2 労働者が退職希望日の30日以上前に所属長に退職の届出をした場合、会社はその申し込みを原則として承諾する。

3 前項の退職の届出が退職希望日の30日以上前でない場合であっても、諸事情を考慮し、その申し込みを承諾する場合がある。

4 労働者による退職の意思表示を会社が承諾した後は、労働者は原則として撤回できない。 

5 退職を希望する労働者は、以下の規定を遵守しなければならない。

(1)退職日までの間に従前の職務について後任者への引継ぎを完了すると共に、業務に支障をきたさないようにしなければならない。

(2)退職日までは、会社から業務上等の指示がある場合は、その指示に従わなければならない。

(3)退職日までに、健康保険証、社員証、その他会社からの貸付品を会社に返還しなければいけない。

6 退職を希望する労働者が第5項の規定に違反した場合は、退職金の全部または一部を支給しないことがある。

第〇〇条 退職証明

労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。

参考判例 退職代行に関する事件

インタアクト事件 東京地判 令和元年9月27日

事件概要

労働者A(原告)は、弁護士を通じて、会社(被告)に対し、退職通知書による退職の意思表示を行なった。
その退職通知書には、通知書到達後1カ月を経過する日に退職する旨と、退職日までの間は年次有給休暇を取得する旨等が記されていた。

その後、会社から労働者Aへ業務引継ぎに関する問い合わせがあった。
労働者Aは、弁護士を通じて、会社で使用していたパスワード等の保管場所、ネットバンキングのIDとパスワードなどについて回答した。

会社は、対面の引継ぎを行わなかったなどの懲戒解雇事由を理由に、退職金を不支給とした。
労働者Aは、会社に対し、未支給賞与約48万円余、退職金約69万円等を請求した。

就業規則との関係において

賞与支給日に在籍していない労働者Aに、会社が賞与を支払わないことは問題ないとの判断が下されました。

一方で、判決では退職金に関して、下記のように述べました。

「退職金が賃金の後払い的性格を有しており、労基法上の賃金に該当すると解されることからすれば、退職金を不支給とすることができるのは、労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しい背信行為があった場合に限られると解すべきである」

そして、判決では、今回の労働者の行為に関して、「勤労の功を抹消してしまうほどの著しい背信行為があったとは評価できない」と判断しました。
その結果、労働者の退職金請求が認められました。主な理由は下記の通りです。

・労働者の行為が背信行為であると会社が主張するものの多くは、そもそも懲戒解雇事由に該当しない。

・仮に懲戒解雇事由に該当し得るとしても、その事由の内容は労働者Aが担当していた業務遂行に関する問題であって、会社の組織維持に直接影響するものではない。また刑事処罰の対象になるといった性質のものでもない。

・会社は労働者Aに対し、業務に関して、具体的な改善指導や処分を行ったことがなかった。さらに会社は、業務フローやマニュアル作成といった労働者の執務体制や執務環境に関する適切な対応を行っていなかった。

・会社に具体的な損害が生じたとは認められない。

・会社の退職金規程の内容によれば、退職金の基本的な性質は後払い賃金である。

・労働者Aが、対面の引継行為を敬遠したことには一定の理由があると解される(近しい上司との関係が良好でなかった)。

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