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回答
結論から言いますと、医療行為を行う者を、業務委託契約で働かせることはできません。
医師の指示に基づかないで医療行為を行うことが考えられないということもありますが、決定的な理由は下記厚生労働省の見解のとおりです。
下記は、病院業務のアウトソースができる業務の種類と判断基準に関する質問に対する回答です。
医療WG書面回答要請に対する回答
診療行為等医療の提供そのものに係る業務の委託及び病院の運営管理の包括的な委託を除けば、病院の業務については、外部委託が可能である。ただし、そのうち、診療又は患者の入院に著しい影響を与えるものとして政令(医療法施行令第4条の7)において定める業務については、外部への委託を行う際には、その種類に応じて、
当該業務を適正に行う能力のある者として厚生労働省令で定める基準に適合するものに委託しなければならないこととしている。
厚生労働省医政局総務課
上記の通り、外部委託できるものから、「診療行為等医療の提供そのものに係る業務の委託」を除外していることは明らかです。
質問者の方に対し、「業委託契約で働くことで、報酬を事業所得として確定申告して、節税したい」という従業員側から要望があったのかもしれません。
上記厚生労働省の見解の通り、業務委託契約での医療行為はできません。
仮に業務委託契約として契約を結んだとしても、勤務実態が雇用契約だとみなされて、受け取る対価は給与所得となるでしょう。
形式的に業務委託契約を結んでも意味がないということになります。
なお、新型コロナウイルスのワクチン接種については、第三者による指揮命令に基づかずに業務遂行をなし得るため、業務委託契約を結ぶことができるようにしています。
解説
業務委託契約と雇用契約の違い
今回のご質問については、上記回答の通りですが、業務委託契約と雇用契約の違いを理解することは重要です。
下記で解説する通り、医療行為でない分野であれば、業務委託することもできます。
業務委託契約と雇用契約の定義は下記の通りです。
業務委託契約の最大のポイントは、発注者側に指揮命令権がない点です。
業務委託契約なのに、発注者があれこれ手順等に指示を出せば、法令違反となります。
業務委託契約
委託された側が特定の仕事を処理し、処理された仕事と引換えに、委託した側が報酬を支払うことを約束する契約
委託する側とされた側は対等な立場であり、労働者保護を目的とする法律が委託された側には適用されない。
雇用契約
労働者の労働と引換えに、事業主が報酬を与えることを約束する契約。労働基準法などの労働者保護を目的とする法律が適用される。
さらに業務委託契約には3種類あります。
①請負契約:業務による完成品を受け取ることを目的。
②委任契約:法律行為の業務遂行を目的とし、成果の有無は報酬発生と無関係。
③準委任契約:法律行為以外の業務遂行を目的とし、成果の有無は報酬発生と無関係。
*法律行為とは、私法上の権利・義務を発生させる行為を指します。「私法上の権利・義務」とは、トラブルになった場合に、裁判所に解決を求めることができるものと考えて良いでしょう。典型的な法律行為は、契約です。
雇用契約と業務委託契約の違いを図示すると下記のとおりです。
業務委託契約 | 雇用契約 | |
誰が雇用主か? | なし | 勤務先 |
指揮命令できるか? | できない | できる |
勤務時間について | 制限なし *委託した内容の完遂にのみ関心があるためです | 労働基準法などの制約あり |
賃金 | 報酬 | 給与 |
医療業界ではありませんが、美容院におけるスタイリストやウーバーイーツの配達員の方々には、業務委託契約で働いている方も多くいらっしゃいます。
医院等で業務委託契約できる分野
上記で挙げた「医療ワーキンググループ書面回答要請に対する回答(厚生労働省医政局総務課)」を整理すると、医院等で業務委託契約できる分野は次のようになるでしょう。
診療行為等医療の提供そのものに係る業務の委託でなく
さらに
病院の運営管理の包括的な委託でもない分野
業務委託できるが、適正な能力あるもの(≒プロフェッショナル)に任せなければいけない場合もあります。
診療又は患者の入院に著しい影響を与えるものとして政令(医療法施行令第4条の7)において定める業務
(診療等に著しい影響を与える業務)
医療法施行令第4条の7
法第十五条の三第二項に規定する政令で定める業務は、次のとおりとする。
一 医療機器又は医学的処置若しくは手術の用に供する衣類その他の繊維製品の滅菌又は消毒の業務
二 病院における患者、妊婦、産婦又はじよく婦の食事の提供の業務
三 患者、妊婦、産婦又はじよく婦の病院、診療所又は助産所相互間の搬送の業務及びその他の搬送の業務で重篤な患者について医師又は歯科医師を同乗させて行うもの
四 厚生労働省令で定める医療機器の保守点検の業務
五 医療の用に供するガスの供給設備の保守点検の業務(高圧ガス保安法(昭和二十六年法律第二百四号)の規定により高圧ガスを製造又は消費する者が自ら行わなければならないものを除く。)
六 患者、妊婦、産婦若しくはじよく婦の寝具又はこれらの者に貸与する衣類の洗濯の業務
七 医師若しくは歯科医師の診療若しくは助産師の業務の用に供する施設又は患者の入院の用に供する施設の清掃の業務
医療法施行令第4条の7に挙げられているものはいずれも、患者の生命に影響を及ぼし得るため、適正な資格を求められていると言えるでしょう。清掃の業務についても、患者の入院のように供する施設については、適正な資格のあるものでなければできないとされています。
まとめ
- 医療の分野において、医療行為を行う医師らを、業務委託契約で働かせることはできません。
- 病院経営において、業務委託できる分野もありますが、適正な資格を持ったものでないとできないこともあるので、注意が必要です。