私語が多い従業員が複数おり、残業が発生することがあります。必要な残業代はもちろん支給したいですが、このようなケースでも残業代は支給しなければいけないのでしょうか。

回答

私語が原因で労働生産性が低いことにお悩みではありますが、そのような状況であっても契約通りに残業代等を支給しなければいけないでしょう。

顧客に聞こえる私語などで、企業イメージを損なうケースは別ですが、適度な私語は円滑な職員間のコミュニケーションに資することもあります。しかし、今回のご相談は、適度とは決していえない量の私語に悩まれているのでしょうから、すぐに状況改善をしなければいけません。

まずは下記の事項を実践してみてください。

  1. 残業はあくまで経営者からの命令に基づくものであるということを改めて周知する。
    残業は、従業員の勝手な判断で行なっていいものではありません。
    具体的な業務内容や終了予定時刻について上司に承認を得るのが必要だということを伝えましょう。
    もしも就業規則に残業に関するルールがないのであれば、記載することをお勧めします(下記解説参照)。
  2. 業務量と、その日に行わなければいけない業務かどうかのチェックしましょう。
    必要な業務であっても、別の比較的手が空きやすい日で間に合うのであれば、その日にすべきでしょう。
  3. 私語が多い従業員への注意
    上記1と2を周知することで、変化を期待したいところですが、変化がないようであれば、直接の注意が必要です。もちろん上記1と2の前に注意することも問題ありません。
    ただし他従業員の前で大声で叱るといったことはパワーハラスメントになる可能性が高いので避けましょう。

すぐに実践できなくても、終業時刻に強制的に店舗などを閉めるといった方法も場合によっては効果的です。

解説

不必要な残業によって生じ得るリスク

経営者としては、頑張って稼いだ収益を無駄遣いすることは、それだけで心地よいものでありません。

職業倫理として許しがたいだけではなく、下記のようなリスクがあるため、不必要な残業はなくしていきましょう。

不必要な残業によって生じ得るリスク
  1. 残業代の増加による経営への悪影響
    人件費が増加し、経営を圧迫することにつながります。
  2. 真面目に集中して業務に取り組む従業員の不平不満が生まれる
    真面目に集中して業務に取り組む従業員の時給単価を上げるといったこともできますが、集中力を欠いて取り組んで時間をかけた方が収入が増えるというのは、職業倫理的に問題があります。
  3. 長時間労働の発生と、労災発生
    長時間労働による疲労が溜まり、精神疾患などが発症してしまう可能性もゼロではありません。
    無駄な残業が原因であっても、上記のような事態が発生してしまえば、労災認定や民事上の損害賠償請求が絡んできます。

上記の通り、不必要な残業は経営に大きな悪影響を及ぼすため早急な対策が必要です。

就業規則にどのように記載するか?

労働契約によって労働者に労務提供を義務付けられるのは、所定労働時間内のみです。
だからこそ、労働日ごとに「働いてください」といった管理監督職の指示がなくても問題ないわけです。

しかし、時間外における労働者の労務提供義務は、使用者側の時間外労働命令があって初めて発生します。
裏を返せば使用者の指示あるいは許可なく時間外労働が行われてはいけませんし、無許可の時間外労働に対し割増賃金等を払う義務はありません。

労働者の健康管理、働き方改革、割増賃金などの抑制といった観点からも、時間外労働については許可制であることを明示すべきです。

残業の事前申請・承認に関する就業規則例

業務の都合により、所定労働時間を超え、または所定休日に労働させることがある。
また、やむを得ず時間外労働が必要となり、時間外、休日労働を労働者が希望する場合は、必ず所属長の許可を得なければいけない。ただし、突発的な業務が生じるなど、やむを得ない事情がある場合には、事後申請・承認を認めるものとする。

黙示の残業命令に注意

労働者からの残業申請と事業主などの使用者による許可もないまま、残業が常態化しているケースについては注意が必要です。

このようなケースでも、事業主は労働者に残業代を払わなくてはいけないのです。

なぜなら、残業が常態化している状況を、事業主が知っていながら放置することは、事業主による黙示の残業指示に当たるとされているからです(下記判例参照)。

ルールに基づかない残業であっても、それが常態化していれば、残業代を支給しなければいけないと考えておいた方が良いでしょう。ルール違反の残業については、しっかりと労働者に伝えなければいけません。

参考判例

クロスインデックス事件 福岡地判 平成9年12月25日

事件概要

労働者A(原告)が勤務する会社では、所定就業時刻前に会社代表者に対し残業申請し、承認を得るという残業承認制度が採用されていた。労働者Aは時間外労働の承認を受けずに時間外労働を行なっていた。会社代表者が承認した退社時刻から会社にメール送信した最後の時刻までの間の割増賃金が払われていないと労働者Aは主張し、割増賃金と付加金の支払いを請求した事件。

就業規則との関係において

労働者Aは他の従業員に比べ勤続年数が長く、多岐にわたる業務を請け負っており、所定時間内に業務を終えることは難しい状況にありました。そのため時間外労働が常態化していました。また、所定終了時刻には残りの業務が確定せず、正確な残業申請が困難であったことも主張していました。その上で、判決では下記のように述べ、原告の主張する割増賃金の支払いを認めました。(太字は筆者による)

「被告が原告に対して所定労働時間内にその業務を終了させることが困難な業務量の業務を行わせ、原告の時間外労働が常態化していたことからすると、本件係争時 間のうち原告が被告の業務を行っていたと認められる時間については、残業承認制度に従い、原告が事前に残業を申請し、被告代表者がこれを承認したか否かにかかわらず、少なくとも被告の黙示の指示に基づき就業し、その指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当であり、割増賃金支払の対象となる労働時間に当たるというべきである。」

原告の時間外労働が常態化していたことから黙示の指示を認められましたが、上記結論を補強するものとして下記のようにも述べています。

「被告代表者は、午後 7 時過ぎ頃に退社する際に会社に残っている原告を見かけるとともに、原告から深夜にメールを受信することもあったほか、原告に対して事前の残業申請がないことを理由に本件管理帳の退社時刻の記入の修正を求めた際にも、忙しくて残業申請する時間がなかったのは言い訳にならず、被告の規律に従うよう伝えるにとどまり、残業そのものを否定していなかったと認められる。これらによれば、被告は、被告代表者が承認した以外にも原告が残業していたことを現に認識していたといえ、このことも上記結論を補強する事情となるものである。」