妊娠した従業員が軽易業務への転換を希望しています。転換と同時に降格させる事はできますか?

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回答

原則として認められません。
降格措置は、妊娠などを理由とする解雇その他の不利益な取り扱いに該当するためです(男女雇用機会均等法第9条3項)。
例外として、下記①または②のような場合に降格が認められるとされています。

①従業員が自由に意思を伝えることができる状況で(=会社側の圧力等が一切ない状況)、降格を承諾したと認められる理由が客観的に存在する場合
②業務上の必要性に基づく特段の事情がある場合(下記判例参照)

人員配置上、軽易業務への転換に伴う降格が避けられないような状況があったとしても、通常業務に復帰後、本人の希望に反して降格の状態が続く場合は違法となるでしょう。

厚生労働省が「妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A」を公開しています。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000089160.pdf

解説

関連法令

労働基準法65条3項
使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

男女雇用機会均等法9条3項
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

妊娠中の軽易業務への転換を契機とした降格でなければ認められる

当然ですが、能力不足や懲戒処分などの正当な理由に基づく降格は認められます。
判例では、軽易業務への転換を契機とする降格は原則として認められないとしているのみです。
例えば、元々降格を予定していた勤務態度等に問題がある労働者から、妊娠に伴う経緯業務への転換を求められた場合に、予定通り降格させる事は、理論上問題なく認められるはずです(ただし、訴訟にまで発展した場合には、妊娠中の軽易業務への転換を契機にしたものではないことを会社は立証する必要があります。したがって予定通り降格させるにしても大きなリスクがあることを留意すべきです)。

参考判例

広島中央保健生協事件 最一小判 平成26年10月23日

軽易業務に転換された妊婦労働者は副主任から外される降格処分を受けた。
その後育児休業終了後も副主任に任ぜられませんでした。
この降格処分自体が、違法かつ無効であると判断されました。
判決では、軽易業務への転換を契機にした降格処分は、原則違法であるという判断を示しました。
さらに、上記回答にある②のような例外的に認められる場合について下記のように述べています。

「・・・事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして, 上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。」