第7章 定年、退職及び解雇 第51条 定年等 

「定年」年齢を60歳未満に定めることは出来ません(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第8条)

第51条(定年等)定年を満65歳とする例 
労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。


第49条(定年等)定年を満60歳とし、その後希望者を継続雇用する例
1 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用する。

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の一部が改正され、令和3年4月1日から施行されます。この改正は、労働者が70歳までの就業機会を確保できるように、事業主の努力義務を定めたものです。定年の70歳への引上げを義務付けるものではありません。パンフレット(簡易版):高年齢者雇用安定法改正の概要 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000694688.pdf

条文の目的・存在理由

「定年」は、労働者が一定の年齢に達したことを退職の理由とする制度です。
「定年」年齢を60歳未満に定めることは出来ません(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第8条)。

一方で、定年は定めなければいけない項目ではなく、年齢制限なく労働者を雇うこともできます。
いずれにせよ、定年は就業規則の絶対的必要記載事項である「退職」に該当するため、就業規則への記載は必須となります。

さらに高年齢者の雇用確保のために、会社は下記いずれかの措置を講じることが義務付けられています。

高年齢者雇用確保措置

①定年年齢を65歳以上に引き上げ

②定年年齢は60歳に定め、希望者全員を65歳まで継続雇用する制度の導入

*この制度には2種類あります。
一つは、定年時点で退職と扱わず、引き続き雇用を継続する勤務延長という形式をとります。
もう一つは、定年で一度退職として扱い、新しく労働契約を締結し直す再雇用という形式です。
国内では、多くの会社が再雇用を導入しています。

*平成25年4月1日の改正高年齢者雇用安定法施行後、希望者全員を65歳まで雇用しなければいけなくなりました。
 法改正の背景には、主に厚生年金の受給開始年齢引き上げと、それに伴って年金受給開始年齢までの雇用を確保することがあります。
 
 例外は、2013年4月1日以前の労使協定で継続雇用制度の対象者を選ぶ基準を設けている場合です。
 この場合に限り、年金受給開始年齢に達した高齢労働者に対し、希望者全員でなく当該選定基準を用いることが認められています。

*希望者全員とは言っても、就業規則に定める解雇・退職事由に該当するような労働者を継続雇用しないことは可能です。

③定年の定め自体を廃止

定年の定めに関するその他の注意点

・定年退職日について

定年退職日については、色々な設定の仕方があります。

 ①定年年齢に達した日
 ②定年年齢に達した日の属する月の末日
 ③定年年齢に達した日の属する年度の末日

「定年年齢に達した日」については、民法上誕生日の前日を指します。したがって「誕生日」と「達した日」は1日ずれるため注意が必要です。
また1日でも定年年齢が60歳未満となってはいけません。
たとえば「定年退職日を60歳に達する直前の賃金締切日とする」というのは法令違反となります。

5年無期転換ルールとの関係について

多くの企業の再雇用制度では、定年退職後の労働者は、期間の定めのある契約社員です。そして1年ごとに契約の見直しを行うことがほとんどです。
この場合に問題となるのが、労働契約法第18条にある無期転換ルールです。無期転換ルールを端的に言うと、下記のようになります。

同一会社との期間の定めのある労働契約(有期労働契約)が2回以上結ばれ、その契約期間を通算した期間が5年を超えた場合は、労働者の申込により、期間の定めのない労働契約に転換する。この場合に会社は労働者の申込を拒めない。

定年退職後の再雇用労働者であっても上記ルールの対象になってしまうため、下記のような対策が必要です。

・再雇用の高齢労働者に対しては上記無期転換ルールを適用しないことについて、都道府県労働局から認定を受ける(有期雇用特別措置法)。
・定年年齢を61歳以上とし、再雇用後から65歳までの期間が5年を超えないようにする。

参考資料

無期転換ルールの継続雇用の高齢者に関する特例について (第二種計画認定・変更申請)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000185322.pdf

リスク 再雇用制度を導入した場合の労働条件について

上記モデル条文(定年を満60歳とし、その後希望者を継続雇用する例)は、再雇用制度ではなく勤務延長制度を導入した場合のものです。
従来の労働条件が継続されるため、会社は賃金を低下させることは出来ません。

一方で、国内の多くの企業は、勤務延長制度ではなく再雇用制度を導入しており、賃金の引き下げを行っています。

この再雇用制度を導入する場合の注意点は下記の通りです。

・就業規則に必ず、再雇用時に労働条件が変わることを明記する。
・再雇用労働者であっても、同一労働同一賃金の原則が適用されます。

定年退職前と働き方が変わらずに賃金だけが下がる場合は、無期雇用労働者と有期雇用労働者との不合理な待遇差があるとみなされる可能性があります。そのような事態を防ぐためにも、短時間勤務への変更や業務内容を軽くするなどの労働条件の変更も同時に必要です。

改善案

第49条(定年等)定年を満65歳とする例 

労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日(65歳に達した日の前日)の属する月の末日をもって退職とする。

第49条(定年等)定年を満60歳とし、その後希望者を雇用延長により継続雇用する例
1 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日(65歳に達した日の前日)の属する月の末日をもって退職とする。

2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用する。

第49条(定年等)定年を満60歳とし、その後希望者を再雇用により継続雇用する例
1 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日(65歳に達した日の前日)の属する月の末日をもって退職とする。

2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、1年間の有期労働契約を改めて締結し、満65歳の属する月の末日まで継続雇用する。

3 再雇用時は、対象者の地位、能力、業務量、業務に対する責任の度合いを考慮して、労働条件および給与額を決定する。

4 第3項における労働条件および給与額は、1年ごとに見直しを行う。見直しの際には、契約期間満了時の業務量、本人の勤務成績と勤務態度 、本人の能力 、会社の経営状況を考慮して、両者合意の上で契約更新を行う。

参考判例

北日本放送事件 富山地判 平成30年12月19

事件概要

会社(被告)を定年退職した労働者A(原告)は、有期労働契約社員として就労していた。
労働者Aは、正社員との間に、労働契約法第20条に違反する労働条件の相違があると主張した。
そして、労働契約上の地位の確認とともに、正社員に払われる賃金との差額等を請求した事件。

就業規則との関係において

基本給、賞与、住宅手当などにおける当該有期労働契約者と正社員との相違は、いずれも不合理とは言えないとして、その請求が棄却されました。
判決では、下記の項目が考慮されました。

・労働者Aの基本給は、被告と労働組合の労使協議を経ており、これを尊重する必要がある。

・労働者Aの有期労働契約社員としての月収は、高年齢雇用継続基本給付金及び企業年金を加えると正社員時の基本給を上回る。

・正社員は、転勤や出向の可能性があるが、有期労働契約社員には配置転換や転勤となったものが過去にいない。
 したがって、住居費用が多額になりうる正社員だけに住居手当を支給するのは不合理とは言えない。

・労働者Aに裁量手当が支給されないのは、労働者Aが裁量労働制の対象として会社から指定されていないことによる。
 有期労働契約であることが原因ではない。

・祝金は会社の裁量で支給できるものであるため、労働契約法第20条にいう「労働契約の内容である労働条件」には当たらない。

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