第2章 人事 第7条 労働条件の明示 

採用時に労働条件を書面で明示しなければいけません

第7条(労働条件の明示)

会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。

条文の目的・存在理由

雇入れ時に労働者に対して労働条件を明示することは、労働基準法第15条1項で義務付けられています。
当該条文の有無が明示義務には影響しません。しかし、労使双方の確認のためにも条文として設けるべきでしょう。

また、常に明示が必要な労働条件である絶対的明示事項と、当該事項に関する定めがある場合には明示が必要となる相対的明示事項があります。

絶対的明示事項

①労働契約の期間に関する事項
②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
③就業場所及び従事すべき業務に関する事項
④労働時間等に関する事項
⑤賃金に関する事項
⑥退職に関する事項

*パート従業員に関する特則

パートタイム従業員を雇う場合は、前記の各事項に加え、下記事項も常に明示が必要です(パート労働法6条1項、同法施行規則2条1項)。
①昇給の有無
②退職手当の有無
③賞与の有無
④短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口

相対的明示事項

①退職手当に関する事項
②臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)に関する事項
③労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
④安全及び衛生に関する事項
⑤職業訓練に関する事項
⑥災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑦表彰及び制裁に関する事項
⑧休職に関する事項

リスク

当該条文の内容が要因で発生するリスクはありません。運用上の注意点は下記の通りです。

  • 絶対的明示事項(昇給に関するものは除く)は書面での明示が必須                              
    *2019年4月1日より労働者の希望がある場合に限りFAXと電子メールによる明示も可能になりました(ただし電子メールは書面に出力できることが必要です。)
  • 労働者間で労働契約期間などが異なれば、就業規則の絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項も異なってきます。そのため就業規則を交付しただけでは明示義務を果たしたことにはなりません。
  • 労働契約締結時に明示された条件と事実が相違する場合、労働者は即時に契約を解除することができるとしています(労働基準法第15条2項)。
    そのため、誤字脱字など小さなミスや、採用チラシ記載の労働条件と労働条件通知所が異なるなどといったことが、トラブルに発展しないように細心の注意が必要です。
  • 配置転換や職種転換をめぐる労使間のトラブルが法廷上の争いに発展することがあります。そのため配置転換や職種転換の有無については、特に細心の注意を払って明示しつつ、会社と労働者双方が理解を深めることが予防策です。

改善案

第7条(労働条件の明示)

会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書兼雇用契約書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。なお労働者は、自身が署名捺印した労働条件通知書兼雇用契約書を入社日までに提出しなければならない

労働条件通知書を労働者に交付することは法的に義務付けられています。一方で雇用契約書については義務付けられていません。
しかし労働条件に関する労使間トラブルを避けるためにも、ほとんどの企業が労働条件通知書兼雇用契約書を作成しています。
非常に重要な書類となるため入社日までに提出させることを明記した方が良いでしょう。

参考判例

大阪医科薬科大学事件 大阪高判 平31年2月15日

事件概要

上記学校法人では、正職員と自身との間で、基本給や有給休暇制度等の待遇面に相違があった。
アルバイト職員(原告)は、労働契約法第20条(不合理な労働条件の相違を禁止する)に違反するとして、不法行為に基づく損害賠償請求を行った事件。

就業規則との関係において

(労働条件の不合理な差別がないことを前提に)経営者は、採用時の労働条件通知書交付等により労働者に労働条件を明示する必要があります。
そして労働条件に対する労使の認識相違がないようにしなければいけません。
なお基本給における賃金格差の不合理性について、次のように述べています。

『正職員とアルバイト職員とでは,実際の職務も,配転の可能性も,採用に際し求められる能力にも相当の相違があったというべきである。』

このように基本給において正社員と相違があることは、不合理とは言えないとの判断が下されました。
しかし、その他の賞与や夏季特別有給休暇などの労働条件の相違は、不合理であるとされました(フルタイムアルバイト職員に対し、正職員の支給基準6割未満の賞与しか支給しないことは、労働契約法第20条違反になるなど)。