採用手続の方法を明示します
第4条(採用手続)
会社は、入社を希望する者の中から選考試験を行い、これに合格した者を採用する。
条文の目的・存在理由
採用と選考については、就業規則の絶対的・相対的必要記載事項ではないため記載は任意です。
しかし下記役割があるため重要な条文です。
①採用において公正な選考過程を実施する旨(不正がないこと)を明示
②雇用形態すなわち労働条件の区別の根拠
*通説では、労働契約前である就職希望者には、会社の就業規則は適用されません。
しかし、上記の通り実務上重要な役割があるため、条文として設ける必要があると考えます。
*日本国憲法で「職業選択の自由」を全ての国民に保障しています。
厚生労働省は採用選考の基本として下記2点を挙げています。
①応募者に広く門戸を開く事
②本人の持つ適性・能力以外のことを採用基準にしないこと
リスク① 選考試験の定義があいまいである
当該就業規則が適用される雇用形態と、それ以外を区別するため、採用手続や採用基準を具体的に記す必要があります。
しかし「選考試験」という文言だけでは、書類選考・筆記試験・面接という選考過程全てが含まれると解釈されかねません。
その結果、例えばパートタイマー労働者が「自身が唯一受けた選考過程である面接も当該条文の『選考試験』に該当するのではないか」と主張するリスクがあります。
職務内容・異動の可能性などの他条件にもよりますが、同一労働同一待遇論を主張されるリスクも生じます。
リスク② 就職希望者に対する人権侵害にならないよう注意が必要
日本では、法令に反しない範囲で、会社に採用の自由が認められています。
したがって採用選考を目的としたものである限り、下記改善案で記載した提出書類を、独自に決定することができます。
一方で、憲法には「職業選択の自由」が基本的人権として明記されています。
また男女雇用機会均等法第5条・第7条にある通り、会社は労働者の採用時に、男女に均等な機会を与えなければなりません。
更に職業安定法では、採用選考であっても、個人情報保護を目的に、不必要な個人情報取得を制限しています。
したがって、就職差別につながるような事項を安易に把握することは、就職希望者の基本的人権を侵害する恐れがあります。
行政処分あるいは会社の社会的評判低下といった事態を招くリスクもあります。
なお就職差別につながる不適切な質問が面接時になされていることが、近年問題視されています。
面接実施の際には、下記質問は直接的・間接的問わず避けなければいけません。
改善案
上記リスク①に鑑みると、(選考方法を他の雇用形態と区別した上で)選考方法を具体的に明示することが望ましいでしょう。
更に選考手続きにおいても他の雇用形態と区別する方法も一考です。
第4条 (採用手続)
1 会社は、入社を希望する者の中から、書類選考、複数回の採用面接、及び筆記試験などの選考試験を行い、これに合格した者を採用する。
2 会社は、正社員としての入社希望者に対し、採用選考のための下記書類を提出させる。但し、会社が不要と判断した場合は、その一部の書類を求めないことができる。
①履歴書
②新規卒業者は卒業(見込証明書)証明書及び学校成績証明書
③中途採用者は職務経歴書
④その他会社が提出を求める書類3 会社は、上記書類については、選考以外の目的では使用せず、個人情報保護法に則って管理する。
参考判例
Y金融公庫事件 東京地判 平成15年6月20日
事件概要
労働者Aは、Y金融公庫採用試験過程において健康診査・精密検査を受けた。労働者Aが、
①B型肝炎ウイルス感染を理由とした不合理な内(内)定取消であること、
②無断でB型肝炎ウイルス感染検査・精密検査を受けさせたこと
によりそれぞれ精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした事件。
就業規則との関係において
①について
採用選考として残されていた健康審査の結果次第で、採否結果が変わることを労働者Aも知っていました。
そのため本件不採用は不法行為に該当しないと判断されました。
②について
企業には、採用の自由、その判断に必要な調査をする自由が保障されており、健康診断を行うことの必要性は肯定できるとしました。
しかし一方で、下記基準が示されました。
・企業は特段の事情がない限り応募者に対し、B型肝炎ウイルス関連の調査を行ってはいけない。
・調査が必要であった場合でも応募者本人への説明と本人の同意が必要である。
そしてこの基準に照らすと本事案は、金融機関Yの業務内容に鑑みるとB型ウイルス感染の有無を調査する必要性は乏しく、その必要性が肯定できるとしてもXの同意無く行われたと認定されました。
そのため労働者Aのプライバシー権侵害にあたるとの判断が下されました。
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