産前休業と産後休業の違いに注意が必要です
第25条 (産前産後の休業)
1 6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性労働者から請求があったときは、休業させる。
2 産後8週間を経過していない女性労働者は、就業させない。
3 前項の規定にかかわらず、産後6週間を経過した女性労働者から請求があった場合は、その者について医師が支障ないと認めた業務に就かせることがある。
条文の目的・存在理由
産前産後休業は、労働基準法第65条に定められた制度です。上記モデル条文は法律に則って記載されています。
また産前産後休業は「休業」に関する項目に分類され、就業規則の絶対的必要記載事項です。
上記条文に記載されている通り、産前休業と産後休業の違いに注意が必要です。
産前休業
女性労働者の請求があった場合のみ休業を与えれば良い。
産後休業
請求の有無にか関わらず休業を与えなければいけない。ただし、産後6週間経過し、女性労働者本人の就業希望の申し出と医師の許可があった場合は就業させることができる。
リスク 産前産後休業期間中の給与について
上記モデル条文には産前産後休業期間中の給与について一切記載がないため、明記すべきです。
産前産後休業時の賃金については、労働基準法上には定めがなく、会社が有給か無給かを決めることができます。
なお健康保険法に基づき産前産後休業期間中は出産手当金が支給されます。支給のルールについては下記の通りです。
支給単位:1日単位
支給額:出産手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2
休業期間中の賃金との調整について: 賃金額 > 手当金 → 不支給
賃金額 < 手当金 → 差額を支給
祝金などの一時的な支払いであれば賃金に該当しないため上記のような調整はありません。
改善案
第24条 (産前産後の休業)
1 6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性労働者から請求があったときは、休業させる。
2 産後8週間を経過していない女性労働者は、就業させない。
3 前項の規定にかかわらず、産後6週間を経過した女性労働者から請求があった場合は、その者について医師が支障ないと認めた業務に就かせることがある。
4 産前産後休業期間中は無給とする。
参考判例
東朋学園事件 東京高判 平成18年4月19日
事件概要
労働者である原告は、産休取得後、育児のための時間短縮措置(以下時短勤務とする)の適用を受けていた。
被告である東朋学園の給与規程には、出勤率90%以上の者に賞与を支給する旨と産休期間は欠勤扱いとすると定められていた。
そして、原告の時短勤務制度利用後に、時短勤務期間も出勤率計算にあたり欠勤扱いとする給与規程の改定が行われた。
このため原告は、出勤率90%に満たないことを理由に、2度の賞与において全額が支給されなかった。
原告は、このような取扱いは公序良俗に反するとして、賞与の支払いおよび慰謝料・弁護士費用の支払いを求め提訴した事件。
地裁(東京地判 平10・3・25)、高裁(東京高判 平13・4・17)は、本件取扱を公序に違反し無効と判断。学園側に賞与全額の支払いを命じた。
しかし最高裁(平15・12・4判決)は、90%条項のうち、産休・育児時短を欠勤扱いにして出勤率を計算している点は公序に反し無効であるとしつつも、不就労期間を考慮せずに賞与全額の支払を命じた原審判決を破棄した。
そして就業規則の不利益変更について再度審理を尽くすよう、高裁に差し戻した。
就業規則との関係において
判決の要点は下記の通りです。
・労働基準法上、産休中の有給までは求められていないことから、産休・育児時短勤務による不就労期間に応じて、賞与を減額することは無効ではない。
・「90%条項中、出勤すべき日数に産前産後休業の日数を算入し、出勤した日数に産前産後休業の日数及び勤務時間短縮措置による勤務時間短縮分を含めない旨を定めている部分(給与規程と一体を成す本件各回覧文書の本件各除外条項によって定められている部分)は,労働基準法65条、67条、育児休業法10条の趣旨に反し、公序良俗に違反するから、無効であると解すべきである」
・就業規則・給与規程を今回の事案のように不利益変更することは、不合理とは言えず許される。
しかし原告の時短勤務制度利用後に改定し、遡及的に適用したことは信義誠実の原則に反して許容することができない。
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