退職金制度を設ける場合は、①適用される労働者の範囲②退職手当の決定、計算及び支払の方法③退職手当の支払の時期を就業規則に記載しなければいけません

第52条 (退職金の支給) 
1 勤続__年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、自己都合による退職者で、勤続__年未満の者には退職金を支給しない。また、第65条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。

2 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。

条文の目的・存在理由

退職金制度は、

①会社独自の制度(退職一時金、(企業型・個人型)確定拠出年金、確定給付年金等の組み合わせ)
②中小企業退職金共済制度(中退共)
③特定退職金共済制度

の3つに大きく分けられますが、退職金の支給自体は会社の義務ではありません

一方で、モデル条文第52〜54条で扱う退職金に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項です。
したがって退職金制度を設ける場合は、下記3項目を就業規則に記載しなければいけません(労働基準法89条3号の2)。

①適用される労働者の範囲
②退職手当の決定、計算及び支払の方法
③退職手当の支払の時期

また別途「退職金規程」を作成し、それに委任する形式を採用することも可能です。

なお、法律で支給を義務付けられていない各種手当と同様に、一度制定された退職金制度も自由に改廃できません。改廃によって労働者に不利益が生じるのであれば、労働条件の不利益変更の問題が生じます。そして労働契約法9条、10条に基づいて、その改廃の有効性が判断されることになります。

中小企業退職金共済制度について

中小企業退職金共済制度は、会社負担による毎月一定の掛金と国からの助成で、労働者の退職時の退職金を確保する制度です。
この制度に加入できるのは中小企業に限られます。特定退職金共済制度と重複加入は可能です。制度の詳細については下記HPをご覧ください。

独立行政法人勤労者勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済制度事業本部 http://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/index.html

特定退職金共済制度について

商工会議所などと退職金共済契約を締結した会社が、毎月掛金を納付します。
労働者が退職したときは、会社にかわって商工会議所が加入労働者に直接退職金を支払う仕組です。

中小企業退職金共済制度と仕組みは似ていますが、国の承認を受けた各地域の商工会議所等が特定退職金共済団体を設立して行っている点が異なります。制度内容も共済団体ごとに若干の違いがあります。
なお上記中小企業退職金共済制度と重複加入が認められていますが、他の特定退職金共済制度との重複加入はできません。

同業他社に転職した場合を退職金の減額事由とすることについて

上記モデル条文にある自己都合退職や懲戒解雇事由に加えて、同業他社に転職した場合にも減額事由と規定する会社もあります。
このような規定も一定の合理性があると判例でも認められていますが、労働者の職業選択の自由を妨げるという問題も生じます。

リスク 支給対象除外者について

勤続年数に関わらず、パート労働者等に退職金を支給しないのであれば、その旨を就業規則に明記する必要があります。
就業規則の総則において当該就業規則の適用対象者を明確にしていれば、必須ではありませんが、誤解を招かないためにも明記することをお勧めします。

また、就業規則本体と別に退職金規程を設ける場合は、退職金規程においても支給対象者を明確にする必要があります。 

リスク 支給後に懲戒事由が判明した場合について

退職金を支給後に、労働者の懲戒事由が判明することもあり得ます。
その場合は就業規則が適用される労働者ではなくなっているため、懲戒処分は出来ません。
したがって、そのようなケースにおいても返還請求ができることを明記しておく必要があります。

リスク 自己都合退職について

会社に退職願を提出して退職する場合は、当然自己都合退職になります。
しかし休職期間が満了したのちに復帰できずに退職する場合や、業務上の傷病により死亡した場合など、労働者自身での判断が難しい場合があります。
したがって自己都合退職に該当する場合を明確にしておいた方が良いでしょう。

改善案

第52条 (退職金の支給) 

1 正社員であり、かつ勤続__年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、自己都合による退職者で、勤続__年未満の者には退職金を支給しない。なおここでいう自己都合による退職者とは下記の理由で退職するものを指す。

 ①就業規則の規定により休職し、休職期間が満了した者
 ②業務外の傷病により死亡した者
 ③自己の都合により退職した者

2 第65条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。なお退職後に懲戒事由が判明した退職者に対して、会社は既に支払った退職金の全額あるいは一部を返還請求することがある。 

3 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。

参考判例

小田急電鉄事件 東京高判 平成15年12月11日

事件概要

労働者A(控訴人)は、業務外における2回の痴漢行為により、罰金刑を受けた。
会社(非控訴人)は情状を酌量し、昇格停止および降格処分を下し、労働者Aより始末書の提出を受けた。

その後労働者Aは、通勤中に再度痴漢行為を行い、逮捕、勾留、起訴された。
会社は、労働者Aを懲戒解雇し、解雇予告手当と冬季一時金のみを支払い、退職金は支払わなかった。

会社の退職金支給規則には、
「懲戒解雇により退職するもの、または在職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分決定以前に退職するものには原則として退職金は支給しない」
との規定があった。

労働者Xは、懲戒解雇無効および退職金全額支給を求めて提訴した事件。第一審では労働者Xの訴えは認められず敗訴した。

就業規則との関係において

判決では、懲戒解雇については、解雇手続きおよび処分内容も相当の範囲を逸脱しておらず、有効であるとされました。
一方で退職金については、全額不支給は行き過ぎであるとして、退職金の額の3割の支払が適当であると判断しました。
主な判決のポイントは下記の通りです。

・退職金について、賃金の後払い的性格だけでなく、功労報償的性格をも合わせ有する。そのため退職した従業員に在職中の功労を評価できない事由が存する場合に、退職金の支給を制限することも許されないわけではない。

・「退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要である」

判決文より引用


・労働者Aは、電車内の乗客迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員である。

・2回の痴漢行為ののちに提出した始末書には、「このような不祥事を発生させた場合には、いかなる処分にも従う」との文言があった。にも関わらず、再び同種の犯罪行為で検挙された。したがって、労働者Aの永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があったと評価する余地もある。

・痴漢撲滅運動に取り組んでいた会社にとって、労働者の犯した犯罪は決して軽微なものではないと認めつつも、直ちに直接的な背信行為とまでは断定できない。

・労働者Aの功労という面では、20年余の勤務態度が非常に真面目であり、旅行業の取扱主任の資格も取得するなど自己の職務上の能力を高める努力をしていた。

・過去に同社で、直接会社に損害を与える業務上横領で退職した事例では、退職金の一部が支給されていた。

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