夜勤勤務時の仮眠時間に対して、賃金を支給していません。法的問題はありますか?

回答

仮眠の実態によって、労働時間に該当するかが決まります。
労働時間に該当するのであれば賃金を支払わなければいけません。

業務が発生した場合に、迅速な対応を求められる状況での仮眠であれば、労働時間でしょう。
緊張感を有しながらの仮眠であり、労働から完全に解放された時間と言えないからです。

一方で、患者や利用者などからナースコールがあっても、仮眠者は仮眠中は業務を行わなくて良いという場合もあるでしょう。
その場合は、労働時間として扱う必要はないでしょう。

注意

仮眠時間が労働基準法上の労働時間に当たるとしても、当然に労働契約所定の賃金請求権が発生するものではないとされています。
つまり実作業が生じた場合と仮眠だけの場合で支給額に差をつけられるということです。
詳しくは下記解説「仮眠時間が労働基準法上の労働時間に当たるとしても、当然に労働契約所定の賃金請求権が発生するものではない」をご参照ください。

宿直について

今回の記事では、夜勤に関する質問として回答していますが、宿直も重要なテーマです。

夜勤と宿直は、夜間に業務を行う点は共通していますが、下記の点が明確に異なります。

夜勤:法定労働時間内に行われる。日中における業務と変わらない通常業務を担う。

宿直:法定労働時間外に行われる。待機業務が主であり、普段の通常業務は課されない。

宿直業務は、労働基準法第41条3項に規定されています。
労働基準監督署の許可を受けることで、宿直業務の労働時間については、労働時間等に関する規定の適用が除外されます。

医師や看護師における宿直勤務について、下記の通り東京都労働局監督課から資料が提供されています。

「宿日直許可基準・自己研鑽等労働時間の考え方について」 東京都労働局監督課

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000557469.pdf

解説

労働時間とは?

労働時間について、労働基準法上明確な定義はありませんが、判例によれば下記の通りです。

「労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」

三菱重工業長崎造船所事件判決 最一小判 2000年3月9日

ポイントは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれているかどうかということです。

仮眠時間は指揮命令下にあると言えるか?

回答で述べた通り、仮眠の実態によって使用者の指揮命令下にあるかどうか判断されます。
判例では下記のように述べています。

「不活動仮眠時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。」

大星ビル管理事件判決 最一小判 平成14年2月28日

下記「参考」において、仮眠時間が労働時間と認定されたケースと認定されなかったケースを紹介していますが、判断のポイントは下記の通りです。

・実作業を行わなければいけない頻度(実作業時間は当然労働時間です)
・仮眠する環境が整備されたものかどうか?
・仮眠中に何かあった場合に、実作業を行う義務はあるか?


仮眠時間が労働基準法上の労働時間に当たるとしても、当然に労働契約所定の賃金請求権が発生するものではない

仮眠時間が労働時間に該当するとしても、仮眠時間以外の実作業と同額の賃金を支払う必要はありません。
つまり仮眠時間に対しては、泊まり勤務手当のような形で、賃金を支給することもできるということです。
なぜなら労働契約の内容は、法律に違反しない限り労使間で自由な合意によって決められるからです。

ただし、仮眠時間も労働時間であるとすれば、労働基準法や最低賃金法の適用を受けます。
例)仮眠時間に対して支給される深夜勤務手当を仮眠時間で割った額が最低賃金法を上回っていなければいけません。

参考

仮眠時間が労働時間と認められた判例

大星ビル管理事件  最一小判 平成14年2月28日

事件概要

ビル管理会社では、泊まり勤務(23〜24時間)に対し、連続7〜8時間の仮眠時間を設けていました。
このビル管理会社の泊まり勤務のポイントは下記の通りです。

・仮眠時間中、ビルの仮眠室に待機し、警報が鳴るなどすれば直ちに実作業を行う義務があった。
 一方でそのような事態が生じない限りは睡眠をとってよい。

・泊まり勤務労働者に対しては泊まり勤務手当(一回につき二三〇〇円)支給。
 現実に突発的作業等が発生した場合のみ、その時間に対して時間外手当及び深夜手当を支給する。→ 仮眠時間を労働時間として扱わない。

労働者らは、仮眠時間が労働時間にあたるとして、既に支払われた泊まり勤務手当等との差額支払を請求した事件

仮眠時間に対する判断

「本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。」

仮眠時間が労働時間と認められなかった判例

日本ビル・メンテナンス事件 東京地判 平成18年8月7日

事件概要

被告会社における宿泊を伴う警備業務では、下記2種類の勤務形態があった。
勤務形態AとBで勤務する者、2人1組で行われていた。

勤務形態A
・本件ビルの防災センター裏にある仮眠室で仮眠を取る勤務形態
・モニターでの館内監視などの通常業務に加え、地震や火災などの非常時への対応なども義務付けられていた。
・本件ビルへの入退館者の 確認や不審者の有無の監視、地震、火災 などの非常時への対応などの業務があった。
・深夜時間帯でも人の入退館があり、 仮眠を取ることはほとんどできなかった。
・仮眠場所は当該仮眠室に限定され、警報機などの警備設備から離れられなかった。

勤務形態B
・防災センターとは別の場所にある仮眠室(本件別室)で仮眠を取る勤務形態
・本件ビルのマスターキーは 24時間携行し、制服着用と常時連絡が取れる状態にしておくことが義務付けられていた。
・仮眠時間中は、外出禁止とされていた。
・深夜に不審者が本件ビルに侵入した場合や地震や大雨の際には、状況確認を行う義務があった。
・ 勤務形態Aの労働者が一時的に防災セン ターを離れるときは、代わりに防災センターで待機することもあった。

労働者らは、上記勤務形態A・Bにおける仮眠時間が労働時間にあたると主張し、宿泊時の仮眠時間を含めて時間外割増賃金、深夜労働割増賃金の支払を求めた事件。

勤務形態Aの仮眠時間については、上記「大星ビル管理事件」と同様の理由で、労働時間と判断されました。
一方で、勤務形態Bの仮眠時間については、労働時間に当たらないと判断されました。

勤務形態Bの仮眠時間に対する判断

下記の通り、仮眠の環境を個別具体的に判断しました。
その結果、実質的には宿直業務という労働から離れることが保障されていたと評価し、勤務形態Bの仮眠時間は、労働時間に当たらないと判断しました。

・緊急時もそれ以外の場合も、労働者らが常に仮眠時間中に宿直業務への対応を求められていたとは認められない。
・本件別室は、勤務形態Aの仮眠部屋と異なり、 独立した一室として、一応ベッドが用意され、宿泊施設としての最低限の体裁はあった。
・本件別室には、防災センターと結ばれたインターホンがあるほかは、警報装置など警備業務用機器の設置もなかった。
 したがって完全な静寂ではないが、仮眠を取ることは可能な環境であった。

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