試用期間を設ける場合は、期間などを記載しなければいけません
第6条 (試用期間)
1 労働者として新たに採用した者については、採用した日から__か月間を試用期間とする。
2 前項について、会社が特に認めたときは、使用期間を短縮し、又は設けないことがある。
3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第51条第2項に定める手続によって行う。
4 試用期間は、勤続年数に通算する。
条文の目的・存在理由
採用した労働者の試用期間を設ける場合に必要となります。
試用期間やその延長に関する基準、試用期間中の解雇や本採用拒否があり得ることなどを明示します。
なお最高裁判例(三菱樹脂事件=最大判昭48.12.12労判189-16)では、試用期間中の労働者と使用者の契約関係は、解約権留保付労働契約であるとしています。
解約権留保付労働契約とは、労働契約を解消する権利を会社側が残したままにできる契約です。
厚生労働省は試用期間の基本的な方向性として下記のように述べています。
基本的な方向性
(1) 入社当初に結んだ労働契約に期間を設けた場合、その期間を設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、当該期間満了によりその契約が当然に終了する旨を当事者が合意しているなど特段の事情がないときには、当該期間は、解約権が留保された試用期間と解されます。
(2) 試用期間である以上、解約権の行使は通常の場合よりも広い範囲で認められますが、試用期間の趣旨・目的に照らし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合にのみ許されます。
(3) 試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれることから、その適性を判断するのに必要な合理的な期間を越えた長期の試用期間は、公序良俗に反し、その限りにおいて無効と解されます。
厚生労働省 労働条件に関する総合情報サイトhttps://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/shogu/shiyou.html
*試用期間に関してよくある誤解
誤り | 正しい | |
① | 試用期間がおわらないと、解雇できない | 理由があれば3ヶ月待たずに本採用しないことができる |
② | 試用期間中の暦日14日以内であれば、無条件に解雇できる | 解雇予告手当が免除されるだけであり、解雇理由は必要 |
③ | 試用期間中は解雇してもいいという期間 | 解雇してもいいのではなく、正当な理由があれば本採用しない という選択ができる期間 (解雇のハードルが通常より低いという意味) |
リスク① 試用期間の長さについて
法律上は試用期間の長さに制限がありません。
しかし、解雇しやすい状況を維持する目的で、1年を超えるような長い期間を設定することは公序良俗に反し無効になる可能性があります。
なお判例では試用期間の長さに関して、下記のように述べています。
「試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるものであるから、労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行うのに必要な合理的範囲を超えた長期の使用期間の定めは公序良俗に反し、その限りにおいて無効であると解するのが相当である」
(ブラザー工業事件 名古屋地判昭59年3月23日)
リスク② 「試用期間中の解雇」と「本採用拒否」を明示していない
「試用期間中の解雇」と、試用期間終了時の「本採用拒否」は、両方とも解雇と同じ扱いです。
ただし、「試用期間中の解雇」は試用期間終了を待たない解雇であるため、「本採用拒否」よりも認められにくいというのが判例の傾向です。
上記条文3項後段の存在から、「試用期間中の解雇」が当然あり得るという解釈は可能です。
しかし、トラブルを避けるためにも「試用期間中の解雇」と「本採用拒否」の両方を明記すべきでしょう。(下記ニュース証券事件判例参照)
リスク③ 解雇基準が明示されていない
試用期間中における解雇の有効性が争われた裁判が多数あり解雇が有効とされたケースと無効とされたケース両方存在します。
解雇が有効となる場合の基準については上記厚生労働省の示した方向性(2)の通りです。
なお多くの判決において、客観的に合理的理由についても下記のように述べています。
「・・・使用者において、採用決定後の調査や就職後の勤務状況等により、採用時に知ることができず、また知ることを期待できないような事実を知るに至った場合であって、その者を引き続き雇用しておくことが適当でないと判断することが客観的に相当であると認められる場合」
試用期間中の解雇をめぐって裁判上の争いに発展するリスクを少なくするためにも解雇基準を明示すべきでしょう。
改善案
第6条 (試用期間)
1 労働者として新たに採用した者については、採用した日から3か月間を試用期間とする。
2 前項について、会社が特に認めたときは、使用期間を短縮し、又は設けないことがある。
3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。この決定は、入社前に期待された役割、健康状態、出勤状況、勤務態度などを総合的に考慮して行う。ただし、入社後14日を経過した者については、第51条第2項に定める手続によって行う。
4 試用期間中の労働者が私傷病等により長期間欠勤するなど、会社が予定した期間内に本採用の可否を判断できない場合、試用期間を延長することがある。
5 試用期間は、勤続年数に通算する。
3項について
新卒採用と中途採用では、期待される役割やスキルが異なることが多々あります。
このように記載することで弾力的運用を可能にしています。
4項について
試用期間の延長は労働者にとっては不利であるため、延長する場合の合理的な理由を明記しています。
参考判例
ニュース証券事件 東京高判 平成21年9月15日 解雇が無効とされた
事件概要
営業職の正社員(課長)として中途採用された労働者A(原告)は、試用期間中の月平均手数料収入が給与分に達しない状況にあった。
そのため会社(被告)は、就業規則の「試用期間中に不適と認められるとき」という条項を根拠に、試用期間満了前に労働者Aを解雇した。
労働者Aは解雇無効を理由とする地位確認や不法行為に基づく損害賠償などを請求した。
就業規則との関係において
労働者との雇用契約において試用期間を6か月とする規定(1条1項)を設けていました。
一方で判決では、同条2項は「試用期間満了前に、会社がいつでも留保解約権を行使するできる」という趣旨ではないとしました。
そして、「試用期間終了時までの間に不適と認められた者につき、同期間終了時において解雇することが出来るという、試用期間の制度を設けたことに伴う当然の効果を明確にした規定にとどまるもの」と解すべきであるとしました。
その上で判決では、下記のように述べています。
・3か月強の期間の手数料収入のみで、原告の資質、性格、能力等が会社の従業員としての適格性を有しないとは到底認めることはできない。
・本件解雇(留保解約権の行使)は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することはできない。
ブレーンベース事件 東京地判 平成13年12月25日 解雇が有効とされた
事件概要
平成11年1月6日被告会社に採用された労働者A(原告)は、3ヶ月の試用期間中に営業・その他の事務業務に従事していた。
しかし、労働者Aは業務遂行上必要な専門知識習得の意欲を持たなかった。
パソコン操作技術も不十分だった(採用条件に当該技術が設けられていた)。
このため会社(被告)は試用期間満了前の平成11年4月1日に解雇通知を行った。
就業規則との関係において
判決において、下記のように原告の具体的行動が列挙しました。
・急を要する業務を行ってはいない原告が、緊急の業務指示に速やかに応じない態度をとる。
・パソコン使用はおろかファックス送信も満足に行えない。
・業務上の指示に従わないことがある。
・被告企業の重要な商品発表会の翌日に2回休暇を取得した。
その上で、判決では下記趣旨を述べています。
遅くとも平成11年3月末時点において、被告会社は、採用前に期待した商品販売につながる業務が実行される可能性を、労働者Aから見出し難かった。
その結果、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と是認される場合に当たるので、有効であると判断されました。
なお解雇予告は有効に実施されていないため、被告会社は解雇通知日から30日を経過する日までの賃金を支払わなければならないとされました。
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