労働基準法第37条違反となるのは、割増賃金として支払われた金額が、同条文で定められた方法によって算出された割増賃金の金額を下回る場合です。

第38条(割増賃金) 第2項(2)日給制と(3)時間給制の場合は省略しています。

1 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。
(1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月_日を起算日とする。  
 ① 時間外労働45時間以下・・・25%
 ② 時間外労働45時間超~60時間以下・・35%
 ③ 時間外労働60時間超・・・・・50%
 ④ ③の時間外労働のうち代替休暇を取得した時間・・・35%(残り15%の割増賃金は代替休暇に充当する。)

(2)1年間の時間外労働の時間数が360時間を超えた部分については、40%とする。この場合の1年は毎年_月_日を起算日とする。
(3)時間外労働に対する割増賃金の計算において、上記(1)及び(2)のいずれにも該当する時間外労働の時間数については、いずれか高い率で計算することとする。

2 割増賃金は、次の算式により計算して支給する。
(1)月給制の場合


(2)日給制の場合 省略
(3)時間給制の場合 省略

3 前項の1か月の平均所定労働時間数は、次の算式により計算する。

   (365-年間所定休日日数) × 1 日の所定労働時間
──────────────────────────────── 
              12

条文の目的・存在理由

労働基準法第37条にある通り、法定労働時間を超えて労働者に労働させた場合に、会社は割増賃金を労働者に支払わなければいけません。
割増賃金は、賃金の計算方法に関する絶対的必要記載事項で記載は必須です。

また、このモデル条文の割増賃金の算出額は強行規定(絶対に守らなければいけない基準)です。
この基準を下回る支給額は法令違反となり未払賃金の問題が生じます。

ただし会社の所定労働時間が法定労働時間よりも短いこともあるでしょう。
その場合は、所定労働時間を超えて法定労働時間に達するまでの時間分については、通常の労働時間の賃金を支払うということでも問題ありません
(所定労働時間を超えて法定労働時間に達するまでの時間分も割増賃金を支払う雇用契約が会社と労働者の間で交わされていれば、その契約に従う必要があります)。

割増賃金の算定基礎から除外することができる手当について

①家族手当 ②通勤手当 ③別居手当
④子女教育手当 ⑤住宅手当 ⑥退職金等臨時に支払われた賃金 ⑦賞与等1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

は、割増賃金の算定基礎から除外することができる手当です(労基法第37条第5項、同法施行規則第 21条)。

ただし手当を除外する際には、単に名称によるのでなく、その実質によって判断する必要があります。
例えば前述したように、居住地に関係なく社員に一律定額の通勤手当を支給している場合は、算定基礎から除外することはできません。
なお、算定基礎から除外することができる手当を、会社の判断で算定基礎に算入することは問題ありません。


残業代の支給方法や算出額について

労働基準法第37条は割増賃金の最低基準を定めた規定です。
しかし同条と同じ算出方法での割増賃金支払を義務づけてはいません。
同条違反となるのは、割増賃金として支払われた金額が、労働基準法第37条で定められた方法によって算出された割増賃金の金額を下回る場合です。

そしてこの判断を下すためには必然的に、「通常の労働時間の賃金に当たる部分」と「割増賃金に当たる部分」を判別できなければいけません。
自社の給与制度ではこの2点の区別が明瞭かどうかを点検する必要があるでしょう。

リスク 法定外労働時間と所定外労働時間の明記がない

モデル条文では、法定外労働時間のことを言っているのか、所定外労働時間のことを言っているのかはっきりしません。
所定労働時間を超えて法定労働時間に達するまでの時間分については、通常の労働時間の賃金を支払えば問題ないため、会社の規定を明記すべきです。

リスク 手当について

労働基準法第37条5項の「割増賃金の算定基礎から除外できる手当」は、手当の名称でなく実態で判断されます。
もしも本来算定基礎に含むべき手当を除外して割増賃金を計算してしまえば、未払い賃金の問題が発生します。
したがって、各種手当を設けている会社は、除外できる手当なのかどうか一つ一つ吟味する必要があります。


各種手当を除外できるかどうかの具体例(厚生労働省作成)

厚生労働省・都道都道府県労働局・労働基準監督署作成リーフレットよりhttps://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-5a.pdf

リスク 管理職の取り扱いについて

モデル条文では、管理職(管理監督者)についての扱いが記載されていません。
記載がなくとも法令違反というわけではありませんが、労使双方の確認の趣旨で明記すべきでしょう。
管理監督者は、労働基準法第37条1項に基づく残業代(時間外・休日割増賃金)を支払わなくても法令違反となりません(深夜割増賃金の支払は必要です)。

改善案

第38条(割増賃金) 
1 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。ただし管理監督職に該当するものは、時間外労働割増賃金と休日労働割増賃金を支給しない。

 1(1)〜(3)は上記モデル条文と同文のため省略

2 割増賃金は、次の算式により計算して支給する。
(1)月給制の場合
① 時間外労働割増賃金  (法定労働時間を超えて労働させた場合) 

以下上記モデル条文と同文のため省略

参考判例

国際自動車事件 最一小判 令和2年3月30日

事件概要

タクシー業を営む会社に勤務する労働者らが、会社の賃金規程は無効であると主張し、控除された割増賃金の支払を求めて会社を提訴した事件。
この会社の賃金規定では、歩合給を算出する際に、割増賃金相当の金額を控除するとしていた。
原審では労働者側の主張が認められるも、高裁では労働者側の主張が認められませんでした。
最高裁では労働者側の主張が認められ、審理が高裁に差し戻されました。

就業規則との関係において

この事件でのポイントは、時間外労働が長くなるほど、売上高に応じてもらえるはずの歩合給が減るというタクシー会社の賃金規定の適法性です。
判決では下記のように述べ、当該賃金規定が労働基準法の本質から逸脱しているとの判断を下しました。(太字は筆者による)

「本件賃金規則の定める上記の仕組みは、その実質において、出来高払制の下で元来は歩合給(1)として支払うことが予定されている賃金を、時間外労働等がある場合には、その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするものというべきである(このことは,歩合給対応部分の割増金のほか、同じく対象額Aから控除される基本給対応部分の割増金についても同様である。)。そうすると,本件賃金規則における割増金は、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われるものが含まれているとしても、通常の労働時間の賃金である歩合給 (1)として支払われるべき部分を相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。そして、割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでないから、本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなる。したがって,被上告人の上告人らに対する割増金の支払により、労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたということはできない。」

*歩合給(1):この会社では下記2種類の歩合給が支給されていました。
歩合給(1) = 対象額A-{割増金(深夜手当,残業手当及び公出手当の合計)+交通費} 
歩合給(2) = (所定内税抜揚高(売上高)-34万1000円)×0.05

*対象額A:この会社では下記ような方法で、割増金及び歩合給を求めるための対象額を算出していました。
対象額A=(所定内税抜揚高(売上高)-所定内基礎控除額)×0.53+(公出税抜揚高(売上高) -公出基礎控除額)×0.62

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