妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止を明らかにします
第14条(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
.妊娠・出産等に関する言動及び妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は措置の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
条文の目的・存在理由
改正雇用機会均等法第11条の2、改正育児・介護休業法第25条(それぞれ平成29年1月1日施行)によれば、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関する職場内ハラスメントを防止するため、事業主は、雇用管理上必要な措置を講じなければならないとしています。
したがってセクシュアルハラスメントの禁止と同様に、労働者の働きやすい環境づくり、被害者の保護、企業秩序の維持のためにも記載すべき条文です。
厚生労働省は事業主の講ずべき具体的措置として下記の事項を挙げています。
不利益取扱いとハラスメントの違い
「不利益取扱い」は平成29年1月1日の法改正以前から禁止されていました。厚生労働省は両者の違いについて下記のように述べています。
「妊娠・出産したこと、育児や介護のための制度を利用したこと等を理由として、事業主が行う解雇、減給、降格、不利益な配置転換、契約を更新しない(契約社員の場合)といった行為は「ハラスメント」ではなく「不利益取扱い」となります。例えば、妊娠したことを伝えたら契約が更新されなかった、育児休業を取得したら降格させられた等が不利益取扱いに該当し、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法違反となります。」
厚生労働省作成「職場におけるハラスメント対策マニュアル」より
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000181888.pdf
リスク① 社会的評判の低下や人材の流出
行政・社会は、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントに対し厳しい眼を向けています。
また妊娠後や子供が生まれた後に働き続けやすいかどうかが、若年層にとって就業先の選定基準となってきています。
したがって会社は、こういったハラスメントを許さないという姿勢を明確に示し、全従業員に対し周知徹底しなければいけません。
妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント被害は、参考判例にある通り、男性の育児休業に対するハラスメントといった形でも近年現れるようになっています。
リスク② ハラスメントか否かの判断基準について
業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動はハラスメントには該当しません。
ハラスメントか否かの判断に迷いが生じるようであれば、上司による円滑な労務管理が実現できません。
したがってハラスメントに該当しない例を示したり、日頃から研修等を通じて啓発活動を行うことが必要です。
厚生労働省がハラスメントに該当しない、業務上の必要性に基づく言動の例として下記のように示しています。
改善案
第14条 (妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
1 妊娠・出産等に関する言動及び妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は措置の利用に関する言動(以下マタニティハラスメント等という)により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。ただし、職場内の業務分担や安全配慮の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動は、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントには該当しない。
2 労働者は職場内において、マタニティハラスメント等に関して下記の行為をしてはならない。なおここで言う職場とは、業務を遂行する全ての場所を含む。また職務に関連した就業 時間外でも下記の行為をしてはならない。
① 部下の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用等に関し、解雇その他不利益な取扱いを示唆する言動
② 部下または同僚の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用を阻害する言動
③ 部下または同僚が妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置を利用したことによる嫌がらせ等
④ 部下が妊娠・出産等したことにより、解雇その他不利益な取扱いを示唆する言動
⑤ 部下または同僚が妊娠・出産等したことに対する嫌がらせ等3 労働者は、他の労働者がマタニティハラスメント等の被害を受けている事態を黙認してはならない。
4 マタニティハラスメント等ハラスメントの相談窓口は〇〇部とする。会社は、マタニティハラスメント等に関する相談者に不利益な扱いをすることはない。
就業規則の本文には、厚生労働省モデル条文のように簡潔に示した上で、「妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止については、育児・介護休業規程に別途定める」といったように記すことも一考です。
参考判例
ツクイ事件 福岡地判 平成28年4月19日
事件概要
介護職員として勤務してた労働者A(原告)は、営業所長である上司に妊娠の報告をした上で、業務軽減を求めた。
当該上司は、妊婦として可能な業務が何かについて労働者Aと話し合う中で、原告の勤務態度について叱責し改善を求めました。
そして当該上司は、
「万が一何かあっても自分は働きますちゅう覚悟があるのか、最悪ね。だって働くちゅう以上、そのリスクが伴うんやけえ」
「別に私、妊婦として扱うつもりないんですよ」
などと発言した。
妊婦として可能な業務を再度医師に確認するよう指示する一方で、業務の軽減を行わなかった。
その3ヶ月後になって労働者Aは、会社の本部長に対し業務の軽減を要望し,業務が軽減された。
労働者Aは、出産および育児休暇を取得後、マタニティハラスメント等があったとして、会社および営業所長である上司に対し慰謝料500万円などの支払いを求めた。
就業規則との関係において
この事件は改正雇用機会均等法施行前ですが、営業所長である上司の不法行為と、会社の就業環境整備義務違反が認定されました。
営業所長の当初の言動もあり、その後3ヶ月もの間、労働者Aは就業環境の配慮を改めて求めていませんでした。
それでも判決では、会社は配慮の要否を当該労働者Aに積極的に確認する必要があったと認定しています。
改正雇用機会均等法が施行された今、厚生労働省の指針に沿ってマタニティハラスメントを許さない姿勢を就業規則に明記しなければいけません。
妊産婦が働きやすい環境を積極的に整備していくことも求められます。
なお営業所長の上記発言に対して、判決では下記のように述べています。太字
「・・・妊娠をした者(原告)に対する業務軽減の内容を定めようとする 機会において、業務態度等における問題点を指摘し、これを改める意識があるかを強く問う姿勢に終始しており、受け手(原告)に対し、妊娠していることを理由にすることなく、 従前以上に勤務に精励するよう求めているとの印象、ひいては、妊娠していることについての業務軽減等の要望をすることは許されないとの認識を与えかねないもので、相当性を欠き、また、速やかに原告のできる業務とできない業務を区分して、その業務の軽減を図るとの目的からしても、配慮不足の点を否定することはできず、全体として社会通念上許容される範囲を超えているものであって、使用者側の立場にある者として妊産婦労働者(原 告)の人格権を害するものといわざるを得ない。」
医療法人稲門会事件 大阪高判 平成26年7月18日
事件の概要
病院で勤務していた男性看護師(原告)が、3ヶ月間の育児休業を取得した。病院側は3ヶ月間の不就労を理由に、職能給を昇給させず、昇格試験も受験させなかった。
男性看護師は、これら病院側の行為を違法だとして、
①昇給・昇格していれば支給されたであろう給与等の金額から既に支払いを受けた給与額を差し引いた額
②慰謝料
を病院側に損害賠償請求した。
就業規則との関係において
昇給させなかったことについて
病院の就業規則では、3ヶ月以上の育児休業を取得した労働者は、翌年度の昇給対象から外れると記載されていました。
しかし遅刻、私傷病以外の欠勤、休暇、休業などは、昇給の欠格要件には含まれていませんでした。
この差のある取り扱いについて判例では下記のように述べ、昇給させなかったことを違法と判断しました。(太字化は筆者による)
「本件不昇給規定は、1年のうち4分の1にすぎない3か月の育児休業により、他の9か月の就労状況いかんにかかわらず、職能給を昇給させないというものであり、休業期間を超える期間を職能給昇給の審査対象から除外し、休業期間中の不就労の限度を超えて育児休業者に不利益を課すものであるところ、育児休業を私傷病以外の他の欠勤、休暇、休業の取扱いよりも合理的理由なく不利益に取り扱うものである。育児休業についてのこのような取扱いは、人事評価制度の在り方に照らしても合理性を欠くものであるし、育児休業を取得する者に無視できない経済的不利益を与えるものであって、育児休業の取得を抑制する働きをするものであるから、育児介護休業法10条に禁止する不利益取扱いに当たり、かつ、同法が労働者に保障した育児休業取得の権利を抑制し、ひいては同法が労働者に保障した趣旨を実質的に失わせるものであるといわざるを得ず、公序に反し、無効というべきである」
昇格試験を受けさせなかったことについて
病院の規則に照らしても、原告は昇格試験の受験資格を得ていました。
したがって当該病院の行為は、違法と判断されました。
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