採用時の提出書類を明示します
第5条 (採用時の提出書類)
1 労働者として採用された者は、採用された日から__週間以内に次の書類を提出しなければならない。
① 住民票記載事項証明書
② 自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。)
③ 資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。
④ その他会社が指定するもの
2 前項の定めにより提出した書類の記載事項に変更を生じたときは、2週間以内に書面で会社に変更事項を届け出なければならない。
条文の目的・存在理由① 必要不可欠な書類や証明書を提出させるため
労務管理に必要な書類や業務遂行に必要な資格証明書類などがあります。これらを採用内定者に提出させる根拠となる条文です。
就業規則に定めがなくとも業務命令の範囲内において、これら書類を提出させることもできるとされています。
しかし無用のトラブルを避けるために、記載する方が良いでしょう。
条文の目的・存在理由② 必要不可欠ではない書類を提出させるため
会社都合で提出を求める誓約書や身元保証書などを、採用内定者に提出させるため根拠となります。
業務上必須ではない書類であるため就業規則に根拠が必要となります。
条文の目的・存在理由③ 労務管理に必要な情報に変更があった場合のため
労務管理に必要な情報が、変更となる場合があります。そのような場合に速やかに当該情報を取得する根拠となります。
リスク① 提出書類によっては労働者のプライバシー侵害につながる可能性
採用選考時の提出書類と同様に、採用後の提出書類も会社が自由に決めることができます。
しかし採用選考時と同様に、労働者のプライバシーへの配慮も必要です。
安易に住民票や戸籍謄本などを提出させることは、トラブルに繋がる可能性があります。下記行政通達参照
労働者名簿等の記載について(抄) (昭和五〇年二月一七日)
(基発第八三号・婦発第四〇号)
一 労働基準法関係
ハ 戸籍謄(抄)本及び住民票の写しは、画一的に提出又は提示を求めないようにし、それが必要となつた時点(例えば、冠婚葬祭等に際して慶弔金等が支給されるような場合で、その事実の確認を要するとき等)で、その具体的必要性に応じ、本人に対し、その使用目的を十分に説明の上提示を求め、確認後速やかに本人に返却するよう指導すること。
ニ 就業規則等において、一般的に、採用時、慶弔金等の支給時等に戸籍謄(抄)本、住民票の写し等の提出を求める旨を規定している事例があるが、上記イないしハまでの趣旨に則り、これらについても、可能な限り「住民票記載事項の証明書」により処理することとするよう、その変更について指導すること。
リスク② 記載事項変更時の届出期限について
上記モデル条文第2項においては届出期限を「速やかに」としています。しかし、「2週間以内に」といったように明確にすべきです。
「速やかに」の捉え方も労働者によって差があるため、労務管理が煩雑になるリスクがあります。
改善案
(採用時の提出書類)
第5条1 労働者として採用された者(採用内定者含む)は、採用された日から1週間以内に次の書類を提出しなければならない。
① 住民票記載事項証明書
② 自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。)
③ 資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。)
④ 誓約書
⑤ 身元保証書
⑥ その他会社が指定するもの2 前項の定めにより提出した書類の記載事項に変更を生じたときは、2週間以内に書面で会社に変更事項を届け出なければならない。
3 提出された書類は、人事労務管理以外の目的では使用せず、個人情報保護法に則って管理する。
上記リスク①に鑑みると、(選考方法を他の雇用形態と区別した上で)選考方法を具体的に明示することが望ましいでしょう。
更に選考手続きにおいても他の雇用形態と区別する方法も一考です。
1項について
・上記で述べた通り採用内定者にも一部就業規則が適用される必要があります。改善案のように「(採用内定者含む)」といったように挿入する方が良いでしょう。
・書類の提出期限は、「1週間以内」が望ましいでしょう。記載事項変更の届出期限「2週間以内」と異なるのは次のようなケースに備えるためです。
例)入社後に「誓約書にサインしない」「学歴詐称が見つかった」といったケース
そのような場合、14日以内であれば労働基準法第20条の解雇予告制度が適用されません。
その結果、会社は解雇予告手当を支払う必要がなくなります。(14日経過後であっても解雇予告除外認定制度を利用して即時解雇する方法もありますが手続きが煩雑です)。
・雇用契約書は労働条件の明示と共に行われる非常に重要な書類です。そのため入社前に必ず提出させなければいけません。
・新卒者と違い中途採用者は、入社までの期間に余裕がない場合があります。そのため、それぞれ提出期限を柔軟に設定する必要があります。
新卒者と中途採用者を別々の条文で規定するのもよいでしょう。
・誓約書は、労働者に就業規則を遵守させるために重要な書類です。
就業規則が、一労働者との労働契約の内容となり得るには、明示あるいは黙示の合意が必要です。
しかし、言った言わないのトラブルを避けるために、誓約書によって明示の合意を図ることが必要です。
・身元保証書は、会社に損害を与える行為を未然に防止する担保となります。提出させるのであれば明記した方が良いでしょう。
3項について
個人情報の取り扱いに関しても、目的外の使用をしないことと法令遵守を明記すべきです。
*採用時提出書類の「その他会社が指定するもの」の一つとして健康診断書があります。採用時の健康診断費用の負担者は法令で定められていないため、円滑な運営とトラブル防止の観点から就業規則で明記した方が良いでしょう。なお入社前であれば労働者負担とするケースが多いようです。
参考判例
シティズ事件 東京地判 平成11年12月16日
事件概要
金融貸付業を営む会社に採用された労働者A(原告)が、身元保証書の提出を拒否していた。会社の再三の提出要求にも関わらず、労働者Aは応じなかったため、会社は労働者Aを即時解雇した。労働者Aは予告なく解雇されたと主張し、解雇予告手当金と遅延損害金を請求した。判決では、身元保証書の未提出は、重大な服務規律違反または背信行為に当たるとした。その結果会社には解雇予告手当を支払う義務はないとした。なお一審(東京簡裁 平成11年6月21日)では解雇予告は必要であるとしての労働者Aの請求を認めていた。
就業規則との関係において
判決では、下記のように述べています。
・当該会社就業規則では、身元保証書提出を社員の採用条件として明記していた。
・金融貸付業という業務の性質を鑑みると、労働者に身元保証書を提出させる合理的理由が会社にはある。
重要書類未提出による解雇が問題なく認められるためには、会社は就業規則に必要な提出書類を出来る限り明記することが必要です。
もちろん、当該書類が、合理的かつ社会通念上必要と認められることが前提です。
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