給与を上げるにも説明が必要 ~アンダーマイニング効果~

給与アップ

皿洗いは母親のため、それともお小遣いのため

あなたが、ある会社の経営者だとして、あるトップセールスマンから「次のボーナスは昨年の2倍ください。そうしたら、他のセールスマンに、私の売り方を教えて、全体の売上をあげてみせます」と言われたらどうだろうか。

結果を伴うものであれば、それも可能かもしれない。

一方、「いい売り方があるなら、なぜみんなと共有してくれないのか。お金を出さないとやってくれないのか」と、違和感を抱く経営者もいるかもしれない。

私が所属する経営心理士というグループでの話でこんなエピソードがあった。

「子どもの頃、お母さんを手伝いたい、という想いから自発的に皿洗いをしてた。
ある時、お母さんに『皿洗いをしたらお小遣いをあげる』と言われ、お小遣いをもらうようになった。
それ以来、皿洗いの目的が、お母さんの役に立ちたいとうことから、お小遣いをもらうことにすり替わっていき、お小遣いをもらわなければ皿洗いはしたくないという気になっていった

というものだ。

当初は「お母さんを手伝いたい」という想いからやっていた皿洗いが、いつの間にか「ただ働きはしたくない」となってしまった。

これは心理学でいうところのアンダーマイニング効果というものである。

 アンダーマイニング効果とは、ある行動について、その見返りが報酬として与えられると、その行動の動機が報酬そのものに向かってしまうというものである。

その結果、その行動自体の意義や価値が薄れる現象のことを指す。

報酬を目的とした行動によって、本来自発的に行うべき行動が、報酬がないときには行われなくなる可能性があるため、長期的な観点からは好ましくない影響があるとされている。

わかりやすく、皿洗いの例でいうと、当初は「母親を助けたい」という想いから皿洗いという行動をしていた。

しかし、途中からお小遣いをもらうようになったことで、「お小遣いをもらうための行動」に変わっていった。

こうなってしまった後、例えば、母親から洗濯物をたたむというお手伝いを頼まれたとする。

以前であれば、それは「その行動は母親の助けになるのか」という判断基準で、行動するかどうか決めることができた。

しかしお小遣いをもらった後は、「洗濯物たたみでいくらもらえるのか」という判断基準になってしまうのである。

「お金に色をつける」 ことを説明して 「働きやすさ・自分の居場所」 といった安心感をアップ!

労働契約は、労働力の提供と賃金の支給の等価交換なので、従業員に払うお金が多いほうが、従業員にとって、良いことは明白である。

また業種的には、特定の手当、インセンティブが主流の業界もある。

しかし、その組織で働く理由が「働きやすさ・自分の居場所」より、「お金」のほうが大きくなってしまうと、お金だけの理由で転職していってしまう。

仮に、従業員の定着率の良い職場があったとする。

そういった職場の従業員の働く目的や、転職しない理由には、金銭的なものも当然あるが、「働きやすさがある」「自分の居場所がある」といった安心感が強いはずである。

そういった職場でも、昇給や賞与は必ず必要である。

しかし計画性や従業員への説明がないまま、インセンティブや手当などを、いたずらに増やしていくと、従業員の目的が、「働きやすさ・自分の居場所」から、「お金」へと変わっていくことがある。

「◎◎をした場合に、○万円を支給する」ということをやっていくことで、従業員にとって「働きやすさ・自分の居場所」にスポットが当たっていたものが、「この仕事で、○万円」というように、お金にスポットが当たってしまう可能性が高い。

つまり、損か得かで働く思考になってしまう。

最近は賃金の相場の上昇が激しい。

それに合わせて賃金アップをしていく必要がある。

また特定の業務についての手当や、インセンティブのような給与を支給しなくてはならないような業種も多い。

そういった場合は「◎◎をした場合に、○万円を支給する」という形であったとしても、我慢の対価としてではなく、「あなたの業務が、会社の価値を上げてくれた」「他のスタッフの助けになった」という貢献の対価としての説明があると、違った印象になる。

つまりお金にスポットを当てるのではなく、従業員の貢献や、会社の価値を高めてくれたことにスポットを当てるということである。

こういった説明を私は「お金に色を付ける」と呼んでいる。

「お金に色をつける」説明が従業員との関係性をつくり「働きやすさ・自分の居場所」といった安心感を培っていく。