訪問介護ヘルパーの移動時間は労働時間ですか?

回答

勤務開始後から勤務終了までの間の移動時間は、休憩時間を除いて労働時間に該当するでしょう。

移動時間が労働時間として扱われるためには、下記3点を満たす必要があります。

①事業場と利用者宅間、あるいは利用者宅間の移動時間であること
*職員宅から事業場への移動は通勤時間に当たります。

②その移動時間が通常の移動に要する時間程度であること
*故意に遠回りするなどしていないかどうかということです。

③事業主が業務命令として必要な移動を命じており、その移動時間の自由利用が保障されていないこと
*利用者宅間の異動であっても、休憩している時間は労働時間ではありません。

注意

複数の事業場間の移動が、業務の性質を有していない場合は通勤時間に該当します。
しかし、ヘルパーの利用者宅間の移動は、業務の性質と密接に関わっているため労働時間に当たります。

ヘルパーの移動時間は労働時間か?
「訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために」 厚生労働省労働基準局 都道府県労働局 労働基準監督署
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/041115-1a.pdf

解説

労働時間とは?

そもそも労働時間とは何を指すのでしょうか?労働基準法には定義されていませんが、判例によれば下記の通りです。

「労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」

三菱重工業長崎造船所事件判決 最一小判 2000年3月9日

ポイントは使用者の指揮命令下に置かれているかどうかということです。


厚生労働省通達〜訪問介護事業者の事業の特殊性に鑑みて〜

厚生労働省は、訪問介護事業者の事業の特殊性に鑑み、下記通達を公表しています。

*ここでいう特殊性とは、

「同事業に使用される労働者の多くが通常単独で利用者宅を訪問し介護に従事するため、使用者が労働者を直接に指揮しその勤務状況を把握する機会が限られるなどの勤務実態があること

を指します。

訪問介護労働者の法定労働条件の確保について 平成16年8月27日付基発第0827001号

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/041115-1a_0007.pdf


介護サービスの提供に従事した時間に対して支払う賃金と、移動時間に対して支払う賃金額に差を設けることは可能か?

厚生労働省の見解によれば、

「介護サービスの提供に従事した時間に対て支払う賃金と、移動時間に対して支払う賃金額は、最低賃金額を下回らない範囲で、労使の協議により異なった金額を決めることは差し支えありません。

「訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために」 厚生労働省労働基準局 都道府県労働局 労働基準監督署 4ページ
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/041115-1a_0001.pdf

としています。

また、実測結果に基づき1回あたりの移動に係る賃金を定額制とすることについても

「労働時間に基づき支払うべき賃金が定額を超える場合に超過分を支払うのであれば、労働者に不利益とはなりませんので、可能と考えられます。この場合、雇入通知書や就業規則でその旨を明示する必要があります。」

介護労働者の改善ポイント2014 15ページ
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000064728.pdf

としています。

例)1回の移動を15分かかるとみなして、移動1回あたり15分相当の賃金を支払う。15分を超える分については超過分の賃金を支払う。

定額制を導入しても、移動時間を含めた労働時間管理と、超過分の賃金支払は必須です。

参考

上記通達では、移動時間だけでなく、業務報告書の作成時間、待機時間や研修時間についても見解が示されています。
下記は抜粋です(太字化は筆者による)。

「労働時間及びその把握  

訪問介護事業においては、非定型的パートタイムヘルパー等が訪問介護の業務に直接従事する時間以外の時間を労働時間としていないものが認められるところであるが、訪問介護労働者の移動時間や業務報告書等の作成時間などについ て、以下のアからエにより労働時間に該当する場合には、適正にこれを把握する必要があること(法第32条)。 

ア 移動時間  

移動時間とは、事業場、集合場所、利用者宅の相互間を移動する時間をいい、この移動時間については、使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、 労働時間に該当するものであること。

具体的には、使用者の指揮監督の実態により判断するものであり、例えば、訪問介護の業務に従事するため、事業場から利用者宅への移動に要した時間や一の利用者宅から次の利用者宅への移動時間であって、その時間が通常の移動に要する時間程度である場合には労働時間に該当するものと考えられること。 


イ 業務報告書等の作成時間  

業務報告書等を作成する時間については、その作成が介護保険制度や業務規定等により業務上義務付けられているものであって、使用者の指揮監督に基づき、事業場や利用者宅等において作成している場合には、労働時間に該当するものであること。 

ウ 待機時間  

待機時間については、使用者が急な需要等に対応するため事業場等において待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものであること。

エ 研修時間  

研修時間については、使用者の明示的な指示に基づいて行われる場合は、労働時間であること。

また、研修を受講しないことに対する就業規則上の制裁等の不利益な取扱いがある場合や研修内容と業務との関連性が強く、それに参加しないことにより、本人の業務に具体的に支障が生ずるなど実質的に使用者から出席の強制があると認められる場合などは、たとえ使用者の明示的な指示がなくとも労働時間に該当するものであること。

訪問介護労働者の法定労働条件の確保について 平成16年8月27日付基発第0827001号
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/041115-1a_0007.pdf

第1章 総則 第2条 適用範囲

就業規則の適用対象労働者を明示しなければいけません

第2条 (適用範囲)

1 この規則は、_______株式会社の労働者に適用する。

2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。

3 前項については、別に定める規則に定のない事項は、この規則を適用する。

条文の目的・存在理由

当該就業規則が適用される労働者の範囲を明確化するという重要な目的があります。
明確化の方法として下記のような方法があります。

・当該就業規則が適用される労働者を正確に定義する
・適用除外する雇用形態(パートタイマーなど)を具体的に明示

また雇用形態によって異なる労働条件を定める場合は、その雇用形態に応じた就業規則を設けることが必要です。
更に雇用形態別の各就業規則が労働基準法等の基準を満たす必要があります。

リスク① 適用される労働者の定義を明示しないリスク

上記のような第2項・第3項を設ける一方で、

・適用される労働者の定義を明示しない。*正社員という呼称に法律上明確な定義はありません
あるいは
・パートタイマーや非正規雇用労働者などの雇用形態に応じた就業規則を別途作成していない。

という状況があったとします。

このような状況下では例えばパートタイマーから、『パートタイマー向けの就業規則がないので、正社員向けの就業規則が自身には適用される』といった主張がなされることがあり得ます。さらに場合によっては裁判上の争いまで発展する可能性があります。

リスク② 雇用形態別の就業規則が作成されていないリスク

ある規則を正社員のみに適用したいにも関わらず、それ以外の雇用形態向けの就業規則で左記規則が適用されないことを明示していない場合です。
例えば、パートタイム労働者には退職金の支給を想定していないにも関わらず、パートタイム労働者向けの就業規則に退職金の有無に関して記載がない場合が挙げられます。
この場合、退職金に関しては第3項の適用を受け、パートタイム労働者にも正社員と同様に退職金を支払わなければいけなくなります。

リスク③ 法律の基準を満たさない就業規則のリスク

正社員以外向け就業規則に設けられている条項が、法律の基準を満たさずに無効とされることもあります。
その場合、正社員向け就業規則の条項がパートタイマー等に適用されてしまう。参考判例参照

改善案

第2条 (適用範囲)

1 本規則は、第2章第1節で定めるところにより採用され、会社と正社員としての労働契約を結んだ者、もしくは別の雇用形態から正社員へ区分変更された者について適用する。

2 次の各号に該当に該当する者については、本規則は適用しない。

 ①準社員

 ②パートタイマー・アルバイト

このように正社員にのみ適用し、それ以外の労働形態については、適用しないことを明記することをお薦めします。適用する者、適用しない者を明確に区分した上で、パートタイマー就業規則や、嘱託社員就業規則を作成していきましょう。

参考判例

長澤運輸事件 東京地裁 平成28年5月13日

事件概要

定年退職後再雇用された嘱託職員と正社員との間に、①職務内容と②職務内容・配置変更の範囲に差がないにも関わらず、両者の賃金に差があるのは労働契約法第20条違反に当たるかどうかが争われた事件

就業規則との関係において

本判決において、労働契約法第20条違反が認められました。その結果、嘱託職員向けの就業規則と労働契約書の賃金に関する事項が無効となり、当該無効となった部分については正社員就業規則が適用されるとの判断が下されました。

大興設備開発事件 大阪高裁 平成9年10月30日

事件概要

当該企業では、適用対象を正社員に限定していない就業規則しか制定されていなかった。そのような状況下で、60歳を超えて採用された労働者が、就業規則の退職金に関する条項に基づき退職金を企業に請求した事件。

就業規則との関係において

高齢の労働者向け就業規則が存在しないことから、企業に唯一存在する就業規則の退職金に関する規定が、当該高齢従業員にも適用されるとの判決が下されました。上記リスク②で触れたように、適用を除外したい雇用形態が存在する場合は、当該雇用形態向けの就業規則を作成し、かつ高齢者の労働者には退職金を支給しない旨を明記することが必須となります。

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