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回答
就業規則における懲戒の項目で「減給の制裁」を設け、かつ労働基準法に規定されている限度を超えなければ、ペナルティを設けることはできます。
ノーワーク・ノーペイの原則(民法第623条、第624条1項)により、働いていない時間に対しては当然給与を支払う必要はありません。
遅刻時間分を控除できます。
注意しなければいけないのは、働いていない時間を超える額の賃金控除を行う場合です。
この場合は、「減給の制裁」に該当します。
就業規則における懲戒の項目で、「減給の制裁」が明記されていなければ、制裁処分を行えません。
さらに就業規則に明記されていたとしても、無制限に制裁を行えるわけではありません。
労働基準法第91条で、減給の制裁に一定の限度を設けています。
遅刻した時間内の賃金控除を行う | 遅刻した時間を超える賃金控除を行う | |
就業規則に減給の制裁が明記されている | ノーワーク・ノーペイ原則により法的問題なし | 法的問題なし *労働基準法第91条の制裁の限度を超えない限り |
就業規則に減給の制裁が明記されていない | ノーワーク・ノーペイ原則により法的問題なし | 違法 労基法第24条1項「賃金の全額払いの原則」に反する |
労働基準法 第91条 制裁規定の制限
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の一を超えてはならない。
1回の額の上限:平均賃金の1日分の半額
1賃金支払期(給与の締日間のこと)の総額の上限:賃金の総額の10分の1
解説
ノーワーク・ノーペイの原則について
根拠条文
「労働をしていない時間分については、賃金を支払わなくて良い」という意味ですが、法律に明記されているものではありません。
しかし、民法第623条・624条1項により、論理的に導ける原則として、共通の理解となっています。
民法第623条
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
民法第624条1項
労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
注意
以下の場合は、ノーワークノーペイの原則は適用されません。
法律に定めのある場合
年次有給休暇
事業主側に不就労の責任がある場合
会社都合による休業・自宅待機
一見働いていないようで労働時間とされる場合(使用者の指揮命令下にあるとされるため)
待機時間(手待ち時間)
*仮眠時間も使用者の指揮命令下にある仮眠であれば労働時間となります。
不就労時間分の賃金控除額計算方法
賃金控除額 =(基本給+諸手当) ➗ 1カ月の平均所定労働時間 ✖️ 不就労時間
1ヶ月の所定労働時間 = (365(日)− 1年間の所定休日数) ✖️ 1日の所定労働時間数 ➗ 12(ヶ月)
例
1日の所定労働時間:8時間 1年間の所定休日数:110日 基本給+諸手当:30万円 ある月の不就労時間:5時間
(365日−110日) ✖️ 8時間 ➗ 12(ヶ月)= 170時間 ・・・・・月平均所定労働時間
30万円 ➗ 170(時間) ✖️ 5(時間)= 約8823円 ・・・・ 不就労時間分の賃金控除額
懲戒について
判例によれば、会社は、社内秩序を維持する権限を当然に有しています。
その社内秩序を維持する権限の一部として、懲戒処分が位置付けられています。
「労働者は、労働契約を締結して雇用されることによつて、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、企業秩序を遵守すべき義務を負い、使用者は、広く企業秩序を維持し、もつて企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課することができるものである・・・」
関西電力事件 最一小判 昭和58年9月8日
ただし、その懲戒処分の権限を行使するには、
「あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要する」
フジ興産事件 最二小判 平成15年10月10日
とされています。
*種類とは、戒告や降格処分などの処分の種類を指します。事由とは、遅刻や情報漏洩など懲戒処分の対象となる行為を指します。
ただし、あらかじめ就業規則に懲戒の種類と事由を定めておけば、会社は自由に懲戒処分をできるというわけではありません。
労働契約法第15条では下記の通り会社の権利濫用を戒めています。
労働契約法第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
減給の制裁について
労働基準法第91条にある「総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とあります。
ある一つの賃金支払期間(例えば6月支給の給与の計算期間)に、複数回遅刻しペナルティを課すようなケースで、この上限を超える可能性があります。
この「10分の1」を超えてしまうような場合は、翌月以降まで繰り延べて減給を行う必要があります。
なお、降格という懲戒処分の結果として、給与が自動的に減少した場合は、減給の制裁には該当しません。
したがってこの場合は、給与の減少額がいくらであろうとも労働基準法第91条に抵触しません。