第6章 賃金 第37条 役付手当

役付手当の主な目的は、①職責に対する対価②支給対象外となる時間外手当の補填です

第37条  (役付手当)
1 役付手当は、以下の職位にある者に対し支給する。 
  部長 月額___ 円 
  課長 月額___ 円 
  係長 月額 ___円 

2 昇格によるときは、発令日の属する賃金月から支給する。この場合、当該賃金月においてそれまで属していた役付手当は支給しない。 

3 降格によるときは、発令日の属する賃金月の次の賃金月から支給する。

条文の目的・存在理由

役付手当は、法律上設けなければいけないものではありません。
しかし、役付手当も賃金であることから、設けるのであれば、絶対的必要記載事項として就業規則に記載する必要があります(金額まで記載することまでは求められていません)。
多くの会社が、役付手当を設ける目的は下記の通りです。

役付手当を設ける目的

①昇格することで増す職責に対する対価
②支給対象外となる時間外手当の補填 (割増賃金が支給される労働者との報酬の逆転を回避するために活用されている面もあります)

モデル条文からは、役付手当を設ける目的は判別できませんが、②を理由に設けるのであれば、リスクの項目で述べる通り注意が必要です。
以下リスクの項目では、支給対象外となる時間外手当の補填として役付手当を設けるという前提で解説していきます。

リスク 割増賃金との関係について

「無条件で、役付手当は、割増賃金の代わりになる」と誤解されることが多々あります。
しかし上記モデル条文では、上記役職のうち、割増賃金の支払い対象とならない管理監督職以外の労働者には、更に割増賃金を支払う必要があります。

もし仮に固定残業代という目的で手当を支払うのであればその旨を記載する必要があります。
更に「何時間分の固定残業代なのか」についても記載する必要があり、定められた時間を超えて時間外労働を行なった場合は別途割増賃金を支払う必要があります。

なお時間外労働が定められた時間に満たなくても、固定残業代を減額することはできません。

リスク 深夜割増賃金との関係について

深夜割増賃金は、管理監督職を含めた全労働者に対して支払いが必要です。
したがって上記役付手当を深夜割増賃金の代わりという目的で設けるのであればその旨の記載が必要です。

深夜ではない通常の割増賃金と同様に、「何時間分の深夜残業代なのか」についても記載する必要があります。
また定められた時間を超えて深夜時間外労働を行なった場合は別途深夜割増賃金を支払う必要があります。

改善案

第35条  (役付手当)
1 役付手当は、以下の職位にある者に対し支給する。 
  部長 月額___ 円 
  課長 月額___ 円 
  係長 月額 ___円 

2 昇格によるときは、発令日の属する賃金月から支給する。この場合、当該賃金月においてそれまで属していた役付手当は支給しない。 

3 降格によるときは、発令日の属する賃金月の次の賃金月から支給する。

4 第1項の役職手当には、〇〇時間分の時間外手当、◯◯時間分の深夜手当を含む。ただし時間外勤務あるいは深夜勤務が、左記の通り定められた時間を超過した場合、その超過した時間分の時間外割増賃金・深夜割増賃金を支払う。

上記改善案は、時間外割増賃金をめぐる問題を回避するため、「社内では管理職として扱われているけれども、労働基準法上は管理職とは言えない」管理職を想定して記載しています。

労働基準法第41条2号にいう管理監督者とは、経営者と一体的な立場にあり、自分自身が労働時間についての裁量権を持っているような者を指します。ある労働者が会社内では管理職として扱われていても、裁判では労働基準法第41条2号にいう管理監督者には該当しないということは多々あります。

したがって、経営者と一体的な立場にはないけれども現場のリーダーである労働者は、社内では「管理職」として扱われていたとしても、裁判では労働基準法上の管理職とは認められないない可能性が高いと認識しておいた方が良いでしょう。

参考判例

ユニコン・エンジニアリング事件 東京地判 平成16年6月25日

事件概要

労働者A(原告)は、副部長の肩書で特定業務の専任者として、一人で業務を遂行していた。
業務中、上司による労務管理は行われず、労働者A自らの判断で残業や休日出勤を行っていた。
そして労働者Aには役職手当が支給されていた。
その後労働者Aは解雇された際に、所定時間外労働、深夜労働、休日労働を行った分の割増賃金未払い分375万円の支払いを求め訴えた。

就業規則との関係において

会社の給与規程では、課長以上の役職手当の支給を受けている労働者には、所定外労働割増賃金は支給されない旨が明示されていました。
また労働者A自身も支給されない旨は認識していました。
しかしながら、判決では下記の点が考慮され、原告の主張が一部認められました。

・労働者Aの職務は高度な経営判断を要せず、日々の定型作業が中心であり、労働基準法第41条2号にいう管理監督者には当たらない。
・役職手当は、管理・監督者の待遇としては十分ではなく、職責に対する対価ではなく、残業手当として支払われていた。

一方で、下記の判断により原告が支払いを求めていた未払賃金375万円から支給済の役職手当分が除外されることとなりました。

・役職手当は、時間外労働の対価であり、割増賃金の計算の基礎に含まない。
・支給済の役職手当は時間外労働割増賃金の一部であり、その全額は割増賃金の請求金額から除外される。

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