裁判員制度への参加は公民権行使に該当するため就業規則への記載は必須です
第32条 (裁判員等のための休暇)
労働者が裁判員若しくは補充裁判員となった場合又は裁判員候補者となった場合には、次のとおり休暇を与える。
① 裁判員又は補充裁判員となった場合 必要な日数
② 裁判員候補者となった場合 必要な時間
条文の目的・存在理由
裁判員制度に参加する労働者が、会社業務を遂行できない期間に対して、休暇付与という形式で対応するための条文です。
裁判員制度への参加は公民権行使に該当するため就業規則への記載は必須です。
また「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」第100条によれば、
「労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したことその他裁判員、補充裁判員、選任予定裁判員若しくは裁判員候補者であること又はこれらの者であったことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」
としています。
当然労働者が裁判員となることを拒否することもできません。
裁判員制度選出の仕組みは下記の通りです。
裁判員制度選出の仕組み
①各地の裁判所が、年1回、地元の衆議院議員選挙の有権者の中から、クジで選んで「裁判員候補者名簿」作成します。
その年の11月ごろ選ばれた候補者に対し、裁判所から名簿に登録された旨の連絡があります。
翌年の1年間は裁判員に選ばれる可能性があります。
②裁判所は候補者名簿の中から裁判員候補を選任し、裁判員候補に裁判所への出頭を要請。
③裁判員候補者の中から裁判員・補充裁判員を選出なお裁判員になった労働者には1日あたり1万円以内の、裁判所に出頭したが裁判員に選任されなかった労働者には1日あたり8000円以内の日当が支払われます(午前中で終了した場合には減額されることがあります)。
宿泊が必要な場合は、地域によって、8000円前後の宿泊費が支払われます。
なお法務省は下記の通り、「従業員の方が裁判員等に選ばれた場合のQ&A」を公表しています。
リスク① 裁判員候補者になった時点での手続きの有無について
上記の裁判員制度選出の流れからわかる通り、裁判員候補者になった時点で裁判員休暇の取得の可能性があることを労働者は把握できます。
そのため会社が急な対応を迫られることを防ぐために、候補者になった時点で会社に報告するように義務付けることが有用です。
ただし、裁判員法101条1項前段によれば、
「裁判員、補充裁判員、選任予定裁判員又は裁判員候補者若しくはその予定者の氏名、住所その他の個人を特定するに足りる情報を公にしてはならない。」
としています。
したがって会社への報告を義務付けることは問題ないものの、その情報を会社内で広く共有することは法令違反となります。
リスク② 裁判員休暇中の給与について
これまでの特別休暇と同様に、休暇中の給与についての法律の規定はありません。
したがって会社独自に、有給か無給かを制度設計できます。
制度設計の際には、上記のように日当が支払われることも考慮しても良いでしょう。
通常の有給休暇取得時の給与から日当を差し引いた額を支給するというのも一考です。
法務省ウェブサイト「従業員の方が裁判員等に選ばれた場合のQ&A」において、裁判員休暇中の給与について下記の通り解説しています。
Q2 有給休暇を取って裁判に参加して日当と給与の両方を受け取ると,報酬の二重取りになり,問題ではありませんか。
A 報酬の二重取りにはなりませんので,問題ありません。
裁判員の方には1日1万円以内,裁判員候補者の方には1日8000円以内の日当をお支払いすることになっています(旅費は,日当とは別にお支払いします。また,遠方等で宿泊が必要な方については,宿泊料についてもお支払いします)。この日当は,裁判員としての職務等を遂行することによる損失(例えば,保育料,その他裁判所に行くために要した諸雑費等)を一定の限度内で弁償・補償するものです。したがって,日当は,裁判員等としての勤務の対価(報酬)ではありませんので,日当と給与の両方を受け取ることは二重取りにはならず,問題ありません(Q3は,日当を使用者に納付するなどの就業規則を定めた場合に,裁判員法等に違反しないかという観点から解釈を示したものであり,日当を使用者に納付することなどを勧める趣旨ではありません。)。Q3 就業規則において,裁判員用の特別の有給休暇を取得した場合に
法務省ウェブサイト「従業員の方が裁判員等に選ばれた場合のQ&A」 http://www.moj.go.jp/keiji1/saibanin_qa_others.html
(1) 裁判員として受領した日当は使用者に納付する
(2) 日当を受領した時はその金額について給与から減額する
などと定めることは問題ないでしょうか。
A 個別の事情によります。
例えば,(1)のように,裁判員として受領した日当は使用者に納付するという規定を置いた場合,その規定により実質的に労働者が不利益を被るような場合は,裁判員法第100条が禁止している不利益取扱いに該当する可能性があります(例えば,受領した日当が1万円であり,特別の有給休暇に支払われる給与額が6000円である場合には,日当を納付することで4000円の不利益を被ることになります。)。
また,(2)のように,特別の有給休暇としているにもかかわらず,給与額から裁判員の日当を差し引くことは一般的に認められません。
なお,例えば,「裁判員用の特別の有給休暇を取得した場合には,1日分に相当する給与額(例えば1万5000円)と日当相当額(例えば1万円)との差額(例えば5000円)を支給する。」というように,給与額と日当相当額との差額を支給するような特別の有給休暇制度にすることは問題ないと考えられます。
改善案
第30条 (裁判員等のための休暇)
1 労働者が裁判員若しくは補充裁判員となった場合又は裁判員候補者となった場合には、速やかに会社にその旨を報告する。そして、次のとおり休暇を与える。
① 裁判員又は補充裁判員となった場合 必要な日数
② 裁判員候補者となった場合 必要な時間
2 会社は、労働者から前1項に関する報告を受けた際に、裁判員法第101条1項を遵守し、裁判員候補者、裁判員、補充裁判員となった者の氏名、住所、その他の個人を特定するに足りる情報を公にはしない。
3 裁判員などのための休暇期間中は、通常の有給休暇取得時の給与額から裁判所から支払われる日当を差し引いた額を支給する。
参考判例
この条文に関する参考判例はありません。
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