休職制度の運用で困っていませんか?

休職

休職とは、

労働者が労務提供不能あるいは不適当な状況にある場合に、会社が当該労働者に対し、労働契約は維持しつつ労務の提供を免除あるいは拒否すること

です。
よく誤解されますが、休職は労働者の権利ではなく、事業主の休職命令という権限です。

注意

業務災害により労働者が働けなくなることは、法律で解雇等が厳しく制限されている業務災害による休業です。
したがって業務災害であれば、労働基準法や労働者災害補償保険法等で定めている通りに、労災給付等が行われます。
今回扱うのは、業務災害を原因としない休職です。

休職制度には、傷病休職・事故欠勤休職・起訴休職・自己都合休職などがありますが、法律上必ず設けなければいけない制度ではありません
*ただし定めがある場合は就業規則に記載しなければいけない相対的必要記載事項です。

後述するように実務上は、経営上の利点があるからこそ、多くの企業が休職制度を導入しています。
一方で、休職制度の設計・運用を誤れば、労使間でのトラブルにつながりやすいというのも事実です。

特に近年は、うつ病などの精神疾患を理由に休職制度を利用する労働者も増加しています。
そのため制定当時の休職制度のままでは不都合が生じることも少なくありません。

今回の記事では、私傷病による休職を念頭において、以下の項目を扱います。

  1. 休職制度を設ける意義
  2. 休職制度と解雇の関係
  3. 休職制度の制度設計における注意点
  4. 休職をめぐる判例

Contents

休職制度を設ける意義

多くの会社は、休職制度を解雇猶予措置と位置付けて規定しています。
前述の通り、休職制度の制定は義務ではありませんが、下記のような理由や経営上のメリットがあるため、制定をおすすめします。

 ①解雇も簡単ではない。*詳しくは後述の「休職制度と解雇の関係について」をご覧ください。
 ②会社側は重要な戦力となる労働者を確保できる。
 ③事故や病気等があっても労働者が安心して働ける。
 ④休職期間満了により自動的に退職となるためトラブルになりにくい。

欠勤と休職の違い

欠勤も休職も業務を行わないという点で共通しています。
欠勤は、シンプルに労務提供の不履行で、年次有給休暇とも違い給与が支払われません。
一方で、休職は制度として確立されており、事業主の命令により就労が免除されるものです。

休職制度と解雇の関係について

労働契約は、労働者は働くことを、事業主は労働に対して賃金を支払うことを約束するものです。
したがって労働契約の本質だけを見れば、「労働者が働けない=労働者側の債務不履行」であり、解雇するか否かを検討しても良さそうです。

しかし、日本では判例の積み重ねにより、解雇が難しいのが現実です。
解雇するには原則①合理的な理由があること②解雇予告手続きが必要です。
復帰や配転の可能性を考慮しない解雇は、合理的な理由があるとは言えず解雇権濫用と判断される可能性が高いのです。

上記の理由から、休職制度は解雇猶予措置という位置付けで運用されています。
そして、休職制度は、事業主による休職命令という権限を定めたものであって、労働者の権利ではありません。

なお休職期間満了後の取り扱いは、解雇ではなく、自動退職(定年退職も自動退職の一つ)としたほうが良いでしょう。
休職期間満了後に復職できない場合は、自動退職となる旨を労働者に伝える必要があります。
休職に入る前はもちろん、休職中や休職期間満了30日前などに繰り返し伝えておくことは、トラブル防止の観点からも有効です。

休職に関する規定を作成する上での注意点

休職期間に関して

休職期間については、事業主が自由に設定できますが、労働者の勤続年数に応じて差を設けても良いでしょう。
入社間もない労働者と会社への貢献度が高い労働者が、同じ休職期間となれば、休職理由によっては、労働者の不公平感が高まるかもしれません。
また、会社の負担が増す可能性もあります。

待遇に関して

休職期間中の待遇については、下記の点は必ず定めるべきです。

  • 休職期間中の賃金の有無
  • 休職期間を勤続年数に参入するかどうかについて

なお業務外の私傷病が原因で休職する場合には、健康保険の傷病手当金が支払われます。

健康保険の傷病手当金について

下記の条件を満たした場合に、傷病手当金が健康保険から支払われます。
*療養のために休職した日から連続3日間(待機期間)を除いて、4日目から支給対象になります。

  • 療養しているために労務不能であること
  • 賃金の支払いがないこと(賃金が一部支給されている場合は、傷病手当金から給与支給分が差し引かれます。)

休職中の診断書提出や連絡のルール

私傷病が原因で休職する場合には、医師による診断書の提出を義務付けることは必要です。
診断書には、休養が必要な期間が記載されています。
労働者が無断で、診断書に書かれている期間を越えて休むことは、社内規律を維持するためにも避けるべきです。
したがって、診断書記載の期間を越えて休職する場合にはあらためて医師による診断書を求めるルールが必要です。
また、少なくとも1ヶ月に1度は労働者の休職状況把握のためにも、会社と連絡を取るようにしたほうが良いでしょう。

職場復帰の可否判断の基準と手続きについて

よく誤解されることがありますが、職場復帰の可否を判断するのは医師ではなく、事業主です。
労働者の主治医による許可は職場復帰の最低条件であって、復帰してしっかり働けるかどうかを判断するのは事業主です。

また、労働者の主治医の診断書だけでは職場復帰の可否の判断ができないこともあります。
そういった事態に備えて、就業規則において、「場合によっては、産業医または会社が指定する医師などの診断を受けなければならない」旨を明示しておいたほうが良いでしょう。
なお、この場合は会社の指示で受診するわけなので、受診料は会社負担とするのが妥当です。

職場に復帰した後の業務軽減について

休職している労働者と交わした労働契約に基づいて、職場復帰させるのが原則です。
つまり休職前の業務に戻すのが本来のあり方です。

しかし、休職復帰後いきなり元のように働くことは難しいのが実情であり、それによって心身の不調等が再発しては事業主としても困ります。
そのため、多くの企業では、何らかの就業制限を設けていることがあります(残業禁止や時短勤務など)。
*一方で、あまりに長い就業制限は他の労働者の不満を招く可能性もあります。

上記の事実を鑑みれば、元のように働ける程度に回復して初めて復職できるというのが原則で、場合によっては会社の判断で業務軽減を命ずることがあると規定しておくのが良いでしょう。

*この「元のように働ける程度に回復」についての考え方について、判例の傾向が変わってきています。
かつては、休職前の業務ができるか否かが回復の基準でした。
しかし近年では、業務軽減や配置転換も含めた復帰可能性まで探ることまで求められてきています。
くわしくは下記参考判例をご覧ください。

休職と復帰を繰り返す労働者への対応方法

精神疾患等により休職と復帰が繰り返されるケースがあります。
その場合の取り扱いについて、休職期間は中断するのか、それともリセットされるのかを、労使で認識を共有するためにも明記した方が良いでしょう。

同一の理由による休職を短期間で繰り返すといったことが、就業規則上できてしまうのは問題です。
下記のように、短期間の同一理由による休職を繰り返せないように規定したほうが良いでしょう。

「私傷病が原因で休職を命じられた者が、休職期間満了前に復職し、復職後〇ヶ月を待たずに、再び当該休職事由と同一ないし類似の事由により欠勤した場合は、休職を命じる。
この場合、休職期間は中断せず、前後の期間を通算する。」

休職期間中の賃金や勤続年数等の取り扱いについて

休職は、労働契約における債務不履行に該当します(ノーワークノーペイの原則)。
したがって休職期間中は無給としても法律上問題ありません。
しかし休職期間中でも、労働者は健康保険等の被保険者であることから社会保険料を納付されなければいけません。
その取り扱いについて明記しておいた方が、トラブルの未然防止だけでなく円滑な実務にも役立ちます。

休職期間を勤続年数に含めるか否かについては、休職理由によって判断することが多いようです。
他社への出向による休職であれば、勤続年数に含め、それ以外の私傷病等は勤続年数に含めないといったのが一例です。

参考判例

東海旅客鉄道事件 東京地判 平成11年10月4日

事件概要

脳内出血に伴い3年間病気休職となっていた労働者A(原告)は、休職期間満了直前に復職の意思を示した。
しかし会社(被告)は、後遺障害により従前の業務に通常通り従事できないと判断し、休職期間満了をもって退職扱いとした。
労働者Aは、この退職扱いを就業規則、労働協約等に違反し無効であるとして、従業員としての地位確認および未払い賃金等の支払を求めて提訴した事件。
復職を不可とした会社の判断に誤りがあるとし、原告勝訴となった。

就業規則との関係において

復職の可否を判断する基準として判例は下記のように述べています。(太字は筆者による)

労働者が私傷病により休職となった以後に復職の意思を表示した場合、使用者はその復職の可否を判断することになるが、労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合においては、休職前の業務について労務の提供が十分にはできないとしても、その能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には、当該労働者に右配置可能な業務を指示すべきである。そして、当該労働者が復職後の職務を限定せずに復職の意思を示している場合には、使用者から指示される右配置可能な業務について労務の提供を申し出ているものというべきである。

復職の要件とされる治癒の概念をめぐって、平仙レース事件(浦和地判昭40.12.16)やアロマ・カラー事件(東京地決昭54.3.27)では、休職前の業務を遂行できるか否かを治癒の基準としていました。しかし東海旅客鉄道事件含め最近の判例では、短期の復帰準備期間の提供や、軽減された業務の提供を会社側に求められる傾向があります。これは、信義則を理由に、労働者側への十分な配慮が求められるということです。

関連就業規則解説

第2章 人事 第9条 休職

第7章 定年、退職及び解雇 第50条 退職

第7章 定年、退職及び解雇 第51条 解雇

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