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回答
歩合給が導入されている労働者に対しても、最低賃金法以上の賃金を支払わなければいけません。
仮に新規契約件数を歩合給の対象とした場合に、新規契約件数0の労働者に給与を一切支払わないことは認められません。
つまり雇用している労働者に対し、成果がない場合はいくら働いても一切給与を支払わないという完全歩合制を導入することは違法です。
歩合給導入により、会社の業績に好影響を与える可能性はあります。
しかし、歩合給導入により、歩合給の対象とならない業務を軽視するという思わぬ弊害も起き得るため注意が必要です。
法令遵守は当然のこととして、歩合給導入のメリットとデメリットを認識する必要があるでしょう。
解説
労働基準法第27条「賃金保障」〜歩合給でも賃金保障は必要です〜
労働基準法第27条(出来高払制の保障給)
出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
ここでいう「一定額の賃金の保障」について下記のように、通達がされています。
労働基準法第27条関係(保障給の趣旨)
19880314 基発第150号 労働基準法関係解釈例規について
本条は労働者の責にもとづかない事由によつて、実収賃金が低下することを防ぐ主旨であるから、労働者に対し、常に通常の実収賃金を余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定めるように指導すること。
歩合給を導入するにしても、一定程度の賃金保障が必要になります。
賃金保障額が最低賃金法を上回る水準であることは最低限必要ですが、それだけでは労働者の生活が成り立たなくなるケースがほとんどでしょう。
したがって、明確な基準はありませんが、歩合給導入前の固定給の6割以上はそのまま固定給として支払う必要があると考えます。
最低賃金法
最低賃金法は各都道府県で定められており、重要なのは最低賃金を上回っているかどうかの計算方法です。
月給額 × 12か月 ÷ 年間総所定労働時間 ≧ 最低賃金額
となっていれば問題ありません。
月給額に含めない手当
最低賃金法第4条3項と同法施行規則第1条に規定されている最低賃金の対象とならない賃金は下記の通りです。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当等)
- 1カ月を超える期間ごとに支払われる手当(賞与等)
- 所定時間外労働、所定休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金
- 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当)
上記賃金を除いた額が最低賃金額に満たなければ違法となりますので、正確に理解することが必要です。
最低賃金の計算例
割増賃金と歩合給の関係
歩合給分に対しても、割増賃金は必要です。
歩合給を稼ぐのに、法定内時間労働と時間外労働の両方が必要だったという考えです。
歩合給分に対する割増賃金の計算例
歩合給に対する割増賃金額 = 歩合給の額 ➗ 月間総労働時間数 ✖️ 残業時間数 ✖️ 0.25
歩合給を払っているものの、歩合給の内訳(法定内労働時間分と時間外労働時間分)がはっきりしないケースについては、判例では次のように述べています。
歩合給の額が、上告人らが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、上告人らに対して法三七条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり・・・
高知県観光事件 最判二 平成6年6月13日
この判決では、事業主側は、歩合給で雇用されているタクシー運転手に対する時間外および深夜労働の割増賃金の支払いが命ぜられました。
歩合給を支払う場合には、就業規則等によって、歩合給の内訳について明確に規定する必要があります。
歩合給導入が会社経営に与える影響
歩合給導入により企業業績が上向く可能性は十分あります。
賃金アップを望む労働者らの頑張りによって、サービス面や業績面でのさらなる向上が見られるかもしれません。
一方で、筆者の経験からも下記のような弊害が起きるかもしれません。
歩合給導入によって起きうる弊害 *必ず起きるというわけではありません。
- 複数労働者の貢献により歩合給対象業務が遂行される場合には、それぞれの労働者の貢献がしっかり評価されなければ、労働者間の不和が起きる。
(例 新規契約数を歩合給の対象とした場合、初期面談と契約締結時面談の担当者が異なるケースをどのように扱うか) - 歩合給の対象とならないけれども、会社経営上重要な仕事が軽視される。
(例 個人情報の漏洩防止対策業務など縁の下の力持ち的な業務が軽視されては、企業の信頼が失墜しかねません) - 歩合給対象とならない業務を担う労働者のモチベーション低下が起きる。
歩合給制度を導入する場合には、法律的な問題をクリアするだけでなく、労働者らの歩合給制度に対する考え方等も聴取する必要があるでしょう。
参考:完全歩合制を導入したい場合〜業務委託契約という方法〜
前述の通り、雇用している労働者に対し、完全歩合制を導入することは違法であり認められません。
完全歩合制にするのであれば、雇用契約ではなく、業務委託契約による必要があります。
ただし、業務委託契約を結んだ労働者に、業務について細かく指示を行うえば、偽装委託と判断され、法令違反となります。
契約の種類という形式面では判断されず、実質的に労働者に該当するかどうかが問われます。
業務委託契約と雇用契約の違いは下記の通りです。
業務委託契約
委託された側が特定の仕事を処理し、処理された仕事と引換えに、委託した側が報酬を支払うことを約束する契約
委託する側とされた側は対等な立場であり、労働者保護を目的とする法律が委託された側には適用されない。
雇用契約
労働者の労働と引換えに、事業主が報酬を与えることを約束する契約。労働基準法などの労働者保護を目的とする法律が適用される。
さらに業務委託契約には3種類あります。
①請負契約:業務による完成品を受け取ることを目的。
②委任契約:法律行為の業務遂行を目的とし、成果の有無は報酬発生と無関係。
③準委任契約:法律行為以外の業務遂行を目的とし、成果の有無は報酬発生と無関係。
上記いずれも発注者側に指揮命令権がないのが重要なポイントです。