健全な会社経営には欠かせない就業規則ですが、会社設立時に作成したものが何年もそのままになっているようであれば見直しが必要かもしれません。会社ひいては社会は常に変化しており、就業規則もまた時代の変化に合わせて柔軟に変えていくことが求められているからです。
そこで今回は、就業規則の見直しのタイミングやポイントについてご紹介していきます。
Contents
就業規則を見直すべき5つのタイミングとは?
この章では就業規則を見直すべきタイミングを解説します。当てはまる項目がある場合は、ぜひ就業規則の変更を検討しましょう。
1.法律が改定された
法改定があったときは就業規則の見直しが必要です。特に雇用関連の法律や育児・介護関連の法律が変わったときは、就業規則にダイレクトに関係してくるので専門家に相談しながら慎重に見直しを行うべきです。他にも細かい話になりますが、法定割増賃金率の変化にも注意しなければなりません。例えば、これまで月60時間超の残業割増賃金率は、大企業では50%、中小企業では25%と割増賃金率が異なっていましたが、2023年4月より大企業・中小企業ともに50%になるので、これに合わせて就業規則も改定する必要があります。
2.就業規則と職場の実態に乖離がある
就業規則と職場の実態に乖離がみられ、就業規則が形骸化している場合も見直しが必要です。そもそもの就業規則に無理がないか、または就業規則の解釈が曖昧なものになっていないかなど、あらためて精査する必要があります。例えば、これまで慣例としてボーナスがずっと支払われていたけれど、ボーナスについては就業規則に書かれていなかったというケースがあります。そしてこのような場合、ある従業員が年俸制に変わって再契約した際にボーナスがもらえなくなったとのことで、トラブルに発展した事例もあります。就業規則は職場の実態と細部まで連動するように設定しておくことが大事です。
3.経営状況が著しく悪化した
会社の経営状況が著しく悪化した場合にも、就業規則の見直しが必要です。経営状況の悪化により、継続的な解雇やこれまで通りに賃金を支払うことが難しくなってくるかもしれません。労使トラブルを防ぐためにも、早急に見直しをしましょう。
4.新しい雇用形態を取り入れた
これまで正社員だけでやってきたところに、新たにパートやアルバイトを加える際にも就業規則の見直しが必要です。アルバイトやパートの方に向けた新たな就業規則を作成しなければ、正社員に向けられた就業規則がアルバイトやパートの方にも適用されてしまうからです。実際に、パートやアルバイトに向けた就業規則を作成することを怠って、正社員に適用される退職金の支払いを主張されてトラブルになり、会社側がパートの方に退職金を支払ったという判例もあります。
5.就業規則を周知し直す
就業規則には周知義務があります。労働基準法第106条において、「使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない」としていますが、実際に従業員に向けてきちんと周知している会社はごく一部です。もし、周知を怠っている場合は、あらためて周知し直すタイミングで一緒に就業規則の中身について見直してみると良いでしょう。
就業規則における見直しの4つの必要性とは?
この章では就業規則を見直すべき4つの理由について解説します。
1.労使トラブルを予防できる
労使トラブルの中でも深刻なのは、問題のある従業員の扱いについてです。例えば慢性的な遅刻や欠勤、不就労などがあった場合、就業規則がないと会社としては従業員に対して強い態度が取れませんが、就業規則があることによって懲戒処分を言い渡すことができます。
2.助成金や奨励金の申請ができない
国や地方自治体は中小企業に対して様々な助成金制度を設けていますが、申請書類の一つとして就業規則の添付を課していることもあり、就業規則がないとそもそもの申請ができないという場合もあります。
3.経営実態に釣り合わない恩恵を従業員に与えなくてはならない
厚生労働省が出している就業規則のひな形をそのまま使っている会社もありますが、会社の規模や経営実態に不釣り合いなこともあります。就業規則があることによって従業員に対して必要以上の恩恵を与えなくてはいけなくなってしまうケースもあるので、注意が必要です。
4.賞与トラブルの防止
賞与をめぐるトラブルも、よくあるトラブルの一つです。本来、賞与は賞与支給日に在籍していないともらえないのが一般常識ですが、賞与の査定期間に在籍していたからもらえるべきだとする主張されることもあります。このような事態を防ぐため、例えば、「支給日にいないと支給しない」「支給日に辞めると言っていた場合は減額する」などを就業規則に書いておくべきです。
就業規則における主な見直し箇所とは?
この章では就業規則の主な見直し箇所を解説します。どこから手をつけるべきか分からない方はぜひ参考になさってください。
・正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差
正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で、給与や賞与なども含むあらゆる待遇において不合理な待遇差があることは禁止されています。
・子の看護休暇や介護休暇の規定
子育てや介護に対して理解があり、就業規則として看護休暇や介護休暇の権利が保証されていることが近年の会社には求められています。
・労働時間に関する規定
残業や深夜労働、またそれらに付随する手当についても就業規則で明確に決めておく必要があります。
・退職金に関する規定
退職金の支払いについて記載してある場合、退職金の原資はどこなのかを明記する必要があります。また、雇用形態によって支払いの有無が分かれる場合も、その旨を記載する必要があります。
・手当の支給の要件(扶養手当、子供手当など)
扶養手当や子供手当など会社ごとに設けている手当に関しても、就業規則にて細かく規定しておく必要があります。金額や支給基準などを明確にし、社員に対して平等で開かれた制度にしておくことが大事です。
・配偶者手当
かつては配偶者手当を設けている会社もありましたが、夫婦のあり方や家族のあり方が多様化している現代においては、配偶者手当の存在意義が問われるようになってきています。
・入社の一時金、祝い金
入社時の一時金や各種祝い金など、イレギュラーに支払われる金銭をどのように処理するかを就業規則にて定めておくことは大事です。給与扱いとなる場合とならない場合では、税金や保険料の計算が変わってくるので、きちんとした処理が必要です。
・リファラル手当
社員からの紹介で新たに人を採用した際に、謝礼として紹介してくれた社員にインセンティブが支払われることがありますが、その際に注意すべき点があります。会社が安易にインセンティブとして金銭を支払ってしまうと、社員が「業」として人材紹介をしていると見なされる可能性があるため、それは違法行為になってしまいます。もし、何らかの謝礼を支払うのであれば、それは給与や賃金として支払うことが一般的です。
就業規則の見直し・変更の4つの手順
この章では就業規則の変更手順について解説します。
1.労働者代表の意見を聴きながら、改定案を作成する
就業規則の見直しは会社側が一方的に行うのではなく、プロセスを共有し、従業員側(労働者代表)の意見を尊重しながら行うことが重要です。
2.就業規則・就業規則変更届・意見書を作成する
見直しを行って改定された就業規則を、作成時のフォーマットで清書します。また、就業規則変更届・意見書は厚生労働省の主要様式ダウンロードを利用するのがおすすめです。
3.所轄労働基準監督署へ就業規則・就業規則変更届・意見書を提出する
改定後、所轄の労働基準監督署へ就業規則・就業規則変更届・意見書を提出します。改定から1ヶ月以内に提出することが望ましいです。
4.労働者へ周知する
就業規則には周知義務がありますが、改定時も同様です。労働基準法第106条において、「使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない」とされているので、改定時にもあらためて周知を徹底しましょう。
就業規則を見直す前に確認すべきこととは?
就業規則は雇用主と従業員の関係を定義する上で基準となるものであり、そこには会社としての考え方やスタンスが反映されています。よって、就業規則を見直す前に、今一度会社として目指すコンプライアンスのイメージを共有することが大事です。
会社によっては就業規則の整備が不十分でも問題なく経営が行われているところもありますが、企業コンプライアンスが重視される近年の風潮においては、就業規則を整えておくことで採用活動をしやすくなったり、離職率を下げたりすることができます。就業規則は雇用主と従業員の双方を守り、健全な会社経営を支えるものなので、何らかのタイミングで見直しすることをおすすめします。
まとめ
会社設立時の就業規則の作成は大仕事ですが、就業規則の改定もまた慎重に行うべき重大な作業です。時代に即した内容且つ会社の実態に合わせた就業規則にするためには、押さえるべきポイントや要素を盛り込んだ意味のある就業規則にしなくてはなりません。
私たち日本就業規則診断士協会では、就業規則の作成に関する様々なサポートを行っています。クライアント企業様の理念やビジョンを共有し、就業規則の意味合いを一緒に考え、就業規則の言語化をお手伝いします。
就業規則を整えるメリットは、在職中の社員に対しても求職者に対しても、「きちんとした会社であること」をアピールできることです。会社のさらなる発展のために、ぜひ就業規則を見直してみてはいかがでしょうか。