管理職として働いている従業員が割増賃金を請求してきました。この従業員に対しては労働時間の管理も行っておらず、管理職手当も支給しています。割増賃金を支払う必要はないと思うのですが、問題はありますか?

管理監督者

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回答

労働基準法上の管理監督者に該当するのであれば、割増賃金(時間外)を支払う必要はありません(労働基準法第41条)。
これは、管理監督者は、労働時間規制を超えて業務を行う経営上の必要性があり、規制がなくとも保護に欠けることはないと考えられているためです。
*ただし、管理監督者でも深夜労働に対しては、割増賃金(深夜労働)を支払わなければいけません。

問題は、この従業員が労働基準法上の管理監督者に該当しているのかどうかになります。
労働基準法の管理監督者に該当するか否かは、次の3点を基準に総合的に判断します。

  1. 経営者と一体的な立場で仕事をしているか?
  2. 出社や退社の時間、勤務時間に関して会社から厳格に規制・管理されていないか?
  3. 管理監督者にふさわしい待遇(賃金額など)があるか?

今回のケースで言えば、2は満たされているように思われます。
しかし、それだけでは必ずしも労働基準法上の管理監督者に当たるわけではないということに注意してください。

上記3点の判断基準については、下記解説をご参照ください。

解説

時間外・休日労働に関するルール

管理職には割増賃金(時間外)を支払わなくて良いという考えが浸透していますが、その根拠条文は労働基準法第41条です。

労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外) 

この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

1 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者

2 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

3 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

ただし繰り返しになりますが、管理監督者に対しても、深夜の割増賃金の支払いは必要です。
労働基準法では、第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)において、労働時間に関する規制と深夜業に関する規制を明確に区別しています。
一方で、上記労働基準法第41条において、管理監督者に対して「労働時間、休憩及び休日に関する規定」は適用しないとしています。

つまり、労働基準法第41条は、管理監督者に「労働時間、休憩及び休日に関する規定」だけを適用しないと言っているというのがポイントです。

なお、時間外労働分(25%)を払う必要はなく、支払わなければいけないのは深夜割増部分 (25%)だけです。
管理職といえども、所定労働時間は決まっているわけで、この所定労働時間を基準に割増賃金額を計算します。

管理監督者性の判断

上記回答で挙げた3項目について詳しくみていきましょう。

①経営者と一体的な立場で仕事をしているか?

この点について、行政機関による説明と判例では下記のように異なっています。

厚生労働省などの行政機関による説明

労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していなければ、管理監督者とは言えません。

労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
労働条件の決定その他労務管理について、経営者と一体的な立場にあるというためには、経営者から重要な責任と権限を委ねられている必要があります。
「課長」「リーダー」といった肩書があっても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、多くの事項について上司に決裁を仰ぐ必要があったり、上司の命令を部下に伝達するに過ぎないような者は、管理監督者とは言えません。

厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」

判例

判例(セントラルスポーツ事件(京都地判平24年4月17日))では、下記のように経営全般の意思決定に関われるかどうかまでを基準にしています。

  • 職務内容が少なくとも、ある部門全体の統括的な立場にあること
  • 部下に対する労務管理などの決定権などにつき一定の裁量権を有し、部下に対する人事考課、機密事項に接していること

上記行政解釈や判例を参考にすれば、従業員を管理監督者として雇用する際には、

  • 経営に関する重要会議に当該管理監督者は参加しているかどうか?
  • 当該管理監督者に決算資料を見せられるかどうか?
  • 業務内容について、当該管理職と非管理職とは明らかに異なっているか?

といった質問を、経営者自身が自問自答することも有効でしょう。

②出社や退社の時間、勤務時間に関して会社から厳格に規制・管理されていないか?

この項目については、行政解釈も判例も大差はありません。

重要なことは、タイムカードを記録しているかどうかだけで判断するものではないということです。

タイムカードを記録していても、健康管理のために利用することもあり、労働時間の裁量があればこの項目はクリアとなり得ます。
一方で、タイムカードを記録していなくても、労働時間の裁量がないとなれば、この項目はクリアしていないことになるのです。

③管理監督者にふさわしい待遇(賃金額など)があるか?

この点についても行政解釈と判例に大差ありません。

端的に言えば、管理職に相応しいレベルに、非管理職の従業員と比べて金銭的に優遇されているかどうかということになるでしょう。

管理監督者をめぐるトラブルを未然に防止するには

今回のケースのように、管理監督者をめぐる労務トラブルは非常に発生しやすいものです。

まず経営者の方々にお伝えしたいのは、管理監督者として働いて欲しい理由を明確にした方が良いということです。

もしも残業代を払いたくないという理由だけで、管理監督者として働いてもらいたいのであれば、遅かれ早かれ管理監督者をめぐる労務トラブルが発生してしまうでしょう。

管理監督者に対して時間外労働などの規制が及ばないのは、長時間労働をさせやすくするためではありません。

上記適用除外の趣旨について、行政通達では下記のように述べています。


これらの職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動すること
が要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじま
ないような立場にある者に限って管理監督者として法第41条による適用の除外が認められる趣旨であ
ること。したがって、その範囲はその限りに、限定しなければならないものであること。

昭和63.3.14 基発150号

管理監督者という働き方を導入する理由が、上記趣旨に沿ったものであることが最低限必要です。

そして、実際に管理監督職として働いてもらうのであれば、その働き方について、しつこいくらいに事前に丁寧に説明することをお勧めします。

関連判例

「名ばかり管理職」や「名ばかり店長」といった言葉は多くの方の記憶にあるかもしれません。
このような言葉に象徴されるように、管理監督者の処遇をめぐる労務トラブルは非常に多いのが実状であり、判例も豊富です。

下記サイトや資料では、豊富な判例についてコンパクトに要点がまとめられています。