実際に業務災害が起きたかどうかに関係なく、安全衛生教育を怠れば、安全配慮義務違反になります
第63条(安全衛生教育)
1 労働者に対し、雇入れの際及び配置換え等により作業内容を変更した場合、その従事する業務に必要な安全及び衛生に関する教育を行う。
2 労働者は、安全衛生教育を受けた事項を遵守しなければならない。
条文の目的・存在理由
安全衛生教育は、業務災害を未然に防ぐために重要であり、これを怠れば安全配慮義務違反にもなってしまいます(実際に業務災害が起きたかどうかは関係ありません)。下記のようなサイトを参考にしながら、安全衛生教育を実効性のあるものにしていく必要があります。
職場のあんぜんサイト(厚生労働省) https://anzeninfo.mhlw.go.jp/index.html
安全衛生教育には、「雇入時・作業内容変更時の教育」、「特別教育種」、「職長教育」の3種類があります。
*「特別教育」と「職長教育」は、労働者の業務内容や会社の業種によっては実施しなければいけない教育です。
この安全衛生教育に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項です。
一方で労働安全衛生法第59条で、あらゆる業種及び労働者に対する安全衛生教育(「雇入時・作業内容変更時の教育」)が会社に義務付けられています。そのため、実質的には記載は必須でしょう。重要なポイントは下記の通りです
教育しなければいけない事項について
労働安全衛生法規則第35条(雇入れ時等の教育)では、下記の通り教育しなければいけない事項を規定しています。
①機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱いに関して
②安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱いに関して
③作業手順に関して
④作業開始時の点検方法に関して
⑤当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関して
⑥整理、整頓(とん)及び清潔の保持に関して
⑦事故時等における応急措置及び退避に関して
⑧そのほか当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項に関して
*労働安全衛生法施行令第2条3号で規定する「その他の業種」の事業場では、①〜④を省略することが出来ます。
また、上記各項目において十分な知識及び技能を有していると認められる労働者には、当該事項についての教育を省略することができます。
特別教育について(労働安全衛生法第59条第3項)
「事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない」
と規定されています。この特別教育を実施した際は、受講者名や科目等の記録を作成し、この記録を3年間保存しなければいけません。
職長教育について(労働安全衛生法第60条)
「事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない」
と規定されています。実施が義務付けられている業種は下記の通りです。(労働安全衛生法施行令第19条)
①建設業
②製造業(次に掲げるものを除く)
・食料品・たばこ製造業(うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業を除く)
・ 繊維工業(紡績業及び染色整理業を除く)
・ 衣服その他の繊維製品製造業
・ 紙加工品製造業(セロフアン製造業を除く)
・ 新聞業、出版業、製本業及び印刷物加工業
③電気業
④ガス業
⑤自動車整備業
⑥機械修理業
*教育内容は、上記①建設業と、②〜⑥の業種で内容が異なっています。詳しくは厚生労働省令に明記されている教育事項と教育時間をご覧ください。
*建設業における職長の再教育について
「安全衛生教育等推進要綱(平成3年1月21日付け基発第39号別添)では、 職長等、安全衛生責任者のそれぞれについて、事業者が、初任時及び概ね5年ごと又は機械設備等に大きな変更があったときに、能力向上教育に準じた教育を受けさせるよう求めています 」
厚生労働省ウェブサイトより引用 「建設業における職長等及び安全衛生責任者の再教育」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000152296.html
派遣労働者の教育について
雇入時の教育は派遣元の事業者に、作業内容変更時の教育は派遣元と派遣先の事業者双方に実施が義務付けられています。
また特別教育と職長教育は、派遣先の事業者に実施が義務付けられています。
安全衛生教育の実施に要する時間について
安全衛生教育を実施する時間は、労働時間に当たります。したがって安全衛生教育が時間外労働として行われた場合、割増賃金の支払が必です。
リスク
この条文に関するリスクはありません。
改善案
この条文に関する改善案はありません。
参考判例
アイシン機工事件 名古屋高判 平成27年11月13日
事件概要
労働者A(原告)はブラジル人で、派遣労働者としてアイシン機工の工場で働いていた。
労働者Aは工場での作業中に、機械の誤操作により右手薬指切断の傷害を負った。
そのため労働者Aは、派遣元とアイシン機工に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した。
第一審が、派遣元に対する請求は棄却され、派遣先であるアイシン機工に対する請求は、賠償請求金額の一部の支払いが認められた。
その結果を踏まえて、労働者Aとアイシン機工双方が控訴した。
就業規則との関係において
原審とは異なり、労働者Aの請求は棄却され、アイシン機工の勝訴となりました。
判決では、アイシン機工の日頃の安全教育が十分に実施されたことを重要視した結果、アイシン機工の安全配慮義務違反を認めないこととなりました。
判決のポイントは下記の通りです。
・労働者Aの受け入れ時に、ポルトガル語訳が記載されたテキストを用いて安全教育が実施されていた。上記テキストでは、
◯異常が生じた際には、機械を止め、上司を呼び、上司を待つこと
◯動いているものや動こうとするものには手を出してはならないこと
などが安全三訓として強調されていた。
更にテキスト内容の理解度を試すテスト(全問正解で合格)も実施されていて、労働者Aは2回目のテストで合格していた。
・工場のラインに配属された後も、毎日の業務開始時に安全三訓を唱和させていた。
・ポルトガル語を話せる監督者はその場にいなかったが、安全三訓の内容自体は簡単なものだった。さらに上記受入れ時の安全教育やテスト等を通じて労働者Aは十分理解していた。
したがって、機械操作時に機械内部に手を入れないよう指示指導する義務や、機械のトラブルが生じた場合に上司を呼ぶよう指示指導する義務を、会社が怠ったとはいえない。

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