第12章 表彰及び制裁 第67条 懲戒の種類

あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておかなければ、懲戒処分できません

第67条 (懲戒の種類)
会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。

①けん責
始末書を提出させて将来を戒める。

②減給
始末書を提出させて減給する。
ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。

③出勤停止
始末書を提出させるほか、_日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。

④懲戒解雇
予告期間を設けることなく即時に解雇する。
この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

条文の目的・存在理由

懲戒処分とは、会社秩序に違反した労働者に対し、一方的に不利益な取扱いを下す制裁罰です。
この「懲戒の種類」は、モデル条文第66条(懲戒の事由)と併せて、労働者に懲戒処分を行うのに必要となる条文です。
就業規則の相対的必要記載事項ですが、下記で述べる通り懲戒処分を行うのに必ず必要となる条文であるため、実務上は記載は必須でしょう。

懲戒処分の法的根拠と行使要件について

判例では、会社は社内秩序を維持する権限を当然に有していると認めています。
そのため、会社の秩序維持義務を労働契約上負っている労働者が、秩序違反行為を行った場合、それに対して会社は懲戒処分をできるとされています。
そして最も重要なこととして判例は下記のように述べています。

会社は秩序を維持する権限を当然に有しているが、その権限を行使するには、

「あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要する」

(フジ興産事件 最高裁判所第二小法廷判決 平成15年10月10日)

懲戒処分に関する権利濫用について

あらかじめ就業規則に懲戒の種類と事由を定めておけば、会社は自由に懲戒処分をできるというわけではありません。
労働契約法第15条では下記の通り会社の権利濫用を戒めています。

労働契約法第15条(懲戒
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

懲戒処分の種類

上記モデル条文に記載されていない主な懲戒処分は下記の通りです。

・戒告

 書面や口頭によって厳重注意を行い、労働者の将来を戒める処分。
 日常業務において行われる注意や指導などと区別がつきにくいため、就業規則に記載していない会社も多くあります。

・降格処分

 役職や職位もしくは職能資格を引き下げる処分

・論旨解雇

期限を設けて労働者に退職願の提出を促し、提出があれば退職扱いとする処分。もしも提出がない場合には懲戒解雇とします。
会社秩序維持義務違反が大きいものの労働者の反省が見られる場合などに下されることがある処分です。
端的にいうと、懲戒解雇よりも若干処分が軽減されたものになります。

似た言葉として「論旨退職」がありますが、これは退職願の提出を促す点は論旨解雇と同じですが、あくまで自己都合退職と同じ位置付けになります。

注意点

懲戒解雇、論旨解雇、論旨退職、それぞれ処分の度合いが異なります。
一方で退職金の支給有無や減額等の判断基準は、退職金規程等の基準に従うことになります。
もしも退職金の支給をめぐって裁判にまで発展した場合は、個別具体的に判断されることになります。
懲戒解雇だから退職金不支給、論旨解雇だから減額して良いというものではありません。
懲戒解雇でも退職金不支給は違法と判断されることもあります。

減給制限について

上記モデル条文②「減給」に記載されている制限は、労働基準法第91条に規定されています。以下の2点は、この制限に該当しません。

・出勤停止期間中の無給期間が原因で制限を超えたとしても、ノーワーク・ノーペイの原則から無給になっただけです。
したがって減給制限に抵触しません

・職務変更が原因で給与が下がったとしても、それは職務変更に伴うものです。減給制限に該当しません。
例)使用者が、交通事故を起こした自動車運転手を制裁として助手に格下げし、賃金も助手のそれに低下させる場合(昭和26.3.14基収518号)

リスク 

この条文に関するリスクはありません。

改善案

改善案はありませんが、戒告や降格処分を記載例は下記の通りです。

 戒告
  始末書を提出させずに将来を戒める。

 降格処分
 始末書を提出させ、将来を戒める。また、役職の引下げ及び資格等級の引下げのいずれか、あるいはその双方を行う。 

 論旨解雇
 退職願の提出を勧告する。会社が定めた期限までに提出しない場合は、懲戒解雇とする。

参考判例

この条文に関する判例はありません。懲戒処分をめぐる判例は、懲戒の事由に関連するものであるため、第66条「懲戒の事由」で扱います。

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