第12章 表彰及び制裁 第68条 懲戒の事由

「懲戒の事由」の内容について、労働基本法上の制限はありません。
しかし労働契約法第15条では懲戒権の濫用を戒めていることから無制限というわけではありません。

第68条 (懲戒の事由) 

労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

① 正当な理由なく無断欠勤が_日以上に及ぶとき。

② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。

③ 過失により会社に損害を与えたとき。

④ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。

⑤ 第11条、第12条、第13条、第14条、第15条に違反したとき。

⑥ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。

2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

①  重要な経歴を詐称して雇用されたとき。

②  正当な理由なく無断欠勤が_日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。

③ 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し_回にわたって注意を受けても改めなかったとき。

④  正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。

⑤  故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。

⑥ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。

⑦  素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。

⑧ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。

⑨   第12条、第13条、第14条、第15条に違反し、その情状が悪質と認められるとき。

⑩   許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。

⑪ 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。

⑫ 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。

⑬ 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。

⑭  その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。

条文の目的・存在理由

懲戒処分の対象となる行為と懲戒処分の程度を明記するための条文です。
就業規則の相対的必要記載事項ですが、懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則に懲戒の種類及び事由を記載しておかなければいけません。
したがって実務上は記載は必須です。

「懲戒の事由」の内容について、労働基本法上の制限はありません。
しかし労働契約法第15条では懲戒権の濫用を戒めていることから無制限というわけではありません。

懲戒の事由に関して重要なポイントは下記の通りです。

懲戒の事由に関する留意点

・秩序維持義務違反が起きた場合、就業規則の文言だけでなく、過去の同種事例における処分内容等を考慮する必要があります。
 なぜなら懲戒事由とそれに対する懲戒処分が、過去の事例と比べてアンバランスである場合は、労使間トラブルに繋がりやすいためです。

 なお上記モデル条文第2項に、情状酌量によって処分を軽くできる余地を残しています。
 しかし、あまりにも軽減の程度が大きい場合は、他の労働者の不公平感や不信感が生じるため注意が必要です。

・労働者のある行為に、その行為に関する懲戒事由を就業規則に定めたとしても、その行為が行われた時点までさかのぼって懲戒処分をすることはできません。

・1回の懲戒事由に該当する行為に対して、2回以上懲戒処分を行うことはできません。

・懲戒処分の決定に際し適正な手続きが行われることが、処分の妥当性確保にプラスに働きます。
 したがって会社規模にもよりますが、懲戒処分決定の手続きを明確化し、就業規則に記載すると良いでしょう。

リスク 労働者の弁明の機会について 

前述の通り、懲戒処分決定の適正な手続きが行われることが、労使間トラブル発生のリスクを下げます。
そして、適正な手続きの中で最も重要なことは、秩序義務違反を起こした労働者本人に弁明の機会を与えることです

労働者本人に納得がいかない点等が残ったままでは、労使間トラブルに発展する可能性が高まります。
少なくとも懲戒解雇といった重い処分を下す場合には、本人の弁明の機会があることを就業規則に明記した方が良いでしょう。

リスク② 損害賠償との関係について

就業規則モデル条文では損害賠償に関する項目がありません。
しかし、多くの会社では、労働者の故意または過失により会社が損害を受けた場合、会社が損害賠償を請求することがある旨の規定を設けています。

懲戒処分になったからといって損害賠償を免れることができない旨を規定した方が良いでしょう。
損害賠償がありうることを明記することで、秩序維持義務違反行為を抑止する効果も期待できます。

改善案

第66条 (懲戒の事由) 
労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
① 〜⑥ 省略

2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。なお懲戒解雇に該当する可能性があるときは、当該労働者に対し、弁明の機会を付与する。
①〜⑭  省略

第〇〇条 (損害賠償)
会社は、労働者が故意または過失によって会社に損害を与えたときには、当該労働者に対して、その全部または一部の損害賠償を求めることがある。なお当該労働者が懲戒処分を受けたことによって、その損害の賠償を免れるものではない。

参考判例

ダイハツ工業事件 最二小判 昭和58年9月16日

事件概要

労働者A(原告)は、政治デモ活動ににおいて逮捕・勾留された。
不起訴処分で釈放されるまで約3週間、勤務先会社(被告)では労働者Aの代替要員で業務が行われていた。
その後下記3つの事案において懲戒処分がなされた。

① 第一次出勤停止処分
釈放された労働者Aは、会社からの、欠勤についての事情聴取に応ずる命令と自宅待機命令に従わずに強行就労しようとしたことに対して

② 第二次出勤停止処分
①の出勤停止の不当性を訴えるビラを出勤停止期間中に会社構内で配布したことに対して
*ビラの内容には会社経営方針、労務政策一般を過激な表現で非難するものも含まれていた。

③懲戒解雇
第二次出勤停止完了後、労働者Aは無期限の自宅待機命令を受けた。それを不満として会社に押しかけ強行就労しようとして警備員に暴行を加えて傷害を負わせた。これら一連の行為に対して

労働者Aが、上記3つの処分は、懲戒権の濫用にあたり無効であるとして出勤停止処分無効と従業員として地位の確認等求めた事件

就業規則との関係において

第一審と第二審において、上記②第二次出勤停止処分、③懲戒解雇については処分無効となりました(①第一次出勤停止処分は有効)。
しかしこの最高裁判決では、今回の懲戒処分はいずれも懲戒権の濫用ではないとし、会社側の勝訴となりました。
真逆の判断となったため下記ではそれぞれの判断理由を紹介します。

第一審と第二審判決
②第二次出勤停止処分について

・ビラ配布の行為については、就業規則の懲戒処分事由として規定されていない。

・警備員等ともみ合いになりながらも強行就労したを試みた行為は、第一次出勤停止処分と「第一次出勤停止処分の対象となつた一連の行為とその目的、 態様等において異なるところはなく、その続きにすぎないから、本件第二次出勤停止処分は不当に苛酷な処分出会って無効である。」

③懲戒解雇について(太字は筆者による)

・会社は「本件第二次出勤停止処分の期間が満了するにもかかわらず合理的理由のない自宅待機命令を発し、いたずらに被上告人の反発を助長したものであつて、被上告人が昭和46年12月の自宅待機命令、本件第一次、第二次出勤停止処分に引き続き就労を拒否されたことに焦燥を感じ、強行入構を図り本件懲戒解雇の対象となつた行為に及んだとしても、あながち被上告人を一方的に非難することは相当でなく同情の余地がある

・ベルトコンベアが停止したことによる被害は軽微である。

・警備員の怪我については大したものではなく、もみ合っているうちに発生した偶発的なものである。

・労働者Aは、判断能力が未熟な未成年者であった。

最高裁判決 
②第二次出勤停止処分について(太字は筆者による)

「本件第二次出勤停止処分をみると、その対象となつた昭和46年12月18日及び同月19日の行為は、本件第一次出勤停止処分前の所為であり、しかも本件第一次出勤停止処分の対象となつた一連の就労を要求する行為とその目的、態様等において著しく異なるところはないにしても、より一層激しく悪質なものとなり、警士が負傷するに至つていることと、被上告人(労働者A)は本件第一次出勤停止処分を受けたにもかかわらず何らその態度を改めようとせず、右処分は不当で承服できないとしてこれに執拗に反発し、その期間中D工場の門前に現れて右処分の不当を訴えるビラを配布するという挙に出たこととを併せ考えると、本件第二次出勤停止処分は、必ずしも合理的理由を欠くものではなく、社会通念上相当として是認できないものではないといわなければならず、これを目して権利の濫用であるとすることはできない。」

③懲戒解雇について(太字は筆者による)

「被上告人(労働者A)は、職場規律に服し、上告人(会社)の指示命令に従い、企業秩序を遵守するという姿勢を欠いており、自己の主張を貫徹するためひたすら執拗かつ過激な実力行使に終始し、警士の負傷、ベルトコンベアの停止等による職場の混乱を再三にわたり招いているのであつて、その責任は重大であるといわなければならない。」

「自宅待機命令が必ずしも適切なものではなく、被上告人(労働者A)が右命令は不当なものであると考えたとしても、その撤回を求めるためには社会通念上許容される限度内での適切な手段方法によるほかはないのであつて、被上告人(労働者A)の行為は企業秩序を乱すこと甚だしく、職場規律に反すること著しいものであり、それがいかなる動機、 目的の下にされたものであるにせよ、これを容認する余地はない。

「実力をもつてしてもあくまで就労しようと試みる被上告人(労働者A)と、これを阻止しようとする警士らとの間でもみ合いとなるのは必然的な成り行きであつて、その過程で警士が負傷する可能性のあることは被上告人(労働者A)にも当然予見できたことといわなければならない。」

「被上告人(労働者A)は、一人前の労働者として就職し、またそのように処遇されているのであるから、懲戒処分の面においても未成年者であることを特に斟酌すべきいわれはない。また、原審の確定する被上告人の一連の行動に照らすと、本件懲戒解雇の対象となつた被上告人(労働者A)の行為は、思慮が定まらないがゆえのものであるとは認められないし、将来そのような行動が改められる見込みがあるとも推断し難い」

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