第13章 公益通報者保護 第69条 公益通報者の保護

内部通報制度がしっかり機能していれば、会社内で自浄作用がなされ、大きな不祥事を未然に防ぐことも期待できます

第69条 (公益通報者の保護)

会社は、労働者から組織的又は個人的な法令違反行為等に関する相談又は通報があった場合には、別に定めるところにより処理を行う。

「公益通報」の定義については、下記の通り定義されています。

公益通報者保護法 第2条(定義)
この法律において「公益通報」とは、労働者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、その労務提供先について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、下記に対して通報することをいう。
①当該労務提供先 
②若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者 
③若しくは勧告等をする権限を有する行政機関 
④又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者 

そのほかの公益通報に関する重要ポイントについては、消費者庁作成の「公益通報ハンドブック」にうまくまとめられています。

「公益通報ハンドブック」消費者庁作成https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/pdf/overview_190628_0001.pdf

条文の目的・存在理由

労働者からの通報(内部告発)をきっかけに、国民生活の安心や安全を損なうような会社不祥事が明るみになることがあります。
しかし公益通報をした労働者が、解雇などの不利益な取扱を受ける恐れがあれば、公益通報が行われなくなります。
そのため公益通報者保護法が平成18年4月に施行されました。施行の狙いには、下記があります。

・労働者が萎縮することなく、会社の法令違反行為を通報できるようにする。
・会社がコンプライアンス(法令遵守)経営を強化できるようにする。

「公益通報者の保護」は就業規則の相対的必要記載事項ですが、法定事項です。
したがって就業規則には内部通報処理規程に委任する形式で記載した方が良いでしょう。

内部通報制度がしっかり機能していれば、会社内で自浄作用がなされ、大きな不祥事を未然に防ぐことも期待できます。
そのように考えれば、「公益通報者の保護」は、会社が健全経営に向けて積極的に取り組むべき事項と言えます。

なお消費者庁において下記の通り、モデル規程が示されています。

公益通報と懲戒処分の関係について

①内容が真実であるか、結果的に真実ではなくとも相当な理由に基づくものであるなどの要件を満たした公益通報は、公益通報者保護法上の法的保護を受ける正当な告発となります。(要件についてはリスク項目を参照ください)

②正当な公益通報を理由とした懲戒処分は無効であり、会社は不法行為に対する損害賠償を請求される可能性があります。

リスク 

この条文自体にリスクはありません。
しかし、実際の運用に当たっては、公益通報先をどこにするかが非常に重要です。
なぜなら会社の社会的信用の維持や企業秘密の漏洩防止も、会社にとって重要であるためです。

したがって内部通報制度を会社にとってより良いものとするためには、下記のような通報を防ぐ必要があります。

①私的恨みや不正の目的を動機とした通報
②適正な告発ではあるが、会社を経由しない行政期間やマスコミなどへの通報

公益通報者保護法上は、②のような通報を禁じてはいません。
しかし、外部団体に直接通報する前に、内部部署(社内専用窓口等)に通報すべきことを規定することは可能です。

また、同法では公益通報をした者が保護されるための要件を、通報を受ける相手が誰かによって区別しています。
つまり通報の態様によっては、公益通報者保護法上の法的保護を、労働者が受けられないこともあるということです。

「公益通報ハンドブック」消費者庁作成 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/pdf/overview_190628_0001.pdf より引用


なお上記「内部通報制度に関するモデル内部規程」では、通報窓口について下記のように規定されています。

改善案

改善案はありません。

参考判例

大阪いずみ市民生協事件 大阪地判 平成15年6月18日

事件概要

生協に勤務する労働者ら(原告)が、総代(組合員のうち、最高議決機関である会議に出席するために選ばれた代表者)に対し公益通報を行った。
内容は、生協の副理事長や専務理事ら(被告)が生協を私物化しているというものだった。
労働者ら(原告)は、業務時間中に生協の内部資料を他職員の私物から無断で持ち出し、これをコピーすることで告発していた。
その後、被告らは労働者ら(原告)に対し、懲戒解雇などの懲戒処分を行った。
労働者らは名誉を侵害された旨を主張し、被告らに対し不法行為による損害賠償を請求した事件。

就業規則との関係において

労働者らの主張が認められ、労働者側の勝訴となりました。
他人の私物から無断で資料を持ち出すなどの行為については、告発の手段として問題があるとしながらも、本件内部告発自体を不相当なものとするものではないとしました。

内部告発(公益通報)については下記のように述べています。(太字化は筆者による)

「内部告発は、これが虚偽事実により占められているなど、その内容が不当である場合には、内部告発の対象となった組織体等の名誉、信用等に大きな打撃を与える危険性があるが、一方で、これが真実を含む場合には、そうした組織体等の運営方法等の改善の契機ともなりうる。また、内部告発を行う者の人格権ないしは人格的利益や表現の自由等との調整も必要である。それゆえ、内部告発の内容の根幹的部分が真実ないしは内部告発者において真実と信じるについて相当な理由があるか、内部告発の目的が公益性を有するか、内部告発の内容自体の当該組織体等にとっての重要性、内部告発の手段・方法の相当性等を総合的に考慮して、当該内部告発が正当と認められた場合には、当該組織体等としては、内部告発者に対し、当該内部告発により、仮に名誉、信用等を毀損されたとしても、これを理由として懲戒解雇をすることは許されないものと解する。

今回の事案では、労働者の公益通報の正当性が認められましたが、下記のように事案によっては認められなかったケースもあります。

告発の目的が正当性を有しないとされたケース

社長失脚を目的に、社外秘の情報をマスコミに漏洩した行為(千代田生命事件 東京地方裁判所判決 平成11年2月15日)


告発の手段・方法の相当性が否定されたケース

不正摘発目的に、労働者らが顧客の信用情報を取得等した行為(宮崎信用金庫事件 宮崎地方裁判所判決 平成12年9月25日)

この判決では、公益目的の告発の手段について下記のように述べています。

「(会社内部の不正を正すという目的)を実現するための手段までが当然に正当となることはない」

「(会社内部の不正を正すという目的)実現には社会通念上許容される限度内での適切な手段方法によるべき」

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